魔術。
ゲーム、『デュランの魔術師』の中で、魔術師の系統は四種類ある。
一つは精霊に愛されし子が使う、精霊魔術。
そして一般的なのが体内に蓄積させた魔力で、擬似的に精霊の力を再現させる魔術。
三つめは、魔法陣や古代の儀式を用いて行う、聖魔術。
最後にゲームの主人公だけが使える…『日本語』魔術だ。
この世界の言語は、当然日本語じゃあない。
けれどうっかり召喚された主人公は、世界の壁を越えたことで魔術師体質になるのと同時に…魔法陣によって翻訳の魔術がかかる…それに魔力を発現させなければ、魔術は扱えないから…最初は本当に誰も気づかないのだが……
この世界設定では、神の言葉が『日本語』なのだ。
この世界の言語を元にした術式を描くよりも…『日本語』を描いた方が『世界』は魔術現象を再現しやすい、なにせ神の言葉だからだ。
正し純粋なデュラン人には、どんなに頭が良くても神の言葉は理解出来ないし覚えられないから、主人公だけが使える魔術だった。
………それがゲーム設定だった。
そして、現実のこの世界にも、それは適用されていたらしい。
…主人公だけの魔術では、なくなっちゃったけどね…
何とか発現させることに成功した俺は、庭の草に水やりをしたような状態の『水の飛礫』に、嬉しかったけど苦笑して、ちょっと試してみちゃったのだ。
そう、『日本語』を。
結果が目の前の惨状である。
庭は跡かたも無く抉れて、結構沢山の池が出現していた。
……いや、現状出現し続けている。
ドドドドドォンという音は止まらない。
硬直した俺の指先では、俺が魔力を発現させて描いた『水の飛沫』という『日本語』が消えずに存在している。
普通の魔術なら、何もしなくてもすぐ消えるのに。
慌てて手を振って、ソレを消すと…やっと術は止まってくれた。
何があったのかと、使用人の人達が転がるようにして駆けてくる。
誕生日にリュウとちょっぴり和解?してから、三日目…発現のコツをなんとか掴んだ俺がやらかした、最初の事件だった。
俺は椅子に座らされて、しょぼーんと小さくなっていた。
目の前には騎士リュースとリュウ、リラックもさっき来ていたのだが、庭の惨状を見て俺に事情を一通り聞いてから頭を押さえて一旦戻っていった。
「ごめんなさい、庭…ぐちゃぐちゃにしちゃって…」
リュースは頭を撫でながら首を傾げた。
「しかしリュウ、この子も精霊に愛されし子なのかい?」
リュウはリュースの質問に首を振った。
「特別についている精霊はいない…闇と炎の祝福は受けてるけど」
「ああ、シャルって子の精霊だね」
「今、リラックが塔の最高権力者をつれてくる。そうしたらリュクヤの力の理由も分かるかも」
「え」
俺は固まった。
ゲーム世界で、塔の最高権力者といえば時の精霊という特別な精霊に愛されし子…で、身体年齢自由自在のショタジジイ。銀の髪に銀の目で妖精のように可憐な容姿でありながら、塔一のエロジジイ・セクハラジジイである。
攻略可能キャラの中で、一番のテクニシャンで可愛い男の子ハーレムを作っている節操無しだ。
こ、こぇえええっ
恐ろしさに震えていると、俺の怯えをどうとったのか、リュウまで頭を撫でてくれた。
「そんなに怖がることはない、権力者といってもそう理不尽な人物ではないしな」
リュウの言葉にぎこちなく頷く。
俺がこの世界で恐ろしいのは、節操の無いホモなのだ。
娼館性奴隷コース
魔物・触手凌辱コース
三流冒険者・または盗賊団達による輪姦コース
そして、時の精霊に愛されし子のハーレム入りとか、炎の精霊に愛されし子の取り巻き玩具コース
そのフラグだけは回避したいのに。
うわーんっ、試しになんて軽くやるんじゃなかったぁっ
俺は半泣きで、リュウの服の裾を握った。
頼れるのは、対抗出来る同じ精霊に愛されし子だけだ。
身分的に言えば、塔の最高権力者は国の国王と同等の関係なのだから。
日本語・この世界では神の言語であり、容易に世界に影響を及ぼす。
その危険さゆえか、この世界の住人はどんなに頭が良くて、分かりやすく教えられても理解することは勿論覚えることも、文字の形すら再現することは出来ない。
しかしリュクヤは覚えていられたようだ。