兄弟。
さて、リュウの容姿を改めて説明しておこう…金茶の髪に琥珀色の目だ。精霊に愛されし子は、髪や目の色が精霊の属性に染まりやすい…と、いうのがゲームの設定だった。
魔術師体質は基本容姿が優れているので、親兄弟とはあまり似ない。
勿論俺も…なんだが、容姿が優れている感覚は薄い。
なにせ何だか……前世と似通った顔立ち、色合いなのだ。
だから、リュウともあまり似ていない。
しかし、あの夜から…初めての二人きりである。
俺は悩みながら、リュウを見上げた。
リュウも無言で俺を見下ろす。
暫くして、口を開いたのはリュウだった。
「お前、何を考えている?」
「え?なんて呼べばいいのかなぁ?とか?」
聞いた話では、現在リュウは前世の俺(死亡時?)と、同い年の十七歳だ。
兄さんと呼んでいいのか迷う。
ゲーム設定では二十五歳で魔法騎士にはなってなかった…病気にかかるのが、十九歳の時だからだ。
そのせいか、現状でも年上という意識があって、名前で呼ぶのもどうかと思うのだ。
病気は…発病してから七年で死ぬという病だった。
騎士リュースはリュウが発病してから、唯一の治療法以外の方法を探して……三年で死んでしまう。
まぁ、この世界では大丈夫だろうけど。
なんつーか、ゲームでも理不尽だと思っていたんだよね。
…純粋に好きだった両親に、どうでもいい物のように売られ、訳の分からないまま凌辱の日々を経験…親に捨てられたショックと知識の無さが重なって、精霊はギリギリまで動けなかった状態で…どれくらい過ごしたのかは知らない。
騎士リュースに引き取られてから、やっとまともに幸せを感じられるようになり
復讐もして………
まるで復讐を咎めるかのような病気にかかるって、とこが。
最後まで、リュウは赤ん坊以外を殺したことは、悔いてなかった…そこの所は俺的には好印象で、絶対主人公が病を癒すハッピーエンドがあるはずと思っていたのに、無くて、それも納得出来なかった。
姉じゃないけど、俺も基本的に報復は三倍返しが主義だし。
だから、まあ…この世界では騎士リュースと幸せになってもらいたいものだ。
…主人公、現れたらどうなるのか分からんが。
とりとめのないことを考えていたら、リュウは目を丸くしていた。
「お前、……俺のことが怖くないのか?」
「へ?」
「お前は変だな…死にかけている時から、自分より赤ん坊を心配していた…聞けば、産まれていたのも知らなかったそうなのに」
「そうかな?全然知らない赤ちゃんでも、誰かに殺されそうなのを見たら、やめろーって叫ぶと思うけど?」
リュウは喉の奥でククッと笑った。
「お前の兄達は、全員自身の命乞いはしたが、妹の命乞いはしなかったぞ?」
リュウの指がするりと伸ばされ…俺の顎を上向けるように添えられた。
「お前か、妹…どちらかを殺そうかと、今言ったら…お前はどうする?」
冷やかな眼差しが、俺を写していた。
「うーん…どうもしないかな?」
「ん?」
「だって、兄さん今は俺も妹も、殺す気無くなってるだろ?」
思わず笑みを浮かべた。
「光の精霊があったかくて、キラキラしてる。優しい光を振り撒かれながら脅されても、怖いなんて思えないよ」
殺されかけたことも、恨みはほとんどない。
結局殺されなかったし、妹だって生きてる。
あの夜、父親や死体達は気持ち悪くて怖かったけど、冷やかにそれらを見ていた青年を…怖いとは、なぜか感じなかったのだ。
そう笑いながら言ったら…無表情だったリュウは、なぜだか思いっきり真っ赤になった。
「……お前、信じられない……」
「あ、兄さんって呼ばれるの嫌だった?」
首を傾げた俺に、しゃがみこんで両手で顔を覆ったリュウは「別に…お前なら、いい」と、許可をくれた。
そして、リュウは懐から小さい袋を取り出して、差し出してくれた。
「やる、誕生日だろ」
「え」
小さな袋の中には、丸い飴玉が二つ入っていた。
「飴?凄い、誕生日プレゼント、うれしい…」
そう使用人の二人が、こっそりくれようとして…長男に取り上げられて捨てられた時のことを思い出して、ちょっと感激した。
あの時も、二人が用意してくれたのは飴玉だった。
俺の空腹が、少しでも長くまぎれるように…と。
捨てられて踏み砕かれたソレらも思い出して、ちょっと涙ぐんでしまった。
「いや……まぁいいか……甘くない飴だが、空腹は薄れるから我慢出来ない時までとっておけ」
ぐりぐりっと頭を撫でられ、行ってしまったリュウの言葉を反芻して…俺はたぶん無表情になってたと思う。
甘くない飴
空腹は薄れる
飴玉は宝石のように綺麗だった。
俺はそれを袋に仕舞い、しっかりと懐に入れた。
ま、まさか、魔宝石じゃないよ…な?
ゲームでリュウはドロップ率の高いキャラで、好意を持たれると各種イベントで、高価な魔宝石をゴロゴロあっさりくれたりするけど…っ
ゲームなら高価といっても、ゲームの世界だ…しかし、現在俺が生きて生活している世界の価値観で見ると……凄い大金なのだ。
ちょっと待ってっ、お兄ちゃーんっ、小市民的には普通の飴玉の方が嬉しいんですぅうううっ
非常食代わりに、ひょいとくれるもんじゃ、ないからぁぁぁぁっっ!
ドロップ率・魔物を倒した際、落とす魔宝石やアイテムの量の確立。
キャラの金運に左右される。