ファミレスにて
ファミレスにて
彼女は残っていた生中を飲み干した。
テーブルには、空になった中ジョッキが4つと一皿のポテト以外は何もなかった。
席はほとんど埋まっていて、騒がしかった。
奥の席に、黒いシャツに茶のスラックスの彼女がいた。
「なんであたしの前におるん?」
酔っている彼女が避難がましく、ポテトをつまんでいる。
「おまえが電話で呼び出したんや。しつこかった。あんまし酷い酔っ払い具合で心配になったから、来たんや」
「なんやの。LINEあんなに無視してたんに、来るんや」
「なんかあったん?」
「べつに」
「べつにじゃないがいね」
生中をタブレットでオーダーして、メニューを見ている。
「飲みすぎんなや」
彼女は見るに堪えない様子だった。
「なにがあったん?」
「悲しいんや」
「そうなん」
彼女は涙目になっている。
「なんでこんなとこで1人で飲んどるが?」
「いいがいね。ファミレスで飲んでいかんがか?」
「いかんわけでないけど、おまえ浮いとるよ」
「浮いとる?」
「そうや」
彼は心配そうに続けて、
「ここは女性が1人で飲むようなとこでないし」
そう言った。
「出よう」
「出てどうするん?」
「三景川を歩いて酔いをさます」
「いやや、ここであんたと飲みたい気分なんやて」
「どうしてや?」
「だって、今日はあんたの誕生日や」
忘れていた。誰にも何も言われなかった。
「あんやと」
「そうやろ?あたしっていい人やろが?」
小声になって得意げに言った。
「あぁ。そうやな」
「そやから、2人で飲も!」
彼も仕方なく生中をオーダーした。
「ねぇ、これなんやと思う?」
自分がつまんでいる、ポテトを見つめながら言った。
「ポテトやろ」
「違うやろ!山盛りポテトやがいね」
「そうやな」
「あんたの好きな山盛りポテトや。忘れたんか?」
「忘れとらん」
彼は少しとまどいながら、言う。
「じゃあ、あたしの誕生日は?」
「11月5日や」
忘れるわけがない。
「あんやと」
と言って、生中をあおった。
「そんなに飲まんこっちゃ」
「いやや。今日は飲む」
「なんでや」
「わからんが?」
「わからん」
「ほんとに?」
「ほんとや」
「どうしてもか?」
「どうしてもや」
「ヒントあげる」
彼女はふてくされて言った。
「3年前や」
「わからん・・・」
「3年前や。3年前」
「3年前・・・・・」
「そうや」
今度は、少しイラついていた。
「・・・・・オレたちがつきあいはじめた、その日にここに来たんや」
「やっと、思い出したんか。あんたの誕生日やったやろ」
「生中で乾杯して山盛りポテトを食べた・・・・・」
彼は、はっとした。
「そうや。ちょうど3年前や」
「よう覚えとるな」
「そやろ・・・誕生日をお祝いしたやろ」
彼女の声は、店内のやかましさに紛れていた。
「あんたのこと、まだ忘れられん」
「そうか」
「本当や」
「そうなんか」
「嘘じゃないし」
「わかったよ・・・」
「じゃあ、あたしのところに戻って来てや」
赤らめた頬をした彼女は、すっかり冷めてしまったポテトをつまみながら、テーブルにうつ伏せてしまった。
彼は、タブレットを手に取って生中と山盛りポテトをオーダーした。
了




