次も、絶対
ワイパーの音が、やけに大きく聞こえる。
手の中のスマホが、まだ少し熱い。
画面を消しても、さっきの光景が消えない。
(ほんとに、撮れたんだ)
指先が、少しだけ震えている。
深く息を吸っても、うまく落ち着かない。
「〇△駅まで」
それだけ言って、視線を落とす。
顔を見られたくなかった。
たぶん、変な顔をしている。
嬉しくて、でも、どうしていいか分からなくて。
ネオンが流れていく。
窓に映る自分の顔が、少しだけ歪んで見えた。
(あんなに近くで……)
思い出した瞬間、胸の奥がまたざわつく。
声も、表情も、まだ耳に残っている気がする。
(ずっと、会いたかった)
長かった。
何度も外れて、そのたびに諦めかけて。
それでも、今日ここにいられた。
気づけば、口元を押さえていた。
うまく息ができない。
そのとき。
「……会えない時間が長くなると、つらいですよね」
不意に、声が落ちてくる。
一瞬、意味を考える。
(……あ)
少しだけ、可笑しくなる。
たぶん、この人は違う意味で言ってる。
でも。
「……えぇ。ずっと、待ってたから」
間違ってはいない。
言葉にすると、少しだけ現実になる。
胸の奥が、ゆっくり落ち着いていく。
それきり、また静かになる。
さっきまでのざわつきが、少しだけ遠のいた。
スマホを開く。
画面の中で、自分が笑っている。
隣には、ちゃんといる。
(……また、頑張れる)
小さく息を吐く。
外を見ると、雨は少し弱くなっていた。
「……〇△駅、着きました」
車が止まる。
現実に戻る。
少しだけ名残惜しい気がした。
「ありがとうございます」
ドアを開ける。
外の空気は、少しひんやりしていた。
一歩、踏み出す。
さっきまでの自分より、ほんの少しだけ軽い。
スマホを、もう一度だけ見る。
(次も、絶対行く)
背筋を伸ばして、歩き出す。
振り返ることは、しなかった。




