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山あり谷あり
その荒々しい抱き方はお世辞にも王子とは言えない。
けど嬉しかった。木下君は私のことを本当に好きなんだって分かったから。
「鈴本さんのこと、ゆーって呼んでいい?」
「ゆ、ゆー?」
満面の笑みで私を見る木下君。まるで散歩を期待する子犬のようだ。
「ダメ?」
正直変だけど、嫌とは言えない。
「いいよ……」
もちろん、気乗りはしないが。
「ありがと!俺のことは啓斗って呼んでくれていいから!」
今までよりしっかり抱きしめられる。
その時、ドアの開く音がした。
「……あっ」
木下晴菜と部員のみんなが帰ってきた。私は木……啓斗に抱きしめられたままだ。
「えーっ!」
「ちょっと何っ!」
「木下と鈴本がっ!」
もちろん、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。