34/38
母は強い
私が後ろを向くと、『罪の翼』と、スーツを着た女性が立っていた。
1つに結んだ長い茶髪。すらりとしていて、かっこいいそのシルエット。
間違いなく木下晴菜だった。
「痛ぇ……」
『罪の翼』は木下晴菜を睨み付ける。
「グーで殴るな」
「あんたが悪い。全部見てたのよ」
鋭い視線を私に向け、私を指差す。
「あの子の気持ちを考えた?あんたは自分がしたいからってキスしたんでしょっ!」
そう言って、木下晴菜は再び殴る。もちろんグーで。
「殴るなって!」
「いいや、殴るよ」
『罪の翼』は舌打ちした。そしてなぜかしゃがみこんだ。
『罪の翼』はなかなか立ち上がらない。私が遠くから見ていると、木下晴菜は私を手招きする。
「しばらく待ってあげて」
「あ、はい」
私は自然と背筋を伸ばす。
無言で立ち尽くしていると、やっと立ち上がる。
「……あ、母さん」
その瞳は、王子様に戻っていた。