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翼現る
王子様が、いつもみんなに見せない部分。
王子様が、王子様じゃない部分。
それを少し見ることが出来て、私は少し嬉しかったり――
「何やってんだ斉藤!」
生徒指導の先生の怒鳴り声が聞こえた。
「さーせん」
やる気のない声も聞こえた。
「反省してんのか!」
先生はかなり怒っている。何をしたんだろう。
「柚」
説教を気にしていると、木下君にまた抱きしめられる。
抱きしめかたが今さっきより荒いのは、真っ赤になりながらも十分分かった。
「お前は」
耳元で囁かれる、いつもより低い声が、何を言おうとしているかは明らかだった。
木下君は抱きしめるのをやめて、私の顔を両手で挟み、強引に私を左に向かせる。
「俺のもんな」
ニヤリと笑う彼の顔は、王子様というより、ワガママな魔王と言うべきか。