表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Realigi(レアリーギ) ━━世界が誰もに微笑むなら━━  作者: うさぎさん⭐︎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/32

Realigi 31 終章──或いは──新章 第四話 「どうか、微笑んでくれるよう━━。」


《ヴィナス》

 金色の光が、王座の間を染める。

《久しいな》

「……ゴード」

 ビリーヴによく似た青年が、光のあった場所に立っている。

 金色の目に、黄緑色の長い髪。

《おまえの強い波動を感知し、長い眠りから覚め、神山から降りてきてみれば……》

「だ、誰だ、レア?」

《私は、ゴード。記憶を失くした神仙を助け、暮らした代わりに、三つの奇跡で、この世の覇王━━神になり、不老不死になり、しかし━━神仙とは、永遠には一緒にはいられなかった者》

「そう、わたくしは、叶えられなかったあなたの願いを、或いは代わりの願いを叶えようと━━そうして、人になるために、生まれ変わったの。でも━━ごめんなさい、わたくしは、別の人を好きになってしまったし、もう、あなたの願いを叶えられる力もない」

《おまえに再びまみえられただけで、よい。ずっと、待っていた……ヴィナス。不老不死といっても、元は人。そろそろ私も限界でな。不老不死現象は、そろそろ尽きる━━真の不老不死は無理だ、そうだったな、ヴィナス?》

「ビリーヴは……もしかして、あなたの子孫か何か? とても、似てるもの……だから、惹かれたのかしら━━最初は」

 レアリーギは、ビリーヴを見る。

「わたくしが、逢いたいと望んだから、あなたに似ているから━━彼はもしかしたら、幽監海域に入れたのかしら?? 先祖帰りかしら? だから、普通の人の身でありながら、一時的な神仙化が可能だったのかしら??」

 ゴードはビリーヴに手を当て、彼に流れる血の歴史を読み取る。

《確かに、薄いが、私たちの血を引いておるな。紫の初代王は、私で、おまえとの間に生まれた姫が、二代目王……。いや、柴王という言い方は正しくない。私は金の瞳を持ちし王━━不老不死だが決して神仙ではない━━だったからな。元々は紫だったが、ヴィナスに願いを叶えてもらい、不老不死化した結果、金の瞳になった。国や世界の名も、元々はアメシスではなかった》

「そう。ゴード。記憶を失ったわたくしは、本当は━━元々は、不老不死の技を、この世界の人で試しに来たの……」

《おまえとの間に生まれた娘は、銀の瞳だった》

「そう、失敗だった。本来なら━━彼女も金目になりえるはずだった。実験は、失敗した。いえ、あなたの金目も━━不老不死も、永達には成功しない。限られた、偽りの、不老不死。━━だから、わたくしは、自分の世界へ帰った」

《この世は元々、睡の色で差別するものではなかった。昔はもっと━━確かに紫と青が多数だったが━━それでも他の色の瞳を持ちし人々がたくさんおった。それがいつしか━━あんな愚かな争いの果てに━━青と繋による異瞳いどう狩りの果てに……こんな……》

 ゴードはため息をつく

《中には、船に乗り、逃げていった異瞳たちもあったが……どうなったことか。私は、この世界━━この本土やこの国に含まれる島々━━の神でしかないからな。たとえ、この国やそれを囲む大海の外に、そして、《《空の外》》に何かあっても、わからぬからな》

「わたくしは、この世界の人が━━特にゴード、あなたが、とても好きだった。人間になりたかった。だから、ヴィナスではなく、レアリーギとして、この世界に生まれ変わったの。

 ━━わたくしはね、理想郷を、創りたかったの。矛盾だらけのこの世界で。わたくしだけの、理想郷を。

 人類が皆不老不死になれば、今より嘘つき(ライア)も減って、心も時の中で、再び、或いは初めて澄んで━━きっと、それでもまだやり直せて、人は他者とわかりあえると思った。普通に生きることで避けられない━━いくつかの罪からも解放されると思った。

 でも、長く生きればいいとは、限らない……。短い時の中を、とても幸せに生きる人もいる。渡り固まってしまった頭は、そんな簡単には直らなかったり。もう、どうにもならなかったり……。余計酷くなるケースもある。永遠に孤独な人もいる。でも、みんな……体は長い時を生きていけても━━たとえ完全なる不老不死のボディの実現が成功したとしても、……心が耐えられず、きっと、壊れてしまう。わたくしの実験は、どこの世界でも、成功しない。理想どおりの楽園は、ありえない。存在しない。……

 秩序ある社会では、枠外の者は、排斥される。枠内にいる者には、枠内の者の、苦楽が。枠外にいる者には、枠外の者の苦楽が。それぞれにあるでしょう。内にいるから見えることも、外にいるから見えることもあるでしょう。偏見、先入観、仲間意識、排他、慣れ不慣れ、猜疑心、懐疑心、公平さ、優しさ、温かさ、価値観の相異……。いろんなことに出会い、考え、わたくしたちは悩む。そう、価値観や人生観、考え方はそれぞれにあり。その時々で変化する。なんでもありだわ。正解とか不正解とか、そういうことではなくて。あなたなりの、わたくしなりの、歩き方。順応性。適応性。協調性。柔軟性。妥協━━。社会で生きるために、それらは必要なのでしょう。時には、自分でも許せないような嘘や偽りを紡ぎ、自分の大切な何かを曲げてでも、相手に合わせる……そういうこともあるでしょう。だけど、批判精神を持ったり、何かを変えようとしたり、諦めないことも、きっと大切だわ。大切な大切なことのために、背神したり、世界の常識さえ砕いてしまうような━━そんな何かが、あなたにあって? 或いは、そんな絆には、とてもとても憧れるの……。

 世界の常識だって、案外変わってゆくものよ。先には処刑されるほどの罪が、後には逆転し、爽め称えられる行為となることもある。これは、危険思想かもしれないけど、わたくしは、犯罪者にも、心はあると思う。誰だって、犯罪者にもなりうると思う。もちろん、そのせいで、泣く人々もいる。人を傷つけないよう、自分を抑えることも大切でしょう。世の中には、片根みや、歪んだ愛もある。疲れた人もたくさんいる。

 たとえば、罰を与える━━。そういうのってわたくしは時々疑問なの。時には、守護するだけでなく副を与える━━そういうことが、必要なのかもしれない。でもそれって、誰のためなのかな。本当に相手のためなのかな。本当に相手のための場合もあるかもしれないけど━━。

 結局は、自分のためなんじゃないのかな……。

 死者の墓を作るのだって、所詮は生きた者にとっての慰めに過ぎない。エゴに過ぎない。そういうことを考えると、どんどん懐疑的になってくるの……。慈愛や慈悲なんて━━情けは人のためならずっていうか━━所詮自分のための善に思えてくるの……。同情って本来はいい意味なんだろうけど、あまりいいニュアンスには響かないことが多いじゃない?

 でも、偽善者でも━━それはそれで場合によっては、案外いいのかな、と……。

 そう、場合によっても、変わってくる。わからなくなる。人の心も。自分の心も。何を高じていいかも。誰のために歩けばいい? 自分のため? 相手のため? 双方のため? どうやって歩けばいいの。歩き方がわからなくなる。いばら姫(ブライア)みたいに、いばらで閉ざされた城の中で、ただ━━眠りたくなってしまいそうになる……

 そもそも、わたくしの実験なんて━━浅はかな考えなんて、間違っていたのかもしれない。わたくしの心も、どこかおかしかったのかもしれない。なぜ、不老不死がイコール幸せだなんて、思ったのかしら……。

 わたくしは、幼くて、狭量で狭隘きょうあいで偏狭で━━エゴイストで。ただ、泣きそうなくらい闇雲に、創りたかったの。病気も飢えもない、差別も軋轢あつれきもない。誰もが同じように考え、誰もが同じように行動する━━理想郷。

 でも、それは……きっと、違うのよ。皆が皆、すべて同じようにしか行動できないのは、操り人形みたいだわ……。みんな、それぞれに意志があり、━━そして、それでも━━みんな違うけど━━でも、わかりあえたら……素晴らしいと思うの……。

- 心は、《《ダークマター》》や《《ダークエネルギー》》みたいに、見えないけど……でも、見えないけど、確かにそこにあって。インヴィジブルだけど、すてきなもの……。倍じていられたら、いいと思うの……」

 ゴードは静かに微笑む。

「オレは……この広い世界に大切な誰かがいる。大切な誰かに━━誰より大切なおまえに出逢えた。それだけで、とても幸福だったよ。また逢えると信じていたから、心も体も生きて━━待っていられた」

 ゴードは、再びビリーヴを見る。

《こやつは━━どうも、柴の王族と、青の王族、両方の血を引いておるようだな。……ミストと、ハープという者の子の━━青と紫の血が混じった男の子の遠い子孫━━傍系か》

「ミストとハープの? ……じゃあ、彼らの子は生き延びていたんだ。ミストは知らなかったみたいだけど……どこかで」

《あぁ。しかし、人類は皆、遡れば、海の子で━━子孫で、親戚で━━平等なのだったな?》

「ええ。海と大地と━━星と━━《《空》》の子ですわ」

《最期に逢えてよかった。元気でな、望みどおり、人になれてよかったな。ヴィナス━━いや、レアリーギ……》

 ゴードが光の粒子となって、散り消える。

 レアリーギは、静かに微笑んで、彼のいた場所を見つめている。

「レ、レア、一体、神仙って、なんなんだ?」

 リアライズに振り返り、レアリーギは言う。

「人よりも上位存在だと自分たちを言い━━こういう言い方は嫌いだわ━━、人の手の届かない遠い《《空の向こう》》━━《《ワームホールを越えた外の世界》》の━━《《金の世界》》に住む、カありき者たち……。でも、あっちはあっちで、いろいろ問題があって━━━、あなたにわかりやすくいうと、《《神のような者》》……かしら? そして、わたくしは━━あら? 後は、なんだったかしら? 今の人、なんて名前だった……?」

 東の間蘇った情報が、レアリーギの中から消えていく。

「……もう、わたくしは人だから、昔の、生まれ変わる前のころやそれに関する、今のわたくしではないころの記憶は、消えていくのね……」

「……神のような世界から降りてきた、神? みたいな者の、生まれ変わりだったのか……? じゃあ、リングやソードやペンダント……神の黄金のアイテムは……その《《外の世界》》から、持ち込まれたものなのか?」

「さあ、どうだったかしら……。不老不死化した幸せな世界を創りたくて。でも、記憶を失くして……あの人に逢って、人になりたくなったのよ……それから、えーと…………」

 かぶりを振って、レアリーギは笑う。

「まぁいーわ。そんなんどーでも━━どっちでも。それより、今は……」

 気絶したままのビリーヴたちや王座、氷の消えた扉を見━━リアライズを見、レアリーギは息をつく

「どうしようか?」


   3


 建造途中で放棄された新王宮━━になるはずだった物を見て、ビリーヴは息を吐き出す。

「こんな物のために、人がたくさん死んで━━オレも、もしかしたら……」

 傍らに立つヴィヴィを見て、ビリーヴは笑む。

「だけど、オレは━━《レアリーギ》に拾われて、コーラルや、レアに逢って……」

 青い空を見上げて笑う。

「コーラル、オレ、生きてて、よかったよ」

 ヴィヴィの腰に手を回し、抱き寄せる。

「そして、これからも、オレは……たとえ、何があっても、もう……」

 自ら命を絶とうとしたりなんかせず━━

「生きて、いくよ……」


「……ビリーヴ……」

 唇が離れ、ビリーヴの笑顔が見える。

「わたしも……」

 今度は自分から、キスをする。

「わたしも……あなたと……」


「あぁハイハイ、そこまでそこまで」

 アクティが、二人の間に割り込む。

「……アクティ、いたの?」

 ヴィヴィが、わざとらしくいって、唇を尖らす。

「いたでしょ、さっきから、ず~~ッッと!」

「あんた、海賊のキャプテンなんでしょ? いー加減、わたしにつきまとうのやめて、帰りなさいよ! ていうか、海賊船での勝負でビリーヴが勝ったんだから、諦めたんじゃなかったの⁉︎」

「いやいや、キスまでは許したけどね、それ以上は許さないよ、お父さんは」

「誰がお父さんだァァァァッッッ‼︎?」

 ビィビィが蹴りを連発する。

「もっと、もっと、蹴って! ヴィヴィ‼︎」

「へ、変態だよォ~~」

 ビリーヴが顔を真っ赤にしている。

「そ、それ以上って……その、別に、そんなつもりは……」


 国王になったのは、結局、レアリーギだった。そして……

 リアライズ。

 前代未聞の、双王の誕生であった。

 それに伴い、

 国及び世界はインフィニティ。

 王都はリライアブル・スマイル。

 王宮はフォーエヴァー・ストライヴ。

 と改名された。


「しばらく、国は荒れる……。だけど、わたくしは、少しずつ、少しずつでも、世界がいつかすべての者に等しく微笑むよう━━それが実現不可能なことだとしても━━努力してゆく……」

 青と紫の王座に、それぞれ腰かけ、レアリーギたちは前を見ている。

「ねぇ、リア。たぶんさ、誰かや自分を嫌いになったり、倍じられなかったり、虐げたり、悲観的になったりするのは……ある意味、簡単なのよ。相手の心を自分の心と思えたり、騙されても裏切られても、誰かのことを信じたり━━それでも何かを諦めなかったり……。そういうのってさ、やっぱり、大切なことなんじゃないかなぁ。それが歪んだ方向に行かないようにする、そういうのが、理性━━とかなのかなぁ……?」

 リアライズは、自分の手やリングを見ながら、聞いている。

「もしかしたら、差別と気遣いは似ているのかもしれない。エゴと思いやりは、似ているのかもしれない。人は、身内や一部の者を優遇する。でも……思いやりって、やっぱり、大切じゃない? 人は矛盾を抱えてるし、偽善者かもしれない。でも……理屈とか、言葉より大切なことってあるし。物事に対する自分なりの見方を育てるのはよいことだと思うけど……あんまり、変にこだわりすぎるのも、よくないんじゃないかなぁ? いろいろ考えすぎて、人の気持ちがわからなくなったりすることもある……。なーんて、思ったりもするの。考えることはもちろん大切よ。悩むことも、きっと、大切よ。でも……」

「あんま、気にしすぎて絶望的になっても、生きられなくなる……。それはそれで、どこかいいわけっぽいけど━━目を逸らしてはいけないこともたくさんあるけどーー。たとえば、人や生物が生きるためには、他の生物が犠牲になる。それは変えようもない、現実だ。

 憎しみ続けるのは、たぶん楽なんだ。目を瞑るのは楽。考えないのは楽。誰かのせいにするのは楽。悩み続けるのは、辛いから……」

「うん……。でも……、考えるのも大切だけど、感じたり、行動してみるのも大切だよね……。やってみたら、案外簡単に霧は晴れたり。或いは、霧なんて最初からなかったりするのかもしれない。……形より、何か目に見えなくても、捉えられず、触れられずとも━━大切なもの……」

 レアリーギは、ペンダントに触れて、笑む。

「あるよね?」

「……辛いときは、何も見えなくなる。誰かの微笑みさえ、わずらわしい。憎い。すべて、消してしまいたくなる。

 悲しいときは、世界中に雨が降っているようだ。雨に煙り、街や世界から、たくさんの色が消えてゆくよう……。世界には、自分独りしかいない。

 たとえ何か叫んだって、誰も聞いてくれない。

 だから、たくさんのことを諦める。

 どうせ、最初から、無理だから。

 オレには、何もできないから」

「でも……やがて、雨がやめば。世界には、大きな大きな虹がかかる。

 家に閉じこもっていた人々は、外に出、虹を見上げ、微笑み交わす。温かな陽光。きらめく水たまり。軒先から降るしずくだって━━世界は、光り薄き、色で迷れている。

 人々は、手に手を取り合って、ダンスする。

 ほら、もう。独りじゃない。

 仲間がいる。友がいる。

 彼らが微笑む。

 わたくしが微笑む。

 あなたが微笑む。

 何でもできそうな気がしてくる」

 レアリーギとリアライズは、王座から立ち上がり、手と手を握り交わす。

「がんばろう、リア」

「仕方ねーから、つきあってやるよ、レア」


 王座に座り直し、リアライズは息をつく。

「いいの、レア? 本当は、王座より、たくさんの臣下より━━ビリーヴといたかったんだろ」

「…………」

 レアリーギは立ったまま、そこにいる。

「レアは、素直じゃねぇからなぁ」

「リアだって、意地っ張りだし、ひねくれてるし」

「どうなんだよ?」

 レアリーギは黙り込む。

「……初恋だったのよ。永遠に忘れないわ……彼のことは……」

 王宮に残らないかと言ったレアリーギに、ビリーヴは、

『オレは、民の目線から、世界を見たいから。君には、たくさんの味方がいるよ。コーラルたちや《レアリーギ》の眠ったみんなもそうだし。オレたちも……リアライズも。これからも、たくさんの味方に出逢うよ』

 そういって、出ていってしまった。

「どうも、ヴィザイとイチャイチャしながら、世界を回る予定とか?」

「そういう言い方は、ムカつきますわね━━何か」

「あの連中、しばらく、当てもない根なし草的トラベルライフを送るってか? そううまく行くかねぇ~。路銀を稼ぐための仕事探しも大変だろうし━━そのうち行き倒れんじゃねぇ?」

 楽しげに、小馬鹿にしたようにリアライズは笑う。だが、その瞳は、どこか好意的にも取れる。

「やめとけやめとけあんなん。レア。僕が、もっといい男捜してやるよ」

「おーきなお世話」

「だったら、行きなよ」

「……あなた一人に、王座は任せられないし」

 リアライズは顎に手を当て、考え込む。

「別に、王座を捨てろとは言ってないし。でも━━次、いつ逢えるかわからないんだろ? だったら━━今からでも、遅くない。行くだけ行ってきな」


 レアリーギが王座の間を出ていったのを見、リアライズはため息をつく。

「何言ってんだか━━オレ」

 今は空いている隣の王座に話しかける。

「もっと、国が、落ち着いてきたら、船で探してみたいね━━。新大陸━━或いは」

 天上を━━その先にある空を仰ぐように見、リアライズは呟く。

「もっと、僕らにはわからない世界……」

 世界は狭くて、広い。

 或いは、広くて、狭い。

「いるよねぇ、もっと、たくさんの人が。どこかに。そして、あるよね━━たくさんの未知が。世界が……」


 ミスト……

 わたくしは、あなたのことを、とても大切な友だと思う。

 あなたの気持ちに応えることができなくて……ごめんなさい。

 レアリーギは、王宮を走る。

 邪魔なベールつきのティアラを外し捨てる。紫と青のドレスの裾が長すぎて、つまずきそうになる。そう、こんなものは邪魔なだけだ。ムダに華美な王族貴族。こんなものも、変えていかなければ……

 そう━━選んだのは、わたくし。

 後悔はしない。

 未来へ向かって歩くから。

 目標があるぶん、きっと生きている気がする━━。新たな世が民に支持してもらえるよう、努力しよう。

 ……ミスト。

 助けてくれて、ありがとう。

 わたくしは、ずっと、忘れない。

 ……あなたは、この世界で、初めてわたくしを見つけてくれた。ずっと待っていてくれた。

 ……ありがとう。


「ビリーヴ!」

 中庭で、彼らに追いつく。

 ヴィヴィとアクティの間を歩いていた彼は、振り返り、微笑む。

「は、話、話が……!」

 光を集めるような金色の髪に優しいブルーアイズのヴィヴィを見、レアリーギは怯む。

「ビリーヴ、先に行くね」

 アクティを連れて、気を利かせてくれたのか、ヴィヴィは歩いてゆく。

 温かな日溜まり。色とりどりの花。

 誰より、愛しい、愛しい少年……

 レアリーギの瞳から、涙が溢れてくる。

「また、逢えますよね……?」

「もちろん。それに、手紙書くよ。宇、ヴィヴィに教えてもらって、覚える」

「ビリーヴ……」

 レアリーギの瞳からまた、涙が流れる。

「これは、わたくしのわがままな━━自分勝手な感情で━━あなたには、きっと迷惑で……。あなたには、ヴィヴィさんがいる……。わかってる。でも━━言わなかったら、一生後悔すると思うから……。だから、言わせてください……」

 ビリーヴを見つめ、レアリーギは言う。

「あなたが、好き……!」

 ビリーヴは、僅かためらってから、

「ありがとう」

 優しく優しく微笑んだ。

 レアリーギは泣きながら、彼に抱きつく。

「ありがとう……レア」

 背中に腕を回し、ビリーヴはしばらく、そのままでいてくれた━━。


   4


 海を、空を、ビリーヴは見つめている。

 そう。海は、空は11世界は色を変える。

 青。黄色。オレンジ。赤。紫。紺。紺碧、黒。灰色。白━━……。何色の絵の具があれば、すべて描けるのだろうか?

 心に描いておこう。

 この海や空や世界や想いを、心に残しておこう。大切に。

 波音を聞きながら、浜辺に座ったまま、ビリーヴは目を閉じる。

 彼女や彼の声が聞こえてくる……


 レアリーギたちはあの日、城のバルコニーで、集まった民たちを前にして、宣言した。

「新双王、レアリーギとリアライズは、青も紫もない世を創る。奴隷たちを解放し、彼らが自らの足で生きてゆけるよう、国をあげて支援する」

「瞳の色だけで虐げる者あれば、リアライズとレアリーギの名の元に、厳しく罰する。これを肝に命じろ」

 そう、奴隷解放宣言だ━━。


 反対の声も根強く、過激な運動も起こったりもしているようだが━━

 いつか、みんな、わかってくれたらいい……

 ビリーヴは淡く━━でも、確かに笑む。

 世界は変わっていく……

 レアリーギたちの代では、真の平等は不可能でも、━━永遠に不可能だとしても。

 少しずつ、いろんな差別が無くなっていったら、いい……

 現実は、厳しくて。

 もしかしたら、レアリーギたちの代が過ぎたら━━それ以前に、レアリーギたちが変わってしまったりして……。

 今の、彼女たちの心は、世には広まらないかもしれない。

 二人の王も、争いの種にならないとは限らないし━━いい方向に向かってくれるとよいが……

 或いは、王座は彼女たちを見捨て、別の者がじきに奪い取ったり、もっと、想像もできないようなことが起こったりして……

 世界は、別の意味で変わってしまったり……

 そういうこともあるかもしれないけど。

 ━━瞳を開き、ビリーヴは微笑む。

「……信じる……」


 王宮の裏手、海岸に立ち、レアリーギは海や空を見ている。

 近衛兵たちが、後方にいるの顧みて、レアリーギは少しため息をつくように笑む。

 世界は、まだ、夜だ。

 闇の中、彼女は何も言わず、立っている。 

 やがて、空が少しずつ、少しずつ、明るくなる。

 ━━夜明け。

 紫━━

 東の空に、明星━━

 舵型のペンダントを握り締め、レアリーギは微笑む。

 世界は、繰り返す。青や紫、たくさんの色を━━。

 柴の瞳の少年、青い瞳の青年━━。

 心に浮かぶ彼らに、話しかける。

 どうか、微笑んでくれるよう━━。



最後まで読んでくださりありがとうございました。

Realigiを読んでいただけてとても嬉しいです。

また別の物語でもお会いできたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ