Realigi 31 終章──或いは──新章 第四話 「どうか、微笑んでくれるよう━━。」
《ヴィナス》
金色の光が、王座の間を染める。
《久しいな》
「……ゴード」
ビリーヴによく似た青年が、光のあった場所に立っている。
金色の目に、黄緑色の長い髪。
《おまえの強い波動を感知し、長い眠りから覚め、神山から降りてきてみれば……》
「だ、誰だ、レア?」
《私は、ゴード。記憶を失くした神仙を助け、暮らした代わりに、三つの奇跡で、この世の覇王━━神になり、不老不死になり、しかし━━神仙とは、永遠には一緒にはいられなかった者》
「そう、わたくしは、叶えられなかったあなたの願いを、或いは代わりの願いを叶えようと━━そうして、人になるために、生まれ変わったの。でも━━ごめんなさい、わたくしは、別の人を好きになってしまったし、もう、あなたの願いを叶えられる力もない」
《おまえに再びまみえられただけで、よい。ずっと、待っていた……ヴィナス。不老不死といっても、元は人。そろそろ私も限界でな。不老不死現象は、そろそろ尽きる━━真の不老不死は無理だ、そうだったな、ヴィナス?》
「ビリーヴは……もしかして、あなたの子孫か何か? とても、似てるもの……だから、惹かれたのかしら━━最初は」
レアリーギは、ビリーヴを見る。
「わたくしが、逢いたいと望んだから、あなたに似ているから━━彼はもしかしたら、幽監海域に入れたのかしら?? 先祖帰りかしら? だから、普通の人の身でありながら、一時的な神仙化が可能だったのかしら??」
ゴードはビリーヴに手を当て、彼に流れる血の歴史を読み取る。
《確かに、薄いが、私たちの血を引いておるな。紫の初代王は、私で、おまえとの間に生まれた姫が、二代目王……。いや、柴王という言い方は正しくない。私は金の瞳を持ちし王━━不老不死だが決して神仙ではない━━だったからな。元々は紫だったが、ヴィナスに願いを叶えてもらい、不老不死化した結果、金の瞳になった。国や世界の名も、元々はアメシスではなかった》
「そう。ゴード。記憶を失ったわたくしは、本当は━━元々は、不老不死の技を、この世界の人で試しに来たの……」
《おまえとの間に生まれた娘は、銀の瞳だった》
「そう、失敗だった。本来なら━━彼女も金目になりえるはずだった。実験は、失敗した。いえ、あなたの金目も━━不老不死も、永達には成功しない。限られた、偽りの、不老不死。━━だから、わたくしは、自分の世界へ帰った」
《この世は元々、睡の色で差別するものではなかった。昔はもっと━━確かに紫と青が多数だったが━━それでも他の色の瞳を持ちし人々がたくさんおった。それがいつしか━━あんな愚かな争いの果てに━━青と繋による異瞳狩りの果てに……こんな……》
ゴードはため息をつく
《中には、船に乗り、逃げていった異瞳たちもあったが……どうなったことか。私は、この世界━━この本土やこの国に含まれる島々━━の神でしかないからな。たとえ、この国やそれを囲む大海の外に、そして、《《空の外》》に何かあっても、わからぬからな》
「わたくしは、この世界の人が━━特にゴード、あなたが、とても好きだった。人間になりたかった。だから、ヴィナスではなく、レアリーギとして、この世界に生まれ変わったの。
━━わたくしはね、理想郷を、創りたかったの。矛盾だらけのこの世界で。わたくしだけの、理想郷を。
人類が皆不老不死になれば、今より嘘つきも減って、心も時の中で、再び、或いは初めて澄んで━━きっと、それでもまだやり直せて、人は他者とわかりあえると思った。普通に生きることで避けられない━━いくつかの罪からも解放されると思った。
でも、長く生きればいいとは、限らない……。短い時の中を、とても幸せに生きる人もいる。渡り固まってしまった頭は、そんな簡単には直らなかったり。もう、どうにもならなかったり……。余計酷くなるケースもある。永遠に孤独な人もいる。でも、みんな……体は長い時を生きていけても━━たとえ完全なる不老不死のボディの実現が成功したとしても、……心が耐えられず、きっと、壊れてしまう。わたくしの実験は、どこの世界でも、成功しない。理想どおりの楽園は、ありえない。存在しない。……
秩序ある社会では、枠外の者は、排斥される。枠内にいる者には、枠内の者の、苦楽が。枠外にいる者には、枠外の者の苦楽が。それぞれにあるでしょう。内にいるから見えることも、外にいるから見えることもあるでしょう。偏見、先入観、仲間意識、排他、慣れ不慣れ、猜疑心、懐疑心、公平さ、優しさ、温かさ、価値観の相異……。いろんなことに出会い、考え、わたくしたちは悩む。そう、価値観や人生観、考え方はそれぞれにあり。その時々で変化する。なんでもありだわ。正解とか不正解とか、そういうことではなくて。あなたなりの、わたくしなりの、歩き方。順応性。適応性。協調性。柔軟性。妥協━━。社会で生きるために、それらは必要なのでしょう。時には、自分でも許せないような嘘や偽りを紡ぎ、自分の大切な何かを曲げてでも、相手に合わせる……そういうこともあるでしょう。だけど、批判精神を持ったり、何かを変えようとしたり、諦めないことも、きっと大切だわ。大切な大切なことのために、背神したり、世界の常識さえ砕いてしまうような━━そんな何かが、あなたにあって? 或いは、そんな絆には、とてもとても憧れるの……。
世界の常識だって、案外変わってゆくものよ。先には処刑されるほどの罪が、後には逆転し、爽め称えられる行為となることもある。これは、危険思想かもしれないけど、わたくしは、犯罪者にも、心はあると思う。誰だって、犯罪者にもなりうると思う。もちろん、そのせいで、泣く人々もいる。人を傷つけないよう、自分を抑えることも大切でしょう。世の中には、片根みや、歪んだ愛もある。疲れた人もたくさんいる。
たとえば、罰を与える━━。そういうのってわたくしは時々疑問なの。時には、守護するだけでなく副を与える━━そういうことが、必要なのかもしれない。でもそれって、誰のためなのかな。本当に相手のためなのかな。本当に相手のための場合もあるかもしれないけど━━。
結局は、自分のためなんじゃないのかな……。
死者の墓を作るのだって、所詮は生きた者にとっての慰めに過ぎない。エゴに過ぎない。そういうことを考えると、どんどん懐疑的になってくるの……。慈愛や慈悲なんて━━情けは人のためならずっていうか━━所詮自分のための善に思えてくるの……。同情って本来はいい意味なんだろうけど、あまりいいニュアンスには響かないことが多いじゃない?
でも、偽善者でも━━それはそれで場合によっては、案外いいのかな、と……。
そう、場合によっても、変わってくる。わからなくなる。人の心も。自分の心も。何を高じていいかも。誰のために歩けばいい? 自分のため? 相手のため? 双方のため? どうやって歩けばいいの。歩き方がわからなくなる。いばら姫みたいに、いばらで閉ざされた城の中で、ただ━━眠りたくなってしまいそうになる……
そもそも、わたくしの実験なんて━━浅はかな考えなんて、間違っていたのかもしれない。わたくしの心も、どこかおかしかったのかもしれない。なぜ、不老不死がイコール幸せだなんて、思ったのかしら……。
わたくしは、幼くて、狭量で狭隘で偏狭で━━エゴイストで。ただ、泣きそうなくらい闇雲に、創りたかったの。病気も飢えもない、差別も軋轢もない。誰もが同じように考え、誰もが同じように行動する━━理想郷。
でも、それは……きっと、違うのよ。皆が皆、すべて同じようにしか行動できないのは、操り人形みたいだわ……。みんな、それぞれに意志があり、━━そして、それでも━━みんな違うけど━━でも、わかりあえたら……素晴らしいと思うの……。
- 心は、《《ダークマター》》や《《ダークエネルギー》》みたいに、見えないけど……でも、見えないけど、確かにそこにあって。インヴィジブルだけど、すてきなもの……。倍じていられたら、いいと思うの……」
ゴードは静かに微笑む。
「オレは……この広い世界に大切な誰かがいる。大切な誰かに━━誰より大切なおまえに出逢えた。それだけで、とても幸福だったよ。また逢えると信じていたから、心も体も生きて━━待っていられた」
ゴードは、再びビリーヴを見る。
《こやつは━━どうも、柴の王族と、青の王族、両方の血を引いておるようだな。……ミストと、ハープという者の子の━━青と紫の血が混じった男の子の遠い子孫━━傍系か》
「ミストとハープの? ……じゃあ、彼らの子は生き延びていたんだ。ミストは知らなかったみたいだけど……どこかで」
《あぁ。しかし、人類は皆、遡れば、海の子で━━子孫で、親戚で━━平等なのだったな?》
「ええ。海と大地と━━星と━━《《空》》の子ですわ」
《最期に逢えてよかった。元気でな、望みどおり、人になれてよかったな。ヴィナス━━いや、レアリーギ……》
ゴードが光の粒子となって、散り消える。
レアリーギは、静かに微笑んで、彼のいた場所を見つめている。
「レ、レア、一体、神仙って、なんなんだ?」
リアライズに振り返り、レアリーギは言う。
「人よりも上位存在だと自分たちを言い━━こういう言い方は嫌いだわ━━、人の手の届かない遠い《《空の向こう》》━━《《ワームホールを越えた外の世界》》の━━《《金の世界》》に住む、カありき者たち……。でも、あっちはあっちで、いろいろ問題があって━━━、あなたにわかりやすくいうと、《《神のような者》》……かしら? そして、わたくしは━━あら? 後は、なんだったかしら? 今の人、なんて名前だった……?」
東の間蘇った情報が、レアリーギの中から消えていく。
「……もう、わたくしは人だから、昔の、生まれ変わる前のころやそれに関する、今のわたくしではないころの記憶は、消えていくのね……」
「……神のような世界から降りてきた、神? みたいな者の、生まれ変わりだったのか……? じゃあ、リングやソードやペンダント……神の黄金のアイテムは……その《《外の世界》》から、持ち込まれたものなのか?」
「さあ、どうだったかしら……。不老不死化した幸せな世界を創りたくて。でも、記憶を失くして……あの人に逢って、人になりたくなったのよ……それから、えーと…………」
かぶりを振って、レアリーギは笑う。
「まぁいーわ。そんなんどーでも━━どっちでも。それより、今は……」
気絶したままのビリーヴたちや王座、氷の消えた扉を見━━リアライズを見、レアリーギは息をつく
「どうしようか?」
3
建造途中で放棄された新王宮━━になるはずだった物を見て、ビリーヴは息を吐き出す。
「こんな物のために、人がたくさん死んで━━オレも、もしかしたら……」
傍らに立つヴィヴィを見て、ビリーヴは笑む。
「だけど、オレは━━《レアリーギ》に拾われて、コーラルや、レアに逢って……」
青い空を見上げて笑う。
「コーラル、オレ、生きてて、よかったよ」
ヴィヴィの腰に手を回し、抱き寄せる。
「そして、これからも、オレは……たとえ、何があっても、もう……」
自ら命を絶とうとしたりなんかせず━━
「生きて、いくよ……」
「……ビリーヴ……」
唇が離れ、ビリーヴの笑顔が見える。
「わたしも……」
今度は自分から、キスをする。
「わたしも……あなたと……」
「あぁハイハイ、そこまでそこまで」
アクティが、二人の間に割り込む。
「……アクティ、いたの?」
ヴィヴィが、わざとらしくいって、唇を尖らす。
「いたでしょ、さっきから、ず~~ッッと!」
「あんた、海賊のキャプテンなんでしょ? いー加減、わたしにつきまとうのやめて、帰りなさいよ! ていうか、海賊船での勝負でビリーヴが勝ったんだから、諦めたんじゃなかったの⁉︎」
「いやいや、キスまでは許したけどね、それ以上は許さないよ、お父さんは」
「誰がお父さんだァァァァッッッ‼︎?」
ビィビィが蹴りを連発する。
「もっと、もっと、蹴って! ヴィヴィ‼︎」
「へ、変態だよォ~~」
ビリーヴが顔を真っ赤にしている。
「そ、それ以上って……その、別に、そんなつもりは……」
国王になったのは、結局、レアリーギだった。そして……
リアライズ。
前代未聞の、双王の誕生であった。
それに伴い、
国及び世界はインフィニティ。
王都はリライアブル・スマイル。
王宮はフォーエヴァー・ストライヴ。
と改名された。
「しばらく、国は荒れる……。だけど、わたくしは、少しずつ、少しずつでも、世界がいつかすべての者に等しく微笑むよう━━それが実現不可能なことだとしても━━努力してゆく……」
青と紫の王座に、それぞれ腰かけ、レアリーギたちは前を見ている。
「ねぇ、リア。たぶんさ、誰かや自分を嫌いになったり、倍じられなかったり、虐げたり、悲観的になったりするのは……ある意味、簡単なのよ。相手の心を自分の心と思えたり、騙されても裏切られても、誰かのことを信じたり━━それでも何かを諦めなかったり……。そういうのってさ、やっぱり、大切なことなんじゃないかなぁ。それが歪んだ方向に行かないようにする、そういうのが、理性━━とかなのかなぁ……?」
リアライズは、自分の手やリングを見ながら、聞いている。
「もしかしたら、差別と気遣いは似ているのかもしれない。エゴと思いやりは、似ているのかもしれない。人は、身内や一部の者を優遇する。でも……思いやりって、やっぱり、大切じゃない? 人は矛盾を抱えてるし、偽善者かもしれない。でも……理屈とか、言葉より大切なことってあるし。物事に対する自分なりの見方を育てるのはよいことだと思うけど……あんまり、変にこだわりすぎるのも、よくないんじゃないかなぁ? いろいろ考えすぎて、人の気持ちがわからなくなったりすることもある……。なーんて、思ったりもするの。考えることはもちろん大切よ。悩むことも、きっと、大切よ。でも……」
「あんま、気にしすぎて絶望的になっても、生きられなくなる……。それはそれで、どこかいいわけっぽいけど━━目を逸らしてはいけないこともたくさんあるけどーー。たとえば、人や生物が生きるためには、他の生物が犠牲になる。それは変えようもない、現実だ。
憎しみ続けるのは、たぶん楽なんだ。目を瞑るのは楽。考えないのは楽。誰かのせいにするのは楽。悩み続けるのは、辛いから……」
「うん……。でも……、考えるのも大切だけど、感じたり、行動してみるのも大切だよね……。やってみたら、案外簡単に霧は晴れたり。或いは、霧なんて最初からなかったりするのかもしれない。……形より、何か目に見えなくても、捉えられず、触れられずとも━━大切なもの……」
レアリーギは、ペンダントに触れて、笑む。
「あるよね?」
「……辛いときは、何も見えなくなる。誰かの微笑みさえ、わずらわしい。憎い。すべて、消してしまいたくなる。
悲しいときは、世界中に雨が降っているようだ。雨に煙り、街や世界から、たくさんの色が消えてゆくよう……。世界には、自分独りしかいない。
たとえ何か叫んだって、誰も聞いてくれない。
だから、たくさんのことを諦める。
どうせ、最初から、無理だから。
オレには、何もできないから」
「でも……やがて、雨がやめば。世界には、大きな大きな虹がかかる。
家に閉じこもっていた人々は、外に出、虹を見上げ、微笑み交わす。温かな陽光。きらめく水たまり。軒先から降るしずくだって━━世界は、光り薄き、色で迷れている。
人々は、手に手を取り合って、ダンスする。
ほら、もう。独りじゃない。
仲間がいる。友がいる。
彼らが微笑む。
わたくしが微笑む。
あなたが微笑む。
何でもできそうな気がしてくる」
レアリーギとリアライズは、王座から立ち上がり、手と手を握り交わす。
「がんばろう、リア」
「仕方ねーから、つきあってやるよ、レア」
王座に座り直し、リアライズは息をつく。
「いいの、レア? 本当は、王座より、たくさんの臣下より━━ビリーヴといたかったんだろ」
「…………」
レアリーギは立ったまま、そこにいる。
「レアは、素直じゃねぇからなぁ」
「リアだって、意地っ張りだし、ひねくれてるし」
「どうなんだよ?」
レアリーギは黙り込む。
「……初恋だったのよ。永遠に忘れないわ……彼のことは……」
王宮に残らないかと言ったレアリーギに、ビリーヴは、
『オレは、民の目線から、世界を見たいから。君には、たくさんの味方がいるよ。コーラルたちや《レアリーギ》の眠ったみんなもそうだし。オレたちも……リアライズも。これからも、たくさんの味方に出逢うよ』
そういって、出ていってしまった。
「どうも、ヴィザイとイチャイチャしながら、世界を回る予定とか?」
「そういう言い方は、ムカつきますわね━━何か」
「あの連中、しばらく、当てもない根なし草的トラベルライフを送るってか? そううまく行くかねぇ~。路銀を稼ぐための仕事探しも大変だろうし━━そのうち行き倒れんじゃねぇ?」
楽しげに、小馬鹿にしたようにリアライズは笑う。だが、その瞳は、どこか好意的にも取れる。
「やめとけやめとけあんなん。レア。僕が、もっといい男捜してやるよ」
「おーきなお世話」
「だったら、行きなよ」
「……あなた一人に、王座は任せられないし」
リアライズは顎に手を当て、考え込む。
「別に、王座を捨てろとは言ってないし。でも━━次、いつ逢えるかわからないんだろ? だったら━━今からでも、遅くない。行くだけ行ってきな」
レアリーギが王座の間を出ていったのを見、リアライズはため息をつく。
「何言ってんだか━━オレ」
今は空いている隣の王座に話しかける。
「もっと、国が、落ち着いてきたら、船で探してみたいね━━。新大陸━━或いは」
天上を━━その先にある空を仰ぐように見、リアライズは呟く。
「もっと、僕らにはわからない世界……」
世界は狭くて、広い。
或いは、広くて、狭い。
「いるよねぇ、もっと、たくさんの人が。どこかに。そして、あるよね━━たくさんの未知が。世界が……」
ミスト……
わたくしは、あなたのことを、とても大切な友だと思う。
あなたの気持ちに応えることができなくて……ごめんなさい。
レアリーギは、王宮を走る。
邪魔なベールつきのティアラを外し捨てる。紫と青のドレスの裾が長すぎて、つまずきそうになる。そう、こんなものは邪魔なだけだ。ムダに華美な王族貴族。こんなものも、変えていかなければ……
そう━━選んだのは、わたくし。
後悔はしない。
未来へ向かって歩くから。
目標があるぶん、きっと生きている気がする━━。新たな世が民に支持してもらえるよう、努力しよう。
……ミスト。
助けてくれて、ありがとう。
わたくしは、ずっと、忘れない。
……あなたは、この世界で、初めてわたくしを見つけてくれた。ずっと待っていてくれた。
……ありがとう。
「ビリーヴ!」
中庭で、彼らに追いつく。
ヴィヴィとアクティの間を歩いていた彼は、振り返り、微笑む。
「は、話、話が……!」
光を集めるような金色の髪に優しいブルーアイズのヴィヴィを見、レアリーギは怯む。
「ビリーヴ、先に行くね」
アクティを連れて、気を利かせてくれたのか、ヴィヴィは歩いてゆく。
温かな日溜まり。色とりどりの花。
誰より、愛しい、愛しい少年……
レアリーギの瞳から、涙が溢れてくる。
「また、逢えますよね……?」
「もちろん。それに、手紙書くよ。宇、ヴィヴィに教えてもらって、覚える」
「ビリーヴ……」
レアリーギの瞳からまた、涙が流れる。
「これは、わたくしのわがままな━━自分勝手な感情で━━あなたには、きっと迷惑で……。あなたには、ヴィヴィさんがいる……。わかってる。でも━━言わなかったら、一生後悔すると思うから……。だから、言わせてください……」
ビリーヴを見つめ、レアリーギは言う。
「あなたが、好き……!」
ビリーヴは、僅かためらってから、
「ありがとう」
優しく優しく微笑んだ。
レアリーギは泣きながら、彼に抱きつく。
「ありがとう……レア」
背中に腕を回し、ビリーヴはしばらく、そのままでいてくれた━━。
4
海を、空を、ビリーヴは見つめている。
そう。海は、空は11世界は色を変える。
青。黄色。オレンジ。赤。紫。紺。紺碧、黒。灰色。白━━……。何色の絵の具があれば、すべて描けるのだろうか?
心に描いておこう。
この海や空や世界や想いを、心に残しておこう。大切に。
波音を聞きながら、浜辺に座ったまま、ビリーヴは目を閉じる。
彼女や彼の声が聞こえてくる……
レアリーギたちはあの日、城のバルコニーで、集まった民たちを前にして、宣言した。
「新双王、レアリーギとリアライズは、青も紫もない世を創る。奴隷たちを解放し、彼らが自らの足で生きてゆけるよう、国をあげて支援する」
「瞳の色だけで虐げる者あれば、リアライズとレアリーギの名の元に、厳しく罰する。これを肝に命じろ」
そう、奴隷解放宣言だ━━。
反対の声も根強く、過激な運動も起こったりもしているようだが━━
いつか、みんな、わかってくれたらいい……
ビリーヴは淡く━━でも、確かに笑む。
世界は変わっていく……
レアリーギたちの代では、真の平等は不可能でも、━━永遠に不可能だとしても。
少しずつ、いろんな差別が無くなっていったら、いい……
現実は、厳しくて。
もしかしたら、レアリーギたちの代が過ぎたら━━それ以前に、レアリーギたちが変わってしまったりして……。
今の、彼女たちの心は、世には広まらないかもしれない。
二人の王も、争いの種にならないとは限らないし━━いい方向に向かってくれるとよいが……
或いは、王座は彼女たちを見捨て、別の者が直に奪い取ったり、もっと、想像もできないようなことが起こったりして……
世界は、別の意味で変わってしまったり……
そういうこともあるかもしれないけど。
━━瞳を開き、ビリーヴは微笑む。
「……信じる……」
王宮の裏手、海岸に立ち、レアリーギは海や空を見ている。
近衛兵たちが、後方にいるの顧みて、レアリーギは少しため息をつくように笑む。
世界は、まだ、夜だ。
闇の中、彼女は何も言わず、立っている。
やがて、空が少しずつ、少しずつ、明るくなる。
━━夜明け。
紫━━
東の空に、明星━━
舵型のペンダントを握り締め、レアリーギは微笑む。
世界は、繰り返す。青や紫、たくさんの色を━━。
柴の瞳の少年、青い瞳の青年━━。
心に浮かぶ彼らに、話しかける。
どうか、微笑んでくれるよう━━。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
Realigiを読んでいただけてとても嬉しいです。
また別の物語でもお会いできたら嬉しいです。




