Realigi 27 第二部 第二章 第五話 「王座は、オレだけのためにあるんだよ」
「━━キモチワルイ。キショクワルイ。オシツケガマシイ。オンキセガマシイ。ワケワカンネー」
リアライズは、ビリーヴたちに炎の雨を降らせ、同時に剣を構えて、レアリーギのほうへ飛び迫る。
「血でひいきする? すげぇ、リカイフノウ? それって、兄弟なら、オレじゃなくても、別にいーってこと?」
レアリーギを庇うミストを、リアライズは袈裟斬りしようとする。
「ミスト!」
間一髪、レアリーギがリアライズへ向け、火球を飛ばす。
「チィ━━⁉︎」
後方へ飛び退くリアライズに、もう一発━━。リアライズは剣で火球を切り捨てようとするが、
「ッ⁉︎」
途中で止め、横に飛ぶ。
「レアの魔法は、このソードでは斬れない⁉︎」
リングを見、リアライズは舌打つ。
そこへ、ヴィヴィの投げたナイフがいくつも迫り、ビリーヴの刃先の鋭い鋼鉄製のブーメランが迫り、アクティのクロスボウから放たれたアローが次々と繰り出される。
「ウルセェ!」
炎のサークル状の壁━━ファイアウォールで自分を取り囲み、すべてをガードする。
「そんなふうに、人に簡単に手を差し伸べようとしたり、同情したり、哀れんだり、姉貴面したり━━それは、レアが、てめぇがおめでたくて幸せで偽善者で、ウザくて━━、オレを下に見て、ガキ扱いして、自分のほうが幸せで、オレが幸せじゃねぇって━━そんなふうに見下してッ、おまえがバカで、自分の立場わかってなくてッ」
レアリーギの仲間たちを見回す。
「バカなレアはまだ余裕かましてて、同情なんかしやがって━━ッ、オレは、おまえに説得されたりしねぇ‼︎ オレのほうがずっと、強エエエッッッ‼︎! そんな余裕や偽善の仮面、引き剥がしてやるッッッ‼︎!」
全員に向け、炎の雨を降らす。
先ほどビリーヴたちが大方避けられた炎と違い、一つ一つは幾分小ぶりでも、降ってくる量が異常に多い。
《護れ!》
ミストが、皆にバリアを張る。
「うるせぇよ、ミスト。オレは、てめぇが大ッ嫌いだ‼︎ オレを、レアのために利用しようとしやがってッッ‼︎ オレを育てた奴らや、ミザントを討つためついてきた奴らも同じだ━━オレが王だの宰相だのになるから、或いはなるかもしんねぇから、育てたり、共闘したり、利用したりー‼︎」
ミストへ向け走り、跳び、剣を振り下ろそうとする。━━速い。
レアリーギやビリーヴたちが再び火球や飛び道具で攻撃し━━、
「サコバエ‼︎」
それらをすべて避け、再びミストへ迫る。
寄せ集めの彼らは、連携がうまく取れていない。
だが、ミストは高い天井近くまで飛び退け、リアライズのソードでは攻撃が届かない。
「チッ━━、その状態での闘いに慣れてきたってか、ミスト。ウザエ、ムカツク‼︎」
効かないと知りながら、ミストへ炎を飛ばす。彼は、リアライズの手にしたソードでなければ倒せそうにない。
「いいよ、なら━━先に」
ビリーヴたちへ目をつける。
「ザコを殺す‼︎」
「ビリーヴ⁉︎」
レアリーギが、リアライズへ火球を飛ばしながら、悲鳴を上げる。
ビリーヴへ、龍のような太く逆巻く炎が残像を残すほどの速さで迫る。
バリアを破壊したそれを避けきれず、ビリーヴが倒れる。
「あの男が好きらしーけど、片想いだって? 抱いてくれない男になんの意味があんの? 男女が愛し合うってのはさ、綺麗ごとだのなんだのウザくたって、つまりは性交したりして、子孫残すためだろ」
ビリーヴへ駆け寄るヴィヴィへ、自分へアローを飛ばすアクティヘ━━レアリーギの炎を避けながら、リアライズは先ほどとほぼ同じだが、少し細い、双龍を襲わせる。
「おまえの愛しい男を射止めた女、こんなんなんで仲間にしてんの? うまいこと殺っちまえば、案外ビリーヴはそのうちおまえに惚れたかもよ。━━ついでにその女を好きな男? こいつらくっつけちまえばよかったんだよ。そうすりゃ」
ミストが、ビリーヴたちに向け、手を伸ばす。虹色の光が彼らを包み、傷を幾分回復させる。
「ウゼェ、ミスト‼︎」
「……そんな簡単なことじゃない! 人を好きになるのって……‼︎」
傷の残るヴィヴィが、自分より負傷が酷いが、膝を起こすビリーヴに寄り添い、リアライズを睨む。
「……おまえ、マジで女に惚れたこと、ねぇんだろ」
アクティもよろめきながら、立ち上がり言う。
「ならさぁ━━キャプテンを殺る!」
扉寄りに一人立っているレアリーギへ、リアライズはファイアサークルで攻撃をガードしつつ迫る。
「おまえが死ねば、ミストも死ぬ‼︎」
ビリーヴたちが駆け寄ろうとするが、間に合わない。
レアリーギが逃げながら放つ炎もすべてガードし、リアライズは彼女にソードを向ける。
「ミストの虹色のバリア? それなら、斬れる。バリアごと、斬り刻んでやる‼︎」
「きゃああ⁉︎」
追いつめられたレアリーギ。降る、青い影━━ミスト。
リアライズは、レアリーギを護ろうと飛び出したミストを、黄金のつるぎで斬り捨てる。
「……ミ、ミスト……?」
《レアリーギ……俺は、おまえを……》
ミストの姿が、レアリーギの目の前から消える━━。
レアリーギは呆然と、彼の消えた空間を見つめる。
「ジ・エンド? 姉さん庇って消えられて、きゃつも幸せだったかもねぇ? つーか、むしろバカ? モノにならない女に惚れて、なんのメリットがあるってーの?」
レアリーギの瞳から、涙が溢れる。
「あれ? なんで泣いてんの? レア。だって、おまえ、ミストなんか好きじゃねーじゃん。アイツのせいでおまえは苦しんだり、悩んだりしたんだろ? ミストはむしろ、おまえを騙し、裏切ったんだぜ。あんなん、とっとと見捨てて忘れろよ。つーかオレだったら、とっくにそうしてるね。それとも、利用するため、見捨てなかったの? ワカンネー。場に流されて泣いてんの? 悲劇のヒロイン気取り? 涙なんて、所詮は自分のためだろ? 言い訳だったり━━自分を正当化するためだったり、同情引くためだったり、ストレスを溜めないためだったり、自分の感情を抑え━━自分の心を護るためだったり、いい人のふりしたり……。クロコダイル・ティアーズって知ってる? そら涙━━いうなれば偽善って意味だって。涙なんて、所詮、偽善じゃん」
「……リア、あんた」
「あぁ、怒った怒った。なんで怒るのかなあ? 平等とかいうくせに、自分と考え方違う奴には、そうやって━━自分の意見押しつけようとするんだよね。子どもを親がしつけるのだって、要するに洗脳じゃん。本だって、社会だって━━人民を洗脳しようとしてるじゃん?」
ビリーヴたちが、負傷したまま武器を向け、リアライズを囲むようにしている。
リアライズのファイアウォールは、すでに攻撃に消えている。
「じゃあ、あなたは……」
レアリーギは涙を堪えながら、リアライズの自分と色の逆の瞳を見上げる。
「ないの? 親に手を引かれたり、抱っこされたり、おんぶされたり、頭を撫でてもらったり━━そういうのに、憧れたり、すてきな友だちや恋人に出逢えたらいいなぁなんて思ったり……っ、自分をわかってくれたり━━相手のことをもっと知れたらいいなぁって思ったり……」
涙で、声がしゃがれている。
「本の中のシーンに憧れたり、広い世界を見たいと思ったり……、いろんなことを知ったり見たり、いろんな心や文化に触れたいと思ったり━━そういうの、ほんとに、少しも、無かったの……ッッッ‼︎?」
リアライズは少しの間黙っていたが、顔を上げ、表情の読めない目をし、口元だけで、笑ってみせた。
「……どうして僕が、姉さんじゃなかったのかな……」
「え?」
「……双子なのに。同じ捨て子なのに━━。姉さんなんか、僕より、わけわかんない育てられかたしたんだろ? それとも━━それが、閉ざされた場所だから? 破天荒的だから? ……友だちも、好きな奴もいて……」
《レアリーギ》で、みんなに囲まれ笑う自分が、レアリーギの脳裏に関く。
「……僕は、もう、自分以外は、信じられないよ。自分も━━信じられないよ……。
王座━━それだけが、僕の人生のすべてだった、親や、僕を捨てた奴らを憎んで、レアを嫉んで、ミストは……僕のことなんて、ちっとも考えちゃくれなくて……。周りにいたのは、みんな、僕を道具としか見ない奴らばかりで━━。自分たちの利益のため、僕を立て、いつか、王座を奪うよう育て━━。僕は生存がバレないよう、世間から隠れて育てられ━━誰も、僕自身なんか、見ちゃくれない。僕の自意識なんて、かえって邪魔で━━、彼らの思うように動く人形以外の心は、いらない。大切なのは、僕の血━━。王族の血。自由のない、血の奴隷だよ━━。……だから、王座を購ち取って、そんな奴らみんな、死刑にして━━、レアも殺して、僕は、僕に、なって……」
「誰も、いなかったの……? あなたには、本当に……誰も……?」
「オレが悪かったっつーのかよ‼︎? じゃあ、レアがオレと反対だったなら、どうだったよ? ━━憎まなかった‼︎? 自分を捨てた親を━━レアは、憎まなかったってーのかよ‼︎?」
『なぜ、わたくしは、生きているの……』
レアリーギの胸に、いつも抱えていた需のような思いが蘇る。
『……なぜ、わたくしは捨てられたの……?』
「僕は王座を手に入れ、やっと、オレのための居場所を手に入れ━━奴らのいいなりではなく、オレの意志で、このイスに座り、奴らみーんな、オレを束縛するものすべて、破壊してやる‼︎ オレの理解できない━━気味悪い、愛だのなんだの信じる奴ら、みんなブッ壊してやる‼︎」
「リアライズ……」
「おまえが、マジでミストなんか大事だってーんなら、それ殺ったオレ、憎いだろ?殺したいだろ。そういえよ。それとも、ミストなんかやっぱ、どーでもよかったのかよ。オレ、嘘、大っ嫌いなんだよ……。偽善、大っ嫌いなんだよ……」
リアライズは、下を見、呟く。
「……心なんか、大っ嫌いなんだよ……。嘘、言ったり、おためごかしだったり、……裏切ったり、わけわかんなかったり……矛盾ばっか……。レアさぁ。頼むからさぁ。もう、消えてよ。うるさいよ、聞きたくないよ……消えてよ」
ビリーヴには有効でも、レアリーギの声を封印する力はリアライズにはない。
リアライズは、ビリーヴたちを見回す。
「もう、ミストはいねぇし、おまえら、早いとこ逃げたほうがいいよ。死ぬよ? 見てないでさぁ、とっとと逃げろよ。じゃなきゃ、オレにつく? レアはもう、目障りすぎるから、マジで殺す……。おまえら、こんな女よか、自分の命のが大事だろ? おまえらだって━━レアが王になりえるかもしれねぇから、ついてきたんだろう? こんな女、もう、裏切れよ。手ぇ切れよ。オレのほうがずっと、強いじゃん……。レアだって……助かるなら、仲間だって、スケープゴートにするだろう?? なあ、そうだろう??? 人と人との関係なんか、利害関係しかないだろう?? なぁ、そうだろう━━???」
ビリーヴたちは、リアライズに武器を向けたまま、動かない。
「なんで?? 全然、わかんない……。レア、━━おまえ、あいつら殺せよ。そした逃がしてやるよ。なぁ、それなら、いいだろ? それなら、おまえ、奴ら裏切って……」
動かないままのレアリーギやビリーヴたちを見回し、リアライズはかぶりを振り、リングをした手で、前髪を掴む。
「わかんねぇ━━ワケワカンネー……。おまえら、自殺志願者? なんでそんなに……何が、何が得られるっていうんだよ……そんなことして……」
「利害関係だけじゃない━━人は人を信じる。そこに、利益がなくとも。たとえ破滅しかなくっても━━それでも、愛しいと思ったりするんだよ……」
レアリーギはビリーヴたちを見回す。
「ビリーヴ、ヴィヴィさん、アクティさん━━。もう、武器を向けるのは、やめよう。わたくしたちは、話し合いに来たのだから。リアと━━ミストと、話すために、ここに……」
ビリーヴたちは、武器を下ろし、目を見合わせ、それらを捨てる。
レアリーギは、とても嬉しそうに笑った。
そして、リアライズを見、彼に歩み寄ろうとする。
「ねぇ、信じさせてよ、リア。武器を捨て━━お互いに、力なんか、もう、捨てて━━。そして、あなたと……」
完全に理解不可能だという目でレアリーギたちを見、恐れるように後ずさり……、
リアライズは、すべてを拒絶するように叫ぶ。
「もういい! 綺麗ごとなんか、偽善なんか、説教なんか━━聞きたくねぇ‼︎」
5
「死ねよ‼︎ だったら、墓場まで仲良し偽善者ごっこしたまま死ねよ‼︎」
リアライズが、上方へ飛ぶ。
「何が、武器を力を捨てろだ? 嘘つき。そんなの見せかけだけ━━。そうだ、油断させて、レアの力で、オレのこと、殺そうとしてるくせに━━」
炎龍をヴィヴィとアクティに放つ。
「きゃああ‼︎」
「ぐうう‼︎」
「弱いくせに、たてつくな! なんで武器を捨てる! オレのいうこと聞いて、逃げろよッ! 頭足んないんじゃねぇ?」
ヴィヴィとアクティが、床に倒れ伏す。
「死んだかもね」
リアライズは色のない声で言った。
「……あんた、ヴィヴィさんたちに、なんてことを……」
倒れたままの彼らから、リアライズに目を移す。
「━━リア!」
特大の火球が、四方から床に着地したリアライズに接近する。
「甘い甘い!」
ファイアウォールで、すべてガードしきるリアライズ。
「……力に力で対抗なんて、したくないよ……。でも、あんたから大切な人護るためなら……あんたが、力捨てないなら……心、閉ざしたままなら……わたくしは、」「オレを倒すって? できもしねぇこと言うな。オレのほうが、強いに決まってる……。でも━━そっちのほうがまだ、理解できるよ……。力に力で対抗する。そっちのほうが、理解できて、安心する……。さ~て」
リアライズはヴィヴィたちを見る。
「トドメだッ‼︎」
リアライズが、炎双龍を━━
「ふざけんじゃないわよ! リア!」
レアリーギが、恐るべき速さで水球でファイアウォールを消し去り、リアライズを跳び蹴る。
「がッッ⁉︎」
双龍はヴィヴィたちをそれ、壁にぶち当たる。
「くぅ~」背中を押さえ、振り返る。「やっと、キレた? どうでもいい兵士やミストたちなら死んでもいいのに、あんな……」
「少し、黙りなさいよッッッ‼︎!」
ビリーヴがレアリーギのそばに、彼女を護るため寄ってくる。
「はぁーん? おまえが好きなのは、ヴィヴィだろ? ほっといていいの? それとも、レアのが大事なの? よかったじゃん、レア」
「ウルサイッッッ‼︎!」
間合いを取ったリアライズが、レアリーギとビリーヴへ向け、龍たちを放つ。
「━━ウルサイのは、テメーらだっていってるだろッッッ‼︎!」
動かなくなったレアリーギたちを見回し、リアライズは笑う。
「やっぱり、王座は━━オレのためだけにあるんだよ」




