Realigi 26 第二部 第二章 第四話 「たった二人きりの、姉弟じゃないッッ⁉︎」
通された王座の間には、王座に腰かけるリアライズと、その傍らに立ち、腕組むミストがいた。
《よく来た、レアリーギ……》
どこか焦がれるように、ミストはレアリーギを見た。
《神王になる気になったのだな?》
「……いいえ」
ミストは残念そうに、息を吐き出す。
《ならば、仕方がない━━リアライズ》
ミストはレアリーギによく似た━━しかし小生意気そうな少年を見下ろす。
ロイヤルブルーのチュニック・コートを着、略式の王冠を被っている。よく似合っていた。
《おまえの提案した趣向どおり、レアリーギたちの前で、俺の望みを叶えよ》
「━━待て」
ビリーヴが前に出る。
「オレは、まだ、レアに最後の━━三つ目の願いを叶えてもらっていない」
一つ目は、片方だけ青の瞳になること。
二つ目は、沈んだ《レアリーギ》から海賊船に拾われる━━
そういう形で叶えられた。
「君━━リアライズの力を封印することだって、できるはずだ。……だけどオレたちは、君と戦ったり、君の力を封印するために来たわけじゃない。オレたちは、君たちと話し合おうと……」
「ああそう」
リアライズは指環を填めた指をビリーヴへ向ける。
「━━⁉︎」
ビリーヴが喉を押さえ、口を開閉する。
「⁉︎ ビリーヴに何をしたの⁉︎ リア!」
「別に、喋れなくしただけ。願いを口にできなきゃ、奇跡は起こせないんだろ? 簡単だねぇ」
瞳を眇め、頬杖し、肘かけに片肘をついた状態で、リアライズはおもしろそうに笑う。
「これで、レアリーギの他人の願いを叶える奇跡の力は使いものにならない。レアーー姉さんさあ、そのビリーヴってのが好きなんだって? でもさ、連れてきた後の二人ーーヴイヴィとアクティだっけ? ━━じゃあさあ、まだ出逢ったばっかだし、奇跡で願いを叶えてやれるほどには、特別に大切な存在じゃねぇーんでしょ?」
《リアライズ》
「あぁ、そうでした、ミスト様。さぁ、どうぞ。願いを口にしてくださいよ」
《……一つ、俺を神仙とし、
一つ、レアリーギを花嫁とし、
一つ、レアリーギの心から、ビリーヴを忘れさせよ》
肘かけを叩きまくり、リアライズは愉しげに━━バカにしたように笑む。
「そんなんで、いーんですか? あははは、サイコーですよ、ミスト様! あんたやっぱ、レアが好きだったんだ!」
レアリーギと同じ神仙となり、他の男を心から追い出し、自分が彼女と結婚し━━つまりは、神仙夫婦として━━永遠に青の世を統べていきたい━━。
「レアと釣り合うために、わざわざ神仙になりたいってーんですか? もう、あんた死んでるんだしさぁ、別にそのまんまでいーんじゃない? それとも、その状態で力が使えるようになりたいの? それか、奇跡の神仙になることで、霊体ではなく、生身の体になれて、レアに触れられるとでも思った? つーか、他の男忘れたからって、花嫁になったからって、おまえを好きになるとは限らなくねぇ? ああ、そうか。自分で、彼女を振り向かせたいの? ケナゲー」
《リアライズ……? 何を言って……。それに、奇跡はどうしたのだ? なぜ、発動しない?》
「言ったでしょ、趣向だって! あんたさぁー、バカすぎ? どーせ、五百年前に口にしそびれた願いだって、神仙になりたいとか、そういう奴? 神仙は不老不死っていわれてたんだって? だから、それで、ずっとレアが未来に現れるまで、待ってるつもりだったんだー? ほんと、ケナゲ! でも、不老不死って、嘘くさくねぇ? 僕らを見る限り、少なくとも不老ってのは、ありえないよね? まぁ、あと何年かでもしたら、その状態で成長止まって、不老化するのかもしんねぇけど?」
《リアライズッ!》
「どなったってダメですよ。僕もう、あんたの言うことホイホイ聞いてるよーなガキじゃねぇんですよ、ミスト様? あんたの前やみんなの前でそれなりにいい子のふりすんのも飽きましたしねぇ。……たしかに昔はそれなりに好きだったかもしんねぇけど? 今は正直━━ウゼェんだよ、テメェ」
《⁉︎》
「ハエみたいに、オレにつきまとってゴジャゴジャいいやがって! レア、レア、レアって! レアばっか持ち上げやがって。なに、オレはレアの引き立て役? 同じ神仙で、双子なのに、なぜ、レアが神王で、オレがそのアシストにまわんなきゃなんねぇの?」
ミストは最初から、そのつもりだった。
レアリーギを王に。
リアライズは宰相に。
今、リアライズが座っている王座だって、レアリーギが座るまでの仮のもの━━。
借りの、玉。
「あんたはレアリーギが神王っていうけどねぇ、オレからしたら、あんなん魔王━━いや、魔神だね~。オレの王座を奪おうとする、ムカツク姉上?」
《リアライズ……》
「かわいそー、ミスト様。オレが願い叶えてくれるって、信じちゃったんだよねぇ。でも、それって無理だぜぇー? だって、オレにとって、おまえ、ただのうるさいハエにすぎねぇもん。ハエの願いは、叶えらんないじゃん?」
特別に大切な人じゃないと、願いは叶えられない━━
「つーより、ハエは目障りだから、いい加減、消してやろうと思ってね。せめて、今までお世話になったお礼に、あんたの愛しいレアと一緒に逝かせてやるよ!━━王座は僕のものだ。誰にも、議らない」
3
ミストが、わたくしのことを好き……?
リアライズが、ミストを裏切った……?
王座を護り、ミストを消し、わたくしを殺す……?
「どうして? だって、ミストは━━ハープのことが……」
ミストが、レアリーギのほうへ振り向き、瞳を━━顔を逸らす。
《俺は、最初から━━青と紫の差別なき大義、いや、迷信などじていなかった。それを掲げ、紫の奴らを取り込み、共闘を━━戦力増強をはかっただけだ………》
レアリーギの瞳が、ミストを映したまま━━呆然と見開かれる。
《ハープのことなぞ、最初から愛していなかった。利用しただけだ。紫の姫を陣営に引き入れることにより、紫の愚者どもを大勢抱き込んだ》
「……嘘ですわ……だって、あなたは、ハープの死の知らせが来たとき、あんなに悲しんで……」
《演技だ。あの陣営には紫の者もたくさんいたからな》
「ポーラスターを、あんなに憎んで……」
《演技だ。紫の者に俺を味方と思い込ませるため━━、いや、俺が第二王子を討ち取り、手柄を立て━━、王座に近づくため》
「でも、ハープの死により、あなたは紫の者を憎んだんじゃ……」
《憎しみなど元からだ。ハープが死んだからな、紫に味方するなどという愚かな仮面を剥げる機会が増えた。レアリーギ……おまえも青に味方してくれたしな……》
「でも、あなたとハープの間には、子どもが……。。彼が、青の━━ブループロミスの初代国王になったあなたの後を継ぎ、ブループロミスの二代目国王になったのでは……?」
《ありえない。あんな呪われた子ども、とっとと殺した。王子にすら、なっておらん》
「…………ッッ‼︎」
レアリーギの体が傾ぐ。
思わずミストが駆け寄ろうとするが、それを抱き留めたのは━━ビリーヴ。
《俺が、ただ一人、執着を持った女性━━それが、おまえだ。レアリーギ》
「あっはっはっはっ‼︎ 傑作、傑作、ちょー傑作‼︎ ちょー無様‼︎ そんな長いことレアだけを待ってたのに、レアは、他の男に惚れちゃったんだよ? いや、元から、あんたに逢う前から、レアはビリーヴが好きだったんだって? ━━どうよ? レア? こんなこスト様! ━━いや、ミスト! レアは自分のせいで、ミストが変わって、世界が不平等なままだと思ってるみたいだけど? 違うよね! 元から、コイツ、こういう奴だったんだよ! ムカツクだろ? こんな奴、もう見捨てちまいな! レア‼︎ 僕の前に跪いて命乞いしたら、おまえのことだけは、双子のよしみで助けてやるよ! 僕の奴隷になるならね!」
リアライズは填めている指環を眺め、レアリーギの胸のペンダントを見、笑う。
「どうもさ、ミストがこの世に留まっていられるのは、その神の黄金のペンダントーーエターナル・リライアンスっていうみたいだけど━━のせいらしいよ。それを媒介にして、ミストはこの世にいるんだって。永遠の倍頼を誓ったんだろ? だから、ペンダントが壊れるか、レアが死ぬか、レアの心がミストから離れ━━見捨てちまえば、そのうるさいハエも消えてくれるんじゃん? この王宮、じっくり探してみれば、まだまだおもしろいアイテムが出てくるかもねぇ? ちなみに、僕のこのリング━━エターナル・グラッヂはさ、僕の炎や氷や━━普通じゃありえない神仙の攻撃1
━━を強化する。こういったアイテムは、神仙じゃないと、使いこなせないけどね。━━君のその、黄金は、決して、傷つかない、神の黄金っていわれてるらし上けど、僕さぁ、見つけたんだよね」
リアライズの金のリングが光り、そこから━━黄金に輝く剣が具現化する。
「なんでも斬れる、神の黄金のつるぎ」
王座から立ち上がり、剣を振り払う。
「金とかいわれてるけど、とっても軽いんだよね。これは、エターナル・ロンリネスっていうらしいよ? なんかでも、矛盾してるよね? 傷つかないペンダントと、なんでも斬れる剣。ぶつかったら、どっちが勝つのかなぁ? どっちの力も同じ━━相殺されたりしない限り、どっちかは、傷つくよね? 強弱や、優劣━━それって、この世の道理? これでさあ、霊も━━ミストも斬れないかなぁ?」
「どうして、そんなことがわかるの?」
レアリーギが言い、ミストも言う。
《……そんな知識や剣、どこで……》
「あれ? レアにはそんな感知能力ない? あ、やっぱり? 僕は特殊アイテムに触れたりすると、その詳細情報が頭に流れ込んでくる感じに、わかっちゃうんだよねぇー。もしかして、やっぱ、レアよか、僕のが優秀? ━━あ、ミスト。おまえは、このリングの攻撃神通力? 強化力は知ってるでしょ。でも、それだけじゃなくて、このリング便利でねぇ、いろんな物を収納できるのさ! アイテムポイント感知能力もあるらしくて、うるさいおまえの隙を見て、なんとかこのソードは王宮に来てから見つけたのさ」
レアリーギが口を開く。
「ねぇ、リア。あなたは王となって、ミストを消し、わたくしを殺し、━━そしたら、どうしたいの?」
「あぁ? どーもこーもねーよ。僕は王子だったのに、瞳の色だけで差別され、捨てられた。王子としてフツーに育てられれば、もっと、贅沢ができたし、幸せになれたかもしんねぇ」
「あなたは、幸せじゃないの……」
「…………幸せだよ。今はね。王座も手に入ったし。ソードも手に入れたし……。兵も民たちも、みんなオレのオモチャだ。……オレの手の中で皆泳ぎ、気にいらねぇ奴らはみんな殺して、そうだねぇ━━もっと、貧富の差や、差別の激しい世の中になるかもね。つーか、王のこの僕の支配力が強まるよう、うるさい奴らは残虐に見せしめ殺し、オレを畏れ敬うように、この世の中の奴ら、しつけ直してやる? 絶対王権って、僕、好きだなあ。僕が王様である場合に限るけど。
━━ねぇ、レア? この世の一体どこに、真の平等があるの? 王だって、君の使えるその━━大切な相手だけひいきする三つの奇跡━━それだって、立派な差別だろ?」
どこか悲しそうに、リアライズは言う。
「ねぇ、姉さん。姉さんは睡の色で差別されない世を創りたいみたいだけど、それって、なんで? 罪滅ぼし? そのビリーヴって奴隷と一緒になりたいから? ……もしも瞳の色で差別されない世を創れたとして、それって━━平等? 平等って、そんな単純なもん? 瞳以外でも、人は人や生物をいくらでも差別するよ。……顔・姿・形、貴賤・生まれ・健常者か障害者か、年・性別・職業・頭・カ━━カの差や上下関係なんか、動物にだってあるし。そこに生物がいる限り、他があり集団や社会がある限り━━差別なんて、いつまでたっても、なくならないじゃん?」
「でも……瞳の色で差別されない世を創れたなら、それにより苦しむたくさんの人々を解旅できる━━少しは、平等に近づけるはず……!」
リアライズは剣を構え、一歩、レアリーギに近づく。
「オレ、そういう偽善? 大ッッ嫌いなんだよ! なんだかんだいったって、一番かわいいのは、自分自身じゃねぇか━━。愛だのなんだの綺麗ごといっても、所詮、一番かわいーのは、自分自身なんだ。だから、他人を見下し、蹴落とし、のし上がろうとする。他を、差別する。━━おまえだって」
レアリーギ以外の者たち━━ミスト、ビリーヴ、ヴィヴィ、アクティを見回す。
「今は、一緒にいるかもしんねぇけど、いつ、コイツらを裏切ったり、裏切られたりすっか、わかんねぇじゃん? 自分がピンチになったら、コイツら捨てて逃げたり、盾にしたり、売ったりするかもしれねぇじゃん━━いや、するはずだ……。おまえだって、人を差別したり━━特別視したり、軽蔑したり、するだろう? 面識のないーーおまえにとってどうでもいい、紫の兵士たち、過去でたくさん殺したんだって? ソイツらと、ビリーヴたち、どこが違う? 知ってるか知らないかとかで、簡単に味方やら友だちやらといって助けたり━━速攻切り捨でちゃったり? おまえのどこが、平等謳えるほど、立派な人間? ……そんな奴、絶対、この世にいない。全く差別しねぇ奴なんか、いるわけねぇじゃん。仲間面した奴らだって、親切面した善人に見えたって、影で何言ってるか、何思ってるか、わかんねぇじゃんッッ! ━━どうして、人なんか、他人なんか、信じられるっていうんだ?」
「他が、集団がある限り、差別はなくならないかもしれない。そうだとしても……一人じゃできないことだって、人と協力すれば、できることだってあるじゃない!」「だから、それも差別だろ? 仲間だけ━━都合のいいときだけ、他を利用する。利用できる間だけ、ひいきする」
「そんなことばっかいってたら、リア、あんた、一生独りよ⁉︎」
「望むところだ。僕は、僕が一番大切だ。自分の心に正直だ。偽善者なんかより、よっぽどオレのがよくねぇ? それに、僕は王。兵だって、民だって、動かせる。人海戦術だって、なんだってできるよ? このオレの、どこが一人? 別に、オレはさ、いーんだよ。他のための三つの奇跡なんて━━偽善の力なんか使えなくて。僕には、神仙の力も、リングもソードもある。王座もある。━━それで、十分だッッ‼︎」
剣を持つのと逆の手に填ったリングを、顔の前に持ってくるようにして、レアリーギたちに見せつける。
「試してみよーぜ! オレとレア。どっちが強いか‼︎ 五対一で構わないぜ。兵士なんか呼んだりしねー。王座の間の扉を、氷づけにしてしばらく封印しとく。誰の力も借りねぇ。それでもオレは、おまえくらい倒してみせるッ! 世の中、強いもんがちなんだよ‼︎」
4
リアライズの起こした特大の炎が、レアリーギに迫る。
「バカ、リア……‼︎ わからずやッッ‼︎」
それを避け、レアリーギは、リアライズに向け、手のひらを突き出す。
「なんでわかってくんないのよ⁉︎ あるじゃない、信じられるもの……! 目に見えなくったって感じられる絆や、自分以外にも、好きだったり、いいなって思ったり、そうだよねって共感したり、わかりあえたり、その人がいるだけで、幸せだったり━━そういうの、あんたにはないの⁉︎」
「━━ねぇよ」
くぐもった声を出し、リアライズはまた炎をレアリーギに向けて走らせる。
レアリーギは飛び避けるが、死角から、別の炎が迫る。
《レアリーギ!》
ミストがレアリーギのそばに飛び出す。炎はしかし、二人を焼かず━━二人のそばに突如張られた虹色の膜のようなバリアが、炎をガードする。
「……レアのペンダントの力。永遠の誓いを交わしたレアをミストは守護する━━。いわゆる、守護霊みたいなもん? レアのピンチに、それが━━レアを護るための力が発動したってか、ミスト?」
顔に近づけたリングから聞こえる情報に、リアライズは嗤う。
いつまにか、ビリーヴたちが獲物を手に、王座を背にしたリアライズを、遠巻きに取り囲んでいる。
ビリーヴの獲物は、ブーメラン。
ヴィヴィの獲物は、投げナイフ。
アクティの獲物は、クロスボウ。
本来は、ビリーヴはソード、アクティはシミターを獲物としているが、サブに持っていた獲物に切り替えた━━ソードとリングを装備したリアライズには、こちらのほうが有効だと判断した。
「話し合いに来たとかいって、結局は武力行使? 正当防衛とか過剰防衛とか━━あぁいうのも、オレ、好きじゃねぇなあ。あと、戦争中とか━━大義あったりすりゃ、人殺しても正義とされるとかさあ。正義も悪もどうでもいい。正当とか過剰とかも嘘くせぇ。結局は、やったかやられたか。━━それでいいじゃねぇか。おまえらも、最初からさぁ、話し合いだのなんだのわけわかんねぇこといってねぇで、とっとと━━それこそこんな王宮に来る前に、オレの力封印しちまえばよかったのさ!」
「ねぇ、リア。わたくしじゃだめ? わたくしじゃ、あなたの大切な人になれない?わたくしは、あなたのことがもっとよく知りたい! だって、もう、たった二人きりの、姉弟じゃないッッ⁉︎」




