Realigi 20 第二部 第一章 第二話 「なかなか興味深いな、レアリーギ」
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「ミスト、ハープ……」
ベッドに腰かけ、レアリーキは呟く。
《おもしろいものを見たぞ》
突然目の前に現れたミストが、微笑む。
《あの奴隷、女がいたぞ。しかも、あの奴議、━━瞳が紫色へ戻ったぞ。くくく、これで奴も終わりだな!》
愉しそうに笑うミスト。
《……相手の女が青い瞳だというのは、気に食わんがな》
ドアがノックされる。
「レアリーギ? ここが、君のいる部屋だよね? ビリーヴだけど……」
「ビリーヴ⁉︎」
ミストとドアを交互に見やる。
《ああ、アイツにはもう、俺の声も聞けんし、姿だって見えんぞ。それができるのは、仙人や神仙━━隠法使い━━そういった者だけだ》
レアリーギはそっと、ドアを開く。
「ビリーヴ……?」
「よかった。やっぱり、君も無事だったんだね」
レアリーギに笑み、ビリーヴは部屋へ入る。
━━紫の、瞳……
本当に、ビリーヴの瞳は、両目とも紫色だ。
レアリーギはミストを振り返る。
「どうしたの?」
━━見えてない……! ビリーヴには、ミストが見えていない。
「なんなの……。あなたはなんなの……。ミスト……」
《さあ? 俺にもよくわからぬが━━霊体のようなものか? 俺は死後、この━━若い頃、革命軍で活躍していたころの姿に戻り、以来ずっと、この世に留まっている。俺はただの非力な霊体にすぎんからな。人の世を見物するばかりだ》
ミストは笑う。とても愉しそうに。
《ずっと、子孫である王族や、同胞たる青の人々を見てきた。青の世の紫栄を願いーーそして、おまえを迎えるために》
レアリーギの瞳が大きくなり、揺れる。
《おまえは未来へ還ったからな。必ずいつか、現れると━━再会を信じ、待ちわびていた》
「レアリーギ……?」
心配そうに、宙を━━ミストを見つめる彼女を、ビリーヴは見ている。
《だが━━おまえはヒースの呪いで捨てられ、開ざされた海域にゆき、こんな、こんな、奴隷なんかに……!》
ミストは狂おしくビリーヴを睨む。
《なぜ、神仙が━━俺の子孫でもあり、青の神でもあるおまえが、柴の人種などに、心を寄せる……⁉︎》
レアリーギの胸元で、金の舵型ペンダントが光る。
『……これを、どうか、我らの━━永遠の信頼の証に……』
「神……?」
《そうだ、紫の神など廃し、俺は新たなる神を青の民に広めた。青の世を守護し、そして━━やがて人界に現れる、女性の海神━━おまえだ、レアリーギ》
口元に拳を当て、レアリーギの瞳の揺れがひどくなる。
《王が神なれば、我らが青の世は永遠に祝福される。俺も、子孫である王などはそれなりにかわいいが、仕方ない。俺の声は奴らには届かぬし、おまえに黙って王座を譲ったりはしないだろろう》
「あなたは……」その場に倒れるように座り、レアリーギは呻く。「あなたは、どうして、そんなに━━王座や、青の瞳にばかり、縛られて━━囚われてるの……? わたくしの━━せい……? そうなのね……?」
わたくしのせいで、ミストはこんなにもなってまで、死して尚━━この世にいる……!
「あなたの、ハープへの愛は……それとも、紫の民への憎しみや、悲み━━そして、青の世の繁栄や王座への執着は━━深いの……?」
「ミストが、いたんだね……?」
レアリーギの肩を背後から掴み、彼女を支えるようにしていたビリーヴが囁く。
レアリーギは、頷く。
「ビリーヴは、わたくしが憎くない? わたくしがいなければ、この世は━━もっと、平等で、平和で……少なくとも、あなたが柴の瞳というだけで差別されることはなかったのかもしれない……!」
ビリーヴは床にしゃがみ、彼女を背中から強く━━抱きしめる。
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ドアが再びノックされる。
「ビリーヴ、あの、もうそろそろいい……?」
ヴィヴィの声がする。ビリーヴは静かにレアリーギから離れ、ドアを開ける。
金髪の、かわいらしい、貴族の令嬢然とした格好をしたヴィヴィが現れる。
ビリーヴは、レアリーギを気遣うように見る。頬を戻に濡らし床に座ったままの彼女が、呆然と━━ヴィヴィを見上げている。
「……紹介、しとくね? ヴィヴィ、彼女はレアリーギ・オレの、命の恩んだ。レアリーギ、彼女は……ヴィヴィ……オレの……」
ビリーヴは少し、頬を赤くした。
「オレの、恋人なんだ……」
「ごめん、レアリーギ、ちょっと、外す……。後で、話があるから……」
申し訳なさそうに言って、ビリーヴはヴィヴィと一緒に、部屋を出、どこかへ行ってしまう。
レアリーギは、閉ざされたドアを、しばらく呆然としたまま見つめている。
《見たか。アレが、奴の女だ》
ミストの声がする。
声がするのに、姿は見えない。
部屋の外、通路にでもいるらしい。
<酷いよなぁ? 泣いているおまえを見捨て、女と出ていってしまったぞ。だから、紫の奴など僧用できぬのだ。おまえは奴らから青と紫の平等な世界などという愚かな考えを吹き込まれたようだが、本当に、それでいいのか?》
「あなただって━━昔は、青も柴もない世を━━望んでいた」
少しだけ、間が空く。
<あぁ、若かったからな……。だが、おまえが言ったのではないか。ハープの死の知らせが届いた、野営地の夜で。紫の瞳など、信用できぬと》
「……………………」
《今からでも、考え直せ。俺は、待っている。おまえが、心の底から、青の理想を実現させ続ける━━青の神王となりし日を望むことを。昔のあなたは……》
ミストの声に、憧れと、畏れが滲む。
《もっと、カリスマ的で、それこそ、神のようだった。……あの頃の、あなたに、再びお逢いできるよう━━。今のあなたは━━おまえは》
声が、口調が戻る。
《ただの、人の小娘のようだ。あんな、奴隷のためなどに涙するな。おまえが王になれば、あんな奴隷の体など、いくらでも好きにできるのだ》
「でも……心までは、自由にはできない……」
《望めばいいではないか? おまえは奇跡の神玉。おまえの力で、あんな奴隷の心も体も、虜としてしまえばいい━━》
レアリーギは、 涙を手の甲で拭い、立ち上がる。
「それは……きっと、不可能よ。あなたのいう、奇跡のカ━━それは、万能ではないわ。できることと、できないことがある。……たぶん、無理なのよ。自分のための願いを、その力で安易に叶えることなんて」
ドアへと近づく。
「奇跡を使いし者にとって、大切な誰かの、とても強い願いを、一人の相手につき、三度まで━━それしか、きっと、叶えられない」
ビリーヴがヒースの願いを叶えられたのは、それが、自分にとってとても大切なコーラルの父だから。コーラルに父を頼まれたから。
彼は━━コーラルの代わりとして、ヒースの願いを叶えた。
『オレに……再び奇跡が起こせるなら。誰かの望みではなく、なにより、オレ自信の望みとして。叶えられるなら……。どうか、あの迷宮でのオレたちの行動が引き起こした、この、還りなき海から霧を晴らし、眠りなき船に━━安らかなる、眠りを……」
ヒースの三つ目の願い、レアリーギの力の封印は、ミストの願いにより、キャンセルされた。だから、たぶん……、キャンセルされたことにより、コーラルを対象とした三つ目の奇跡がまだ使え、それにより━━コーラルたちの眠りを叶えた。彼が眠りについたことにより、海域から、霧が晴れた。
『最後の、オレの最後の願いだ』
『オレたち、二人に、生を……!』
『どうか、わたくしたちを、この世界が抱きしめて━━生きてゆけるよう……』
二人は、生を望んだ。
ビリーヴは、レアリーギを対象に。
レアリーギはビリーヴを対象に。
奇跡を叶えたのかもしれない……
「そして、」
ドアノブを握ったまま、言う。
「ビリーヴの瞳が戻った。━━これは、たぶん……力を使い果たしたからではないかしら? わたくしたちの力には、限りがある。ならば、簡単には力は使えない……」
だけど、もしかしたら。
強い強い願いなら。
自分の望みでも叶えられることもあるのかもしれないけど……
ビリーヴは、何より自分の望みとして、コーラルたちに眠りをもたらすよう……そう、言っていた。
自分たちが《レアリーギ》が沈み、生を……結果的に、この海賊船に拾われるということでとりあえず叶えられた願い。━━それだって、相手の願いだけでなく、自分の願いとしても、強く強く望んだ……
ドアを開く。
腕を組んで壁際に立っていたミストが笑う。
《なかなか、興味深いな、レアリーギ》




