Realigi 19 第二部 誰もが微笑める世界を 第一章 新たなる王 第一話 「オレも、愛してます……」
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波しぶきを上げ、船は進む。
黒地に白いドクロテ━━ではなく、黒地に白い砂時計の海賊旗。彼らはそれを、船を襲う時に掲げ、早く降参しないと死が迫ると脅す。
━━そう、海賊船。
ビリーヴたちは、海賊船に乗っているのだ。
「わたしは、奴隷船で本土へ連れていかれたあなたを追おうと思って━━本土への船に乗ったの。そしたら、嵐が来て、航路を維持できなくて、更にこの━━《テンペスト》っていう、海賊船が、わたしの乗っていた連絡船を襲って……」
ベッドの上で泣き震えるヴィヴィを抱き返したまま、ビリーグは上体を起こす。
「怪我は? どこにも怪我はありませんか? 酷いことを、されませんでしたか?」
心配そうに自分を見つめるビリーヴを見て、ビィビィは微かに瞳を揺らす。
「ビリーヴ……? あなた、少し、変わった……?」
ヴィヴィは、金目の物を略奪する海賊たちに、その美しさと貴族娘然とした格好に目をつけられ、この船に拉致されたのだ。そして、海を流れてきたビリーヴたちをヴィヴィが見つけ、彼らはこの船で介抱された。
「そうか……」
助かったのだ。自分にとっては、最後の奇跡の力で。
「でも……どうしてですか? どうして、オレなんか追って……」
船室のドアがいきなり開く。
「⁉︎」
- 現れた二十代前半くらいの男性が、ベッドの上の二人を見、顔色を変える。
オレンジ色の髪に、青い瞳。青いバンダナに紫のシャツ、黄士のハープパンツ姿だ。
「て、てめぇ、俺様のヴィヴィに何してやがる⁉︎」
「国王が、変わった?」
ベッドから身を起こした状態で、出された飲み物を取りながら、レアリーギは眉を寄せる。
海賊の女性が、腿を手で叩き、イスに座ったまま身を乗り出す。
「そうなんよ! ミザント元王子が、元国王を殺し━━新王となったんだとよ」
「待て! 逃がすか、てめぇ、俺様のヴィヴィとどういう関係だ⁉︎」
船内通路をヴィヴィと一緒に走りながら、ビリーヴは声を上げる。
「なんですか、お嬢様、アレ!」
「この海賊船のキャプテンのアクティ! なんか知らないけど、気に入られちゃったみたいなの!」
「気に入ら……って、こっち!」
通路を何度か折れ曲がる。
「キャプテンっていっても、普段は下っ端みたいなラフな格好で、そっちのほうが好きみたい」
「へぇー。なんか、いいね、そういうの」
「んー。連絡船で襲われたときは、もっと偉そうな海賊のキャプテンっぽい格好してたけどね。結構変なとこもあるけど……わりといい人みたいよ?」
「そうなのか?」
「紫の瞳のあなたも、もう一人の不思議な瞳の彼女のことも、ちゃんと介抱してくれたし。瞳の色で差別したりしない人みたいよ。この船には、青の瞳の人も、紫の瞳の人もいて、同じように笑ってるし。どこだか知らないけど、アジトの島があるみたいだし。海賊って、結構ナゾよね~」
たまたま目についた部屋へ飛び込む。
開ざしたドアのそばに背をつけ、壁の向こうに耳をそばだてる。
「ヴィヴィ~! 愛してるぅぅぅッッッ‼︎!」
熱烈な声と、騒々しい足音が遠ざかる……
「「ふう……」」
ため息をついて、二人は船室を見回す。
大きな地図や旗、箱やタルや、船の模型、よくわからない魚の像などが置いてある。
「な、なんか物置?」
「ビリーヴ! うれしい……!」
いきなり抱きつかれる。
「お、お嬢様……」
「また、あなたに逢えて! あなたが無事で、本当によかった! 海賊に捕まったときは、もう、どうしようかと思ったんだから! あれ? なんか、背、伸びた? それに、少したくましくなったみたい……。雰囲気もやっぱり、ちょっと変わったかなぁ?」
ビリーヴは彼女から瞳を逸らす。
「お嬢様……オレ、プレスト様からお聞きいたしました」
プレストは、ヴィヴィの父親の気に入りの側近である。密かにヴィヴィとつきあっていたビリーヴの存在を嗅ぎつけ、ヴィヴィの父親にそれを告げたのも彼だった。
「お嬢様は……、あの夜、港には来なかった……」
いつも、比べてばかりいた。
彼女と、自分を。
とてもとても不安で……
「お嬢様」彼女の肩を掴み、自分から遠ざける。「ご婚約……おめでとうございます」
彼女は、自分を捨てた。
青の瞳の貴族との、婚約が決まったから。
━━だから、来なかった。
どっちにしろ、奴親は一人では船には乗れない。港から一人、連れ戻され、奴隷船に乗せられ━━その間、一度も彼女は、自分の前には姿を見せなかった。
奴隷の自分より、彼を選ぶのは当然だ。
最初から。
不安で不安で。
彼女の、自分への思いさえ、疑っていた━━信じ切れなかった。
いつか、捨てられる日が来る……
わかっていたはずなのに。
「なにそれ……本気で言ってる?」
ヴィヴィの腫が吊り上がる。
「最低ッッッ‼︎!」
ビリーヴの頬がはでに鳴る。
彼を打った手を震わせ、ヴィヴィは下を向く。
「最低……! あんたなんでいつもそうなの? オドオドしてて、人の顔色ばっか見てて、わたしの気持ち、ちっとも、ほんとには言じてくれない!」
奴隷だから? わたしが、青の瞳の貴族の娘だから?
「あんたの立場が微妙なのも、現実はそんな簡単じゃないのもわかってるよ……! でも、信じてよ! わたしのこと━━信じてよ……ッッッ‼︎!」
ビリーヴの肩を揺さぶる。
「わたしは、あなたを追ってきたんだよ! 港に行けなかったのも、奴隷船へ乗せられるのを止められなかったのも、悪かったと思ってるよ! でも、わたしは━━閉じ込められたの……! お父様や、プレストたちに……! あなたに逢いに行けなかったのよ……ッッ‼︎」
だから、家を飛び出して、連絡船に乗って本土へ行き、ビリーヴに逢おうとしたのだ。
「みんな、言うわ! 奴隷なんかに構うのは、やめろって。いい加減にしろって……大人になれって。でも……」
ヴィヴィは主張を誰にも譲らな━━I強い瞳をして、言った。
「失くしたくない、捨てられない━━大切な想いってあるでしょ? きっと、大人になっても━━何があっても━━」
ビリーヴを抱きしめる。
「あなたが━━好きなの━━心から、愛してるの……!」
恐る恐る、だが━━力強く、彼女を抱き返す。
彼女の肩の上に伏せた顔を上げ、ビリーヴは、迷いが晴れたように笑む。
「……信じます、お嬢様……」
もう、疑って伝えたり、比べて泣いたり、一人で諦めたり絶望したりするのはやめにしよう。
彼女の唇に、自分の唇を重ねる。
「オレも、愛してます……ヴィヴィ……」




