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Realigi(レアリーギ) ━━世界が誰もに微笑むなら━━  作者: うさぎさん⭐︎


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Realigi 1 第一部 忘れえぬ海 第一章 幽霊船へようこそ! 第一話 「生きているのですよ」

      挿絵(By みてみん)


   1


 長いまつげを震わせ、まぶたを上げ、柴色の瞳に世界を映す。毎朝続けられたその儀式━━途絶えるはずだったそれが今朝も続けられていることが、ビリーヴにはじられなかった。

 そう、ありえるとすれば、それが天国だった場合━━小さく皮肉げに笑んで、その考えを打ち消す。

 神などいない。天国などありえない。

 あるとすればそれは自分たちには決して微笑みなどしない、青の瞳にだけ微笑む、無慈想で残酷な神。

「……死ねなかったんだ」

その答えが絶望的すぎて、ビリーヴは世界が揺れるような錯覚を覚える。いっそのこそ、こんな世界、壊れて無くなってしまえ。

 優しい黒い━━色を隠すあの海に飛び込んだあの瞬間は、あんなに幸福だったのに。

「……どこだ」

 奴隷船の、柴の瞳の人々で溢れる部屋とは違う、奇妙に色あせ、古び、壊れたような家具の在りし部屋。ベッドは、自分の寝かされていた物、一つのみ。

 たが、その部屋は広い。寝室らしきこの部屋から続くドアの向こうには、リビングがあり、年代物の━━やはり疲れそうな家具が配されている。だが、それらはすべてかつては価値のある物だったであろう面影を残している。━━特等船室クラスのその部屋━━しかし、今はもう放置されすぎて哀しいようなその部屋のリビングで、ビリーヴはしばし停む。

『ビリーヴ、一緒に逃げよう』

 もう二度と聞くことのない声が、頭を支配する。

 俯き言葉を失くしていた彼は、ふと顔を上げる。暴りひびの走った鏡に歩み寄る。

「オレの目が、紫じゃなかったら。……この瞳をえぐり取って差し出せば、青の瞳と換えてくれる優しい悪魔がいるのなら━━。オレはなんでもしただろう」

 勢いよくぶつけられた拳に耐えきれず、鏡が悲鳴を上げ、砕ける。

「だけど、オレに待っているのは、過酷な重労働の果てにある死。食べ物も……水さえもろくに与えられず、人を人とも思わぬ扱いを受け、青の瞳に殺されるくらいなら━━オレは」

 背中を丸め、床に崩れるようにして、ビリーヴは歯ぎしりする。

「オレは━━自ら、死を選ぼうと決めたのに……!」

 自由に━━海に抱かれて、せめて、最期くらい自分の意志で、きたかったのに……!

「どうして、死に急ぐのですか?」

 ふいに聞こえた柔らかな声に、彼は顔を上げる。

「死の他には、もう、あなたは、道はなかったのですか?」

 開かれた廊下へ続くドアのそば、赤い髪の少女が立っている。

「……誰だ」

 手負いの獣のように、ビリーヴは少女を睨む。

「青の瞳のおまえに、オレの気持ちがわかるか」

「いいえ」

 少女がまっすぐビリーヴのほうへ向ぐ。

 ビリーヴは息を飲む。

 それまで見えていた彼女の左目━━それは確かに、憎むべき、ブルーアイ。

 だが、右目は自分と同じ、紫色……

「わたくしは、紫と青の瞳を持つ者」

 少女はビリーヴに注づくと、混み、彼に片手を差し伸ばす。

「ようこそ、《レアリーギ》に。わたくしは、ファントムシップキャプテン・レアリーギですわ」


「幽霊船……?」

 ゆっくりと立ち上がり、ビリーヴはレアリーギの不思議な瞳を見つめる。手を取られなかったことを気にする様子もなく、彼女は微笑む。

「気を失ったあなたが、この船のそばに流れ着いたのですわ。ですから、わたくしたちは、あなたを介抱しましたの。だって、あなたにはまだ、息がありましたもの。まだ息絶えていない者を、どうして見捨てられるでしょう」

「それが、紫の瞳の奴隷階級の者でもか」

「━━関係ありませんわ。人は、生まれたときから、等しきもの。なのになぜ、瞳の色で差別しなくてはなりませんの?」

 理解できない。ビリーヴは警戒の色を濃くし、少女を見る。

「紫の瞳の奴級階級の人々は、青の瞳の支配層級の人々に搾取さくしゅされて生きている。たかが、瞳の色一つで、青の奴らはオレたちを害虫のような目で見、その命さえ好きにできる。オレたちは奴らに扱き使われ、なぐさみ者にされ、この命さえ金で売られ、使い捨てにされる。飽きたというだけで気まぐれに捨てられたり、憂さを晴らすためだけに殴り殺されることだって少なくない。━━それのどこが、等しいと━━平等だといえるんだ⁉︎」

 レアリーギは悲しそうに笑む。

「それは、間違っているのですわ。この世界の在り方が」

「……なんなんだ、おまえは⁉︎ どうしてオレを助けた⁉︎ ……何が、狙いだ? オレに肉体労働でもさせたいわけ? それとも性奴ペット?」

 嘲笑するビリーヴに、レアリーギは嬉しそうに笑った。

「いいえ。わたしくしは、あなたとお友だちになりたいのですわ」


「……ふざけるな!」

 ビリーヴはレアリーギを部屋の外へ追い出す。ドアを閉め、鍵をかけ、その場にうずくまる。

 少女の足音が遠ざかるのを聞き、床を拳で打つ。

「……なんなんだ、なんなんだ、アイツ!」

 紫と青の瞳。

「どうして、どうして、オレを死なせてくれない……!」

 青き瞳の神を呪う。

 青き瞳の王を呪う。

 青き瞳の人々を呪う。

 ━━己の、紫の瞳を呪う。

「なぜ、生きなきゃならない……⁉︎」


 ビリーヴは従順な奴隷だった。

 今まで、たとえ片方でも青き瞳の者に、こんなふうに言葉をぶつけたことなどない。

 いや、逆らえなどしなかったのだ。多くの紫の瞳の者がそうであるように。

 そう、たとえ反逆などしたところで意味はない。

 その先にあるのは死。

 自由など、自分たちには存在しない。

 虐げられた翼が羽ばたくことはありえない。

 誰もが知っているはずの、この世界のおきて


 生まれたときから十五年、仕えてきた島の貴族の屋敷。

 希望を知らない紫の瞳の人々と。彼らを当前のように奴隷とし扱う青の瞳の人々。

 それでも、独りではなかった。

 同じ色の瞳の人々は、彼には決して冷たくはなかった。だから、生きてこられたのだ。

 青の瞳のあの少女は。

 ━━《《彼女だけは》》。

 ……世界でただ一人。青き瞳を持ちながら、自分を人間として扱ってくれたのに……

 結局は━━━━

 彼女は現れず、自分は裏切られ、連れ戻され、奴隷船に乗せられた。

「もう、信じたりしない。━━青い瞳の奴らなんか」

 あの船に乗ったままなら。

 本土へ連れていかれ、

 すでに多数の奴たちの死者が出ている、重労働の土木作業をさせられたのだ。

 王の新しい宮殿を造るために。

 ただ、それだけのために、たくさんの奴隷が売られ、この世から捨てられてゆく。

 ……耐えられなかった。

 もう、これ以上の絶望は。


「おまえさ~いつまでメソメソしてるつもり?」

 ベッドの上、布団を頭まで被り、寝ていたビリーヴに、男の声が降ってくる。まだ若い━━少年と青年の間くらいの声。

「せっかくかわいい顔してるのに、隠してちゃもったいないぜ?」

「…………ウルサイ」

 ビリーヴは寝返りを打つ。もう、どうでもよかった。どうせ一度捨てた命だ。たとえこの態度のせいで拷問を受けても、殺されても、もう、どうでもいい。

「あ、ワリイ。気イ悪くした? 別にけなしたわけじゃないんだ。おまえが気を失ってる間に顔を拝ませてもらってさ。むしろ褒めたんだ。男がかわいくったって、オレは全然オーケーだと思うわけだよ。だって、それってさ、個性だろ?」

「…………」

「とにかく、一度起きてさ、船内を歩いてみないか? おまえだって気になるだろ?自分がいる場所が」

「……奴隷のこのオレに、船内や屋敷、街を自由に歩き回る権利などない」

 皮肉げにビリーヴは言う。

 奴隷というだけで入れない、行動できない場所は多い。長時間拘束され、青の瞳の奴らが嫌がる、力仕事や汚い仕事や細々とした仕事をさせられる。荷運び、下働き、エトセトラ。体調が悪くとも休むことは許されず、少しのミスをいつまでもののしられる。鞭で打たれることや、何もしていないのに罪をなすりつけられ━━たとえば泥棒を働いたなど━━言葉で力で痛めつけられる。

 虚栄心の強い、享楽的な貴族階級の者には、使い捨てにできる奴隷をオモチャにする者も多い。首輪をつけられ、子どもの暇つぶしにされる者。闘技場で戦わされ殺される者。性の欲望の犠牲になる者。残虐な携間を快楽とする狂った奴らに体を切り刻まれる者。

 捨てられ餓死する者。奴隷市場に溢れる青き瞳の奴らの嗤い声。━━細かく上げ連ねれば切りがない。

「ホント、生きてる奴らって、アホだよな!」

 明るく笑って、ビリーヴの体の上から、彼は布団をぎ取った。

「レアが心配するぞ、さあ起きた起きた、眠り王子? なんつって」 

 ソイツを脱み据えようとし、ビリーヴは固まった。

 薄汚れた白みのある、丸い頭部に、細く長い首手足。背骨や骨盤には歪みが見られず、膝もよく伸びていて、姿勢はかなりいい。━━というより、

 《《ホネだった》》。

「ガ、ガ、ガ、ガ……」

 カタカタと音を鳴らすように感じる━━しかしそんなことはなかったのだが━━彼の顔が、ビリーヴに迫る。

「ん? 何???」

「ガ、ガ、ガ、ガイコツ……ッッッ!⁉︎」

 甲高い悲鳴が、船室に響き渡った。

 

「いや~、ごめんね、驚いた?驚いた?」

 首を傾げ、彼はすまなそうに頭を掻いた。

「でも、この船に乗ってしまった以上は、早かれ遅かれ、俺らの姿は目にすることになるからなッ!  早いトコ慣れてくれよ! あ、俺はコーラルっていうだ。よろしくな! 享年十八。そんなに年も離れてないだろ? この船について知りたいことがあるなら、なんでも俺に訊いてくれ!」

 親切げなスケルトンマドロス(?)を必死で押し退け、ビリーヴは寝室を飛び出し、リビングを抜け、通路を駆け抜ける。

 階段を駆け上がろうとし、上からやってきた新手に悲鳴を上げ、下り階段を疾走する。

「こら、階段を走っちゃいかん‼︎」

 オヤジヴォイスに足を止める。

 ビリーヴが下りかけの階段を依然と昇ってくるのは、

 ホネだった。

 ガイコツだった‼︎

「ガ、ガイコツ人間‼︎」

 モンスターだ‼︎  喋って動いて歩くホネ‼︎

「あ、よかった、目ぇ覚ましたんだね!」

 後ろからも声‼︎

 どうやら先ほど階段を昇ろうとして遭遇した化け物‼︎

「は、挟まれた……ッッ!!」

 前後を何度も願みて、ビリーヴは顔を青くし、汗を流し、暖に乾きを覚える。

「く、来るな、来るな、頼むから、来ないでくれ……ッッ⁉︎」

 今踏んでいる段はそのままに、階段の隅に移動しながら、ビリーヴは頭を抱える。


「こら‼︎  新入りを怖がらせてどうする、オヤジ‼︎」

 階段上方から現れたコーラルが、フライングキックを、オヤジガイコツに決める。

「ほらほら、オクトもんなとこでボサッと立ってないで、散った散った」

 子ども(プチ)ガイコツの横を通り抜け、ほとんど気絶しているビリーヴの手を引き、コーラルは階段を昇りきる。

「ん~、今日も海風と潮の香りが気持ちい〜ね~! ピンと張った白い帆と、どこまでも広がる青い空! これを見るたびに、生き返った気持ちになるんだよ~!!」

 さわやかに目を細めるような雰囲気のコーラルは、死人のように動かないビリーヴを振り替えって、いきなり脳天にチョップをお見舞いした。

「こら、いつまでボケッとしてるかな~? 海の男は、いかなる危機にも対処するため、常に風を読まねばならんのだよ! わかる?」

 ガイコツに手を引かれ、デッキを船首方向に連れていかれてゆくビリーヴは、その辺のなわにつまずき、見事に転んだ。

「う……!」

 それでイッちゃっていた意識がやっと戻ってきたのか、ビリーザの瞳が焦点を結ぶ。

 ━━赤い髪をツインテールにした少女。

 両腕で大きな魚を抱え、子どものような笑みを浮かべ、こちらに走ってくる。

「見てください‼︎ 大きなお魚が、釣れたましたのッッ‼︎ 一緒に食べましょうう?」

 彼女の周りには、たくさんのガイコツたち! 

「う、うわ、うわ⁉︎」

 急いで立ち上がる。

「な、なぜ、なぜなんだ⁉︎ なぜ、こんなことがありえるんだ⁉︎」

 キョドっているうちに、ガイコツとレアリーギに包囲されてしまう。

 コーラルが気軽にビリーヴの肩を叩く。

「おまえも若いのに、頭カタいね~」

 それこそ硬そうなスケルトンヘッドを揺らし、首を鳴らし、コーラルは楽しげに笑う。

「みんな、仲間が増えて喜んでるんだぜ!」

 ありえないのに、空洞となって眼球はすでにないガイコツたちが、三日月を横にしたような目をし、笑っているような気がしてならない。……とてつもなく不気味だ。

「う、嬉しくなんかないッッ‼︎ こんな、幽霊船……というか、ガイコツ船‼︎ 死んでも御免だッッッ……‼︎」

 ビリーヴの体が傾ぐ。

 慌ててコーラルが支え、心配げに彼を見、レアリーギを見て首を横に振る。

「ダメっすよ、キャプテン。コイツまた、気絶してる」  

 レアリーギは魚をそばのガイコツに預け、ビリーヴに歩み寄る。

 神妙な顔をして、彼女は呟いた。

「…………それでも、生きているのですよ。あなたも、━━わたくしも」





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