Realigi 17 第一部 第六章 第三話 「生けていけるよう」
「━━コーラル」
ガイコツたちを優しく離して、レアリーギはコーラルに歩み寄る。
「……みんな……」
ガイコツたちを見回す。━━ビリーヴと、目を合わす。
「みんなの意見を聞かせて。みんなは、このまま、この海にいたい? それとも━━もう、眠りたい……?」
彼女の紫と青の瞳に、みんな引き込まれる。
「わたくしは、ここにいるべき? それとも━━外へ、大海へ、出てゆくべき?」
レアリーギは、俯き、スカートを握り締める。
静かに顔を上げる。
「わたくしは……この船で暮らせたことを、永遠に誇りに思う。たとえ何があっても、ずっと━━忘れないから……」
皆は無言でレアリーギを見つめている。
きっと、微笑みながら。彼らもレアリーギと同じ気持ちだ。
彼女のことを、永遠に忘れない。
大好きだから。
「レアリーギ……君の、答えは? 君の進みたい航路はどっち?」
内海か、外海か。
ビリーヴに続き、コーラルも言う。
「進むべき、航路は」
俺たちのことを気遣わず━━自分の出した答えは。
「わたくしは、ここにいたい。だけどきっと、出てゆくべきなのですわ……」
「だけど……みんながこの海で、このままの日々を続けたいというのなら。キャプテンとして、友として、家族として━━わたくしは眠りを強制したりしない」
コーラルはガイコツたちを見回す。
ビリーヴは訊く。
「君が、青の王女なら。外の世界で、何がしたい? 何をしようと、しているの?」「ミストは……わたくしに、青の新王となって、青の世を守護させたいみたいなの……。だけど、わたくしは━━。わたくしは……今度こそ、創りたい……青にも紫にも囚われない、平等な世界を……!」
7
満天に輝く星々を仰ぎ、ビリーヴは微笑む。
「星って……結構、いっぱい、いろんな色があるよね……」
海も空も、たくさんの色を見せる。
世界は、たくさんの色や光や闇に包まれている。
時刻による、空や海や━━色の変化。
気象による、変化。
たくさんの、そこに━━世界に存在する、自然色。
人により、造られた色。
それこそ、たくさんの、数え切れない、色たち。
紫も、青も、黄も、赤も、黒も━━たくさんの、上げ連ねたら切りがないがないような……そのすべてに名前をつけきることなんて、決してできない、たくさんの、たくさんの、色たち。一見、似て見えても、微妙に、濃淡や色合いが違ったり……。受け取りかたが、違ったり……。変化したり……。
「不思議だよね。当然のことなのかもしれないけど……」
ビリーヴは、欄干側から後ろへ━━コーラルたちのほうへ振り向く。
「オレは、この世界に生まれて。たくさんの色が見れて……よかったって……今、思った」
コーラルの手を、握り返す。
デッキには、たくさんのガイコツたちがいる。
海や空を見ていたり、仲間たちと話していたり。自分たちを、見ていたり。
「おまえに逢えてよかった。ビリーヴ」
「オレも」
コーラルたちの、出した答え。それは━━この海に眠ること。
もう一度、星空を仰ぎ、海を、この船を━━仲間たちを見回して、
ビリーヴは、コーラルから手を離す。
「オレに……再び奇跡が起こせるなら。誰かの望みではなく、なにより、オレ自信の望みとして。叶えられるなら……。どうか、オレや、レア、ミスト、ヒース……あの迷宮でのオレたちの行動が引き起こした、この、還りなき海から霧を晴らし、眠りなき船に━━安らかなる、眠りを……」
ビリーヴから光が放たれ、船を海を空を━━世界を金色に染める。
幻想的な、美しい光の中、ガイコツたちが、生前の━━生きた人の姿に還る。
空から現れた、たくさんの人々が、船上にいる人々を抱きしめる。
「父さん」
灰色の髪をした少年が、灰髪に小太り、優しげな顔をしたセシボンのそばに降り立つ。
「ヘリング⁉︎」
「父さん、俺……」
セシボンは戻を流し、彼を抱き寄せる。
「シーマイル」
長いセピアの髪をした女性が笑む。
「カトル……」
金髪にセーラー服姿の精悍そうな青年━━シーマイルも、彼女を抱きしめる。
「聞いたよ。青の時代が訪れたんだってな。おまえもいろいろ大変だっただろう」
「あなた……」
オクトは包容を交わす人々のなか、赤い髪を揺らし辺りを見回し歩き、紫の瞳をさまよわす。小さく諦めたように息をつく。握っていた望遠鏡が震える。
頭の上に手が置かれる。
振り仰ぐと、そこに、黄緑色の髪を三つ編みにした、冷酷そうな青年。孤児だった自分を拾ってくれた、心を照らす星のような人。
わざとぶっきらぼうに、オクトは言った。
「……遅いですよ、ポーラスター様」
デッキの外━━海に浮かんで微笑むヒースを見、コーラルは息を香む。
「ち、父上……!」
ヒースは、コーラルを抱きしめる。
「おまえは、よくやった。済まなかった。わしが、バカだったのじゃ……。後はもう……」
ヒースはビリーヴとレアリーギに目をやり、笑む。生前の彼からは見たこともないような、穏やかな瞳をしている。
「生者に任せ、共に眠ろう」
コーラルは瞳から涙を溢れさせ、静かにその瞳を閉じた。
ビリーヴとレアリーギは、操舵室で、金色の舵を取る。
皆が眠った海からは、金の光が消え、黒き空に星々が広がっている。
やがて、夜明けが訪れるころ、
何かを越えた。海が変わった。
そう感じて、二人は目を合わす。
━━霧を、超えたのだ。
幽霊海域を包んでいた、今はもう晴れた、濃い霧を━━……
同時に、《レアリーギ》が悲鳴を上げる。
もう、この船は保たない━━
船が、沈みだす。
「最後の、オレの最後の願いだ」
ビリーヴは感じていた。
もう、自分からは力が消える。
瞳が━━元に戻る。
「オレたち、二人に、生を……!」
舵を握ったままのビリーヴの手に、レアリーギが、手を添える。
「どうか、わたくしたちを、この世界が抱きしめて━━生きてゆけるよう……」




