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Realigi(レアリーギ) ━━世界が誰もに微笑むなら━━  作者: うさぎさん⭐︎


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Realigi 16 第一部 第六章 第二話 「やらなきゃ、いけないこと」


「コーラル⁉︎」

 コーラルの上体が、デッキに崩れる。

 ビリーヴは、彼が気絶したのかと思った。

 だけど、

「平気、俺、ガイコツだから。だけど、こういうとき、ちょっと、不便?」

 精一杯おどけるように、彼は言った。

 だけど、声が震えていた。

 気を失うことさえできない。

 現実から、逃れられない……

 哀れな、ガイコツ……


 ……コーラルのせい……?

 コーラルを抱き起こすビリーヴ━━彼らを見ながら、レアリーギは顔を青くしている。

 ……違う、わたくしのせい……!

 わたくしが、ミストをそそのかしたから……


 ━━オレの、せいだ。

 コーラルを心配そうに見つめながら、ビリーヴは胸中で叫ぶ。

 ━━オレが、ヒースを助けられなかったから━━いや、戦いを止められなかったから……


   3


 それぞれが考えるために、時間を置き。

 夕食を取ってから、三人は船長室の机を挟んで座った。

「オレなりに愚考したのだが……」

 コーラルを気遣うように見、ビリーヴは言葉を続ける。

「あくまで想像だが……」

 ヒースは、レアリーギが不老不死だと思ったのだろう。願いを口にした直後事切れる寸前、ビリーヴの力で、レアリーギをそのまま即座に海へ封印できたと思ったのだろうか。

 しかし、レアリーギは元の時代へ━━《レアリーギ》に戻ってきたし、彼女が約十五年前レアリーギに拾われたことに変わりはない。

「もしかしたら、人の姿じゃ、そんなに長く時を過ごすことはできないから、そんな姿に━━ガイコツに、なったのかもしれない」

 青の王の世も、すでに五百年程になる。

「それでえぇと、なぜ、番人のコーラル以外のガイコツたち約二百人がまだこの船に乗っているのかは……」

 ビリーヴはこめかみを掻く。

「たぶん、番人のコーラルの世話役とか、護衛とか、そういう意味じゃないのか? ほら、王が病死したりすると、一緒に墓に入って死ぬ人々がいたり、人形とかを埋めたりするだろ? そんな感じなんじゃないかな……?」

 コーラルは俯いたまま顔を上げない。

「あ、いや、だから、きっと、ヒース国王は、コーラルをたった独りで幽霊海域に放り込みたくなかったんだよ、きっと」

 コーラルはため息をつくように笑う。

「なら……オクトたちがあぁなっちまったのは、俺のせいか?」

「いや、そうじゃなくで……!」

「わかってるよ。おまえが俺を思いやってくれてるってのはな……。でも……。そうだな、仮にオクトたちが俺の供だというなら━━俺が本当にレアを封印するための番人なら……」

 仙人のような力は、レアリーギを護り育てるためではなく━━彼女を封印するための海城の━━番人や供としての力……? それとも、また別の━━願いのなんらかの影響によるものか━━。もしかしたら、イレギュラーなものかもしれないが……「……レア」

 黙っていたレアリーギに、コーラルは訊いた。

「おまえは、どうする?」

「……え?」

「俺たちを、どうしたい?」

「ど、どうも……。わたくしは、ずっと━━このままが……いいですわ……」

 このまま、みんなとこの船で。

 このまま、ビリーヴと……

「でも、レア━━おまえは、外の世界を知らない。それに、俺たちは、もう……。もう、いい加減……この海にいるのは……」

 疲れたんだ……

 声なき声が聞こえた気がする。

 きっと、もう、みんな、疲れている……

「━━レアが来て、ビリーヴが来て、俺は本当に嬉しかったよ。他のみんなも、きっとそうだ。おまえらのためなら、あと少しくらい、この海にいられるかもしれない。けど……。レアリーギ━━ビリーヴ、ここが、おまえたちの、いる場所か? いるべき場所か? 本当に、そうか?」

 両腿の上に載せた手を握り締め、レアリーギは言う。

「そうですわ! ここが━━わたくしの居場所ですもの……ッッ‼︎」

 しかし、ビリーヴは俯いたまま何も言わない。

「ビリーヴは……違いますの? 今はまだそうじゃなくても、ここにいれば、あなたもきっと……」

「……レアリーギ……」ビリーヴはどこか悲しげにレアリーギを見る。「本当に、そう思う?」


「俺が、封印の番人なら」

 席を立って窓辺へ向かいながら、コーラルは呟く。

「俺を倒せば、幽霊海域から抜け出せるのかもしれない……」 

 ビリーヴの瞳を見つめる。


   4


 真夜中。寝返りを打ち、ベッドから下り、レアリーギは窓の外へ出る。欄干に手をついて、星空を━━夜の海を見つめる。

「行きたくない……」 

 気弱に、泣きそうに呟く。

「どこにも、行きたくない……」

 せっかく還ってきたのに……

「わたくしが生まれたのは、きっと……。この船で━━彼に逢うため……」

 今はそう、信じたいのに……


《果たしてそうかな、レアリーギ?》

 素速く振り返る━━

 開け放した窓の向こう━━部屋の暗がりの中に、誰かが立っている。

《おまえが戻ってきてからの様子を、見物させてもらったが━━。驚いたな、あの紫の瞳の奴隷が、おまえの捜し人━━しかも、あのヒースに与した魔法使いだったとはな》

 無言で彼女は、部屋の中へ引き返す。

《あんな最低な奴隷人種に逢うために、紫の瞳などに心を寄せるために、おまえは生まれてきたのか? 本当に?》

 ━━「本当に?」

 そればっかり!

 どうしてみんな、そんなことを訊くの?

 この想いが、偽りだって、決めつけるみたいに……!

《おまえは、青の瞳の繁栄のために、生まれてきたのだ》

「うるさい!  黙れ‼︎ ミストッッッ‼︎!」

《おまえは、王宮へゆき、王になるのだ》

 そこには、あのミストが、影のように立っている。

「どういうことだ⁉︎」

 ずっと、気になっていた、あのダンスホールが━━船が揺れたとき聞こえた不思議な声。

 それは━━ミストの声に似ていると!

 それに、この、ペンザント……

《おまえは、神仙であると同時に、我が血を引きし子孫なり。赤子のとき、その瞳ゆえに、城から捨てられ、海へ放り込まれた》

「し、知らない‼︎ そんなことは━━知らない…………ッッッ‼︎!」

《ヒースの呪いの影響だ。神仙の左右色の異なる瞳について、この時代には伝えられていない。そのため、おまえは王女でありながら不吉の子と間違われ、海へと捨てられてしまったのだ。……憎いだろう、ヒースが。柴の奴隷たちが。心醜き紫王しおうに与した魔法使いが》

「し、知らない……」

《あの奴隷出の魔法使いの三つの呪いのせいで、おまえは捨てられ、こんな船に拾われ、親の愛も、兄弟の愛も、友の愛も、本当の恋も知らない》

「違う!  船のみんなは優しい‼︎ わたくしを宝物といってくれる‼︎ わたくしは、ビリーヴが━━本当に、好きなの……ッッッ‼︎!」

《それが━━おまえを封印するための船でもか》

「……‼︎」

《あの奴隷は、おまえのことなど、なんとも思っていないぞ》

「…………」

 レアリーギが俯く。ミストはそんな彼女を無表情に見つめている。

「ヒースの呪いの力も長い時のなか、弱まってきている。おまえは十五となり、力も目覚めた。俺もやっと、この海域に、船に来れるようになった。さぁ、やれ━━呪われた海域を脱出し、新たな王となるのだ‼︎》

「き、消える……‼︎」

《コーラルリーフを滅せよ》


   5


『一つ、悪の魔法使いを永遠の海へ閉じ込め、

 一つ、我が息子コーラルリーフを番人とし、

 一つ、きゃつから魔王の力を失わせよ』


『一つ、神仙様が、元の時代へ遅れるよう。

 一つ、歴史が変わらぬよう、神山様が我らが出逢ったあの夜明けの海へ、あの時、おいでくださるよう……』

『最後の一つ、神仙レアリーギよ、あなたの力が、十五で目覚めるよう……!』


 ヒースとミストの願いは影響しあい、たとえば、レアリーギの力を失わせるという願いは、十五で目覚めるようキャンセルされたようだ。

 ミストが歴史を変えぬよう願ったせいで、レアリーギは赤子で捨てられ、《レアリーギ》に拾われ、過去へ飛び━━十五で力が目覚め━━元の時代に戻り……。

「ふ、深く考えると、頭がこんがらがる……」

 レアリーギは、本来は生まれつき、神仙だった━━その力が使えた━━のだろうか。

 自分は━━過去へいって、神仙と━━或いは魔法使いとされてしまった。

 だけど……

 鏡を見つめ、ビリーヴは息をつく。

 そこにあるのは、長年見慣れた両目同色の紫……ではなく。

 紫と青。或いは、青と紫。

「瞳の色だけで虐げるのも、褒め称えるのも、おかしい……」

 憧れていたブルーアイ。

 だけど……

「別に、どっちでもいい」

 なげやりにではなく。

 そう思う。

 瞳の色が何色だとて━━きっと、自分は、ビリーヴだから。


「皆に、真実を話そうと思う」

 一夜開けて。

 コーラルはビリーヴにそういった。

 ビリーヴは、コーラルを見て、柔らかく微笑んだ。

「それは、どうして?」

「……皆、きっと、知りたいと思うんだ。真実が━━意味が。なぜ、ここにいるのか━━己があるのか、皆、それがわからなくて、さまよっているのだと思う。だから、俺は……」

「いいんじゃない?」

 ビリーヴは、コーラルの手を握って笑む。

「コーラルが決めたんだから。……だけど、君だけが悪者になることはないよ。……オレも、いるから」


「……どうしてですの」

 くぐもった声に、通路にいた二人は振り返る。

「どうして、今のままでは、いけませんの?」

 レアリーギが一人、立っている。

「どうして、わたくしの世界を、破壊しようとするの……?」

 わからないのに。

 未来のことなんて、わからないのに。

「話してしまったら、何かが変わってしまうかもしれないのに……!」

「レアリーギ?」

 ビリーヴがレアリーギに近づこうとする。

 レアリーギは少し、後ずさる。

「ビリーヴは、わたくしが、お嫌いですか?」

「レア……」

「わたくしは、今のままがいい! 他の世界なんて、いらない……ッッ‼︎」


「大丈夫だよ」

 ビリーヴは、レアリーギの手を取り、微笑む。

「みんな、何を知っても、君のことが好きだよ。━━《レアリーギ》のみんなは……」


   6


 再びホールに集ったガイコツたちに、コーラルとビリーヴは語りだす。

 レアリーギは、一人、ホールの隅で俯いている……


「……と、いう、わけだ」

 コーラルが話を締めくくる。

「六つの奇跡がいかなるふうに作用したのか、ここにいる二百余りの皆は、俺と共にこの船に残ることを強いられたらしい。すべて、俺の責任だ。……」

 コーラルは、突然その場に跪き、皆へ向かって頭を下げる。

「許してくれとはいわない。罵ってくれていい。俺のせいで、船内にいた家族や親しき者が亡くなった者もいるだろう。国に、大切な者を残してきた者もいただろう。長き時の中、苦しませてしまって、誠に申し訳ないと思っている」

「コーラル……」

 ビリーヴは彼の隣に膝をつき、ガイコツたちに頭を下げる。

「彼のせいだけじゃない。六つの半分は、オレの力だ……! 本当に、済まない」

 ホールが静けさに包まれている。

「コーラルって、バカだよね」

 オクトが、低く呟いた。

「ビリーヴも、案外、バカだねぇ」

 呆れたように、セシポンも言う。

「もう、今は、この船には、コーラルリーフ派も、ポーラスター派も、その他バカな利害関係絡んだ派閥なんかも無いッス」

 シーマイルが、笑顔で言った。

「あなたはもう、傲慢でわがままな、コーラルリーフ王子ではない」靴音を響かせ、オクトが、コーラルに手を伸ばす。「《レアリーギ》の仲間の一人! コーラル。ここにいるみんなは、」皆を見回し、「みんな、仲間! ━━そうだよね?」

 皆が歓声を上げ、コーラルとビリーヴに駆け寄ってくる。

「苦しいことばかりじゃない。楽しいことだって、いっぱいあったよ!」

「誰かのせいなんて……そんなん言ったら、この船に乗った、俺だって悪いといえなくもないかもしんないし。キリがないでしょ」

「コーラルは悪くないっしょ! だって、コーラルが何をしたっていうの? 船主だった

だけじゃん」

「ビリーヴだって……」


 ガイコツたちに囲まれて見えなくなるビリーヴたちのほうを見て、レアリーギは心を揺らす。

 ……時間が、彼らに降り積もった時間が、彼らの心を溶かしたのだ。

 仲間に、したのだ……

 新入りの、ビリーヴだって……


 仲間I━━皆、等しく尊い同胞。

 そんなことを言い出したのは━━或いは行動で示したのは、誰、或いは誰らなのだろう。

 広げたのは、誰、或いは誰らなのだろう。

 この、船の心を。

 ……誰でもいい。

 皆が笑う。

 ビリーヴは、コーラルと一緒になぜか胴上げされながら、ふと、思う。

 仙人なんて、そんな不可思議な力で、彼らを祟めるたりするのではなく、その、心こそが━━

 心こそが、きっと……

 とても、綺麗なんだ。


 胴上げされながら、ビリーヴは、赤毛の少女を目で捜す。

「レアリーギ……」


「レアリーギ!」

 一区切り着いたところで、ビリーヴはレアリーギへ駆け寄る。

「レア‼︎」

 気づいたガイコツたちも寄ってくる。

「どうしたの、元気ない?」 

「悪いものでも食べた?」

「時を越えたせい?? 大丈夫?」

「それとも、誕生パーティーが中途ハンパになっちゃったから、ねてるの?」

「もちろんレアだって、大切な仲間だよ!」

 笑いかけ、心配そうなガイコツたちを見、レアリーギの瞳から戻が溢れる。

 ビリーヴは、彼女へ頷き、微笑む。

「みんな、君が好きだよ。きっと、ずっと。何があっても━━」


「わたくしと、ずっと、一緒にいて。どこにも━━行かないで━━」

 ガイコツたちに抱きつくレアリーギ。

「行きたくないの、どこにも、外なんて。ずっと、みんなといたいの━━。いなくならないで」

 やっと、わかったの。

 あなたたちに逢うために生まれてきたの。

 ここが、故郷なの……

「わたくしが、わたくしのせいなの、わたくしが、ミストを変えたの。わたくしのせいで、世は平等にならなくて……紫の人々は搾取され……。ミストは、まだ、この世にとどまっているみたいなの……。怨霊か何かに、なってしまったのかもしれない……。わたくしは、青王となったミストの子孫で……。青の王女みたいなの……。わたくしは……」

 ずっと、みんなといたい━━。

「わたくしには、きっと、やらなきゃいけないことがあるの……」


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