Realigi 15 第一部 第六章 眠る海 第一話 「俺の、せい」
1
金色の光が消え、船の揺れが収まる。
コーラルが再び顔を上げたとき、《レアリーギ》のダンスホールから、ビリーヴとレアリーギが消えていた。
周りのガイコツたちを見回し、コーラルは急ぎ歩く。
「レア⁉︎ ビリーヴ⁉︎ ビリーヴ……⁉︎」
再び船が揺れ、背後から、金色の光が溢れ、振り向くと、そこに━━ビリーヴたちが立っている。
「ビリーヴ! よかっ……、━━⁉︎」
コーラルは息を呑む。
「ビリーヴ、おまえ、その目……!」
ベッドに横たわるビリーヴを、隣のイスに座ったコーラルは見つめている……
「……」
見上げると、ガイコツがいた。
とてもとても懐かしい……
と、いいたいところだが━━
「ウワァァァァッッッッ‼︎?」
ド迫力のドアップに、アッパーを入れる。
コーラルの頭が、宙に舞った。
「ウギャオオ⁈」
壁にぶつかりベッドの上に落ちたガイコツの頭を取り上げ、しかし思わず「ウワワワ⁉︎」取り落としそうになり、コーラルの体の手が自分を仰ぐように━━頭をよこせと合図するので、それを放り投げる。
ベッドの上に腰を抜かすように座り込んで、ビリーヴは胸を━━心臓を押さえる。
「う、うう”……し、心臓にキた……」
久しぶりに見たガイコツは━━久しぶりなもんで、恐ろしかったのである。
「や、やめてくれ、コーラル……。スケルトンヘッドバレーなんて、やりたくない……」
「違うっつーの!」
頭を装着(?)したコーラルが、ベッドに上がってビリーヴに拳を振り下ろす。
「人がシリアスモード全開なのに、ボケボケかましてんじゃねー!」
「うわ、ちょ、コーラル⁉︎」
ベッドの上で揉み合うようにして、上になったり下になったりする。
「ちょ、待って、コーラル……!」
「━まえが、」
ビリーヴの両肩を掴み、ベッドの上に押しつけ、
「やっぱりおまえが、ビリーヴ━━五百年前のあの、神仙のビリーヴ……!」
自分の瞳を見下ろすコーラルに、コーラルリーフの姿が重なる。
「……コーラル……」
「そうじゃないかとは思ったんだ……でも、この船に拾われたおまえは、両目とも紫の瞳だったし、力なんて使えないし、俺の知ってるおまえと━━性格も少し違ったし、時代も違うし、俺のことを知らないみたいだし……確証がなった……。……いたかった━━」
彼は、泣きそうな声で言った。
「おまえに逢いたかった。父上に逢いたかった。母上やみんなに━━ずっと、逢いたかった……!」
「……そうか……」
特等船室の窓の外、バルコニーのようになったその場所の━━欄干に載せた腕に顔を伏せ、コーラルは呟いた。
「父上は、反乱軍に━━青の瞳の者たちに、殺されたんだな……?」
ビリーヴの語り━━過去へ行ってしまったこと。コーラルリーフが船出したあと王都が落ち、王が斬られたこと━━を聞き、コーラルは後ろに立つビリーヴへ向き直る。
「……父上は、簡単に人を差別できる人だった……俺もだ……」
俯くようにし、彼はまた顔を上げる。
「でも━━どんな国王だったとしても、どんな人間だったとしても、俺は━━父上を尊敬している。たった一人の、俺の父親だから」
「……コーラル」
再び欄干に向き直り、コーラルは囁くようにいう。
「父上は、俺や母上には、とても気さくで、お優しかった……」
2
「……ん……」
左右異色の瞳を開き、レアリーギは身を起こす。
《レアリーギ》の自室。
髪を払い、壁際に立っているオクトに目を向ける。
「おはよう、レアリーギ」
ベッドから下り、彼女は微笑む。
「……ただいま」
「ビリーヴは?」
「コーラルと一緒」
「そう。……わたくし、彼と━━いえ、船のみんなと、お話をしなくてはなりませんね……」
自分の片手を見つめ、彼女はため息をつく。
「レア、これ」
オクトが、舵型の金のペンダントを差し出す。
「鎖が切れて、ホールに落ちてたよ。あの異常な揺れのさなか、落としたんじゃない?」
部屋のドアがノックされる。
廊下へと続くドアを開けると、
そこに、ビリーヴとコーラルがいた。
「レアリーギ……君も交えて、話がしたいんだ……」
軽食を取ってから、ビリーヴたちはデッキへ出た。
しばらく黙ったまま、三人は歩き、一旦船首のほうへ行ってから、船尾へ向かった。
進む船に白い波を起こす海を見下ろし、ビリーヴは微笑む。
「魚が、いるんだよね、この海にも。━━カモメも。彼らは、もしかしたら、この海を越えられるかな」
飛翔するカモメへ手を伸ばすようにして、彼はまた、微笑む。
「……レアリーギ……」
靴を鳴らすようにして、振り返る。
「……話してくれる?」
俯いていたレアリーギは、静かに顔を上げる。とても悲しそうに、彼女は笑んだ。
ビリーヴは、まだ、コーラルに、あの迷宮で起きた━━三つの奇跡についての話をしていなかった。
レアリーギは最初から━━ミストたちに海で拾われた辺りから、話しだした。
彼女はミストたちの味方をした。……歴史を変えたくなかったから。そうしなければ、《レアリーギ》に━━自分の居場所が失くなって、還れなくなってしまうかもしれないから……
(……なにより、あなたに逢いたかったのですわ、ビリーヴ……)
自分がミストを変えてしまった。……そこまではまだ、言えなかった。……軽蔑されてしまいそうで、怖くて……
「オレは、コーラルに拾われたんだよ」
ビリーヴも彼女に話しだす。今までの、不思議なできごとを。
━━そして。
「そして、オレたちは再会した。あの、迷宮で。コーラル……」
ビリーヴは黙っていたコーラルのほうに向く。
「コーラル……国王ヒースは、オレに、三つの願いを叶えるよう、望んだ……」
「ミストも、わたくしに、三つの奇跡を……」
ビリーヴとレアリーギの瞳が合う。
『一つ、悪の魔法使いを永遠の海へ閉じ込め、
ーつ、我が息子コーラルリーフを番人とし、
一つ、きゃつから魔王の力を失わせよ』
『一つ、神仙様が、元の時代へ還れるよう。
一つ、歴史が変わらぬよう、神仙様が我らが出逢ったあの夜明けの海へ、あの時、おいでくださるよう……』
「そして……」
レアリーギが言う。
『最後の一つ、神仙レアリーギよ、あなたの力が、十五で目覚めるよう……!』
コーラルの膝から力が抜け、
デッキへ崩れるようにしゃがむ。
「……そんな…………そんな、ことって……。じゃあ、じゃあ……すべては…………」
背後へ、船を見回すように振り返り、彼は震えるように弱く笑う。
「父上の━━俺の、せいなのか……」
俺が、こんな船を造らせたから。
大勢の人々が死に、
残った二百程の人々は五百年も、━━この船に囚われている……
「俺は……」
下を向いて、デッキを拳で打つ。
「皆に、なんといったらいい……⁉︎ 皆、それぞれに、逢いたい人や、還りたい場所があっただろうに……!」
船の進む音と、ガイコツたちの働き声が聞こえるなか、彼は叫ぶように言う。
「やはり、船出などするべきじゃなかったんだ……! おまえの言うとおり、船になど乗らず、誰も乗せたりは、しなければ……!」
あのとき、還ろうとし、セイルに襲われ、オクトに殺害されそうになったとき━━。
船が大きく揺れた。そう、ビリーヴとレアリーギが過去へゆき、そして還ってきたときと同じように異常な、縦揺れと横揺れを繰り返し、船を突然、濃い霧が包んだ。
「霧が晴れたとき……」
悪夢が訪れた。
「二千人以上いた乗員乗客は、約十分の一━━二百ほどしか、動かなくなった。……水葬された人々を覗いた、今も残る俺たちは……」
そのときから。
「ただの、屍━━ガイコツの姿……。この、呪いを引き起こしたのが……」
父上の願い━━。
俺の船の、せい……




