Realigi 13 第一部 第五章 第二話 「外出禁止」
2
「だめだ、行くな! コーラル……‼︎」
コーラルリーフを行かせてはならない。
彼は━━死ぬ。ガイコツになって、とてもとても苦しむ。
「船に、乗るな……!」
コーラルリーフは悲しそうに、ビリーヴを見た。
「また、それか? どうしてわかってくれない? これは、俺の夢なんだ。紫の瞳の奴らを乗せ、俺の船は━━俺の束の間の小国は、海をゆく。そこでは、兄上たちと比べられることなく、皆は俺を讃え、毎日笑いながら輝きの中で暮らせる。俺の、自由の船出を、なぜ、祝してくれない?」
「だけど、コーラル……!」
ビリーヴのための貴資室で、コーラルリーフは肩を竦め、大きくため息をつく。
「俺は、おまえを気に入っているし、おまえの望みなら、できるだけ叶えてやりたい。だけど……俺は、行きたいんだよ。それが束の間の━━たとえ偽りの自由だとて。そう、ただ、本土とそれを取り巻く島々しかないこの海を━━何もない海域をチンタラ回って、帰ってくるだけだ。そこに、意味はないかもしれない。ただの、快楽主義、刹那主義かもしれない! だけど、これは━━俺の、長い間の夢だったんだ……!」
テーブルを叩き、彼は憤りを沈めようと、声を抑えようとする。
「……なぁ、一緒に、来てくれよ? 俺は、おまえと一緒に、行きたいんだよ。━━おまえは、偉いよ。尊敬している。自らめんどくさい仕事をする━━そんな姿勢を、尊敬している。貧民や、奴隷にまで優しい━━そんな心を、俺なんかまねできない、その心を━━すごいと思う。俺は、だめだ……」
俯いてかぶりを振る。
「まねしようとしても……まねしきれねぇ。俺は、おまえにはなれない」
コーラルリーフは弱々しく、手を差し出す。
「頼むよ、俺と一緒に、行ってくれよ……」
王都よりほど近い港街フリーダム。
反乱軍の影が忍び寄る冬の日。
しかしまだ、街は平和だった。
「……ビリーヴ……」
船に荷を積み込む人々を見、コーラルリーフは嘆息する。
「神仙様は、人の字が読めぬとお聞きしましたので、殿下よりの書状をお読み申し上げます」
最近、コーラルリーフが来ない。
本格的に怒らせてしまったのかと心配し、彼を訪ねようとしていたある日。
文官ふうの侍従が、ビリーヴの部屋にやってきた。彼は、縦書きの手紙を開く。
《ビリーヴぺ。
黙ってゆく俺を許して欲しい。
俺は、バカだから、今さら考えを変えられない。おまえのことは、王宮の連中によ〜く頼んでおいたから、心配はいらない。
帰ってきたら、また逢おう。
どうか、笑顔で迎えてくれよ?
~アメシス国第三子コーラルリーフ~
追伸。最近どうも、父上のご様子が思わしくない。俺がお逢いしても、お顔の色が優れぬご様子なんだ。俺は、誰よりも父上をご尊敬申し上げている。父上は、おまえが三つの奇跡の使い方を思い出すのを、お待ちしているようだ。俺はさ、三つの奇跡なんて、どうでもいいんだけどさ、もし、使えるようなら、父上のために、使ってさしあげてくれないか?
ともかく、父上を頼む》
侍従に渡された文を握り締め、ビリーヴは青ざめる。膝が震える。耳鳴りがする。世界が回って、立っていられないような気がする。
「どこへ行かれるのですか?」
部屋を飛び出そうとするのを、部屋の外にいた衛兵たちに止められる。
「コーラルリーフ殿下に、しばらく神仙様を外出させぬよう、言われております」
「神仙様の、お体の調子が優れぬゆえにと」
閉じ込められた……!
ビリーヴは後ずさる。
━━邪魔、させないつもりだ、
コーラル……
部屋の窓へけ寄り、下を見下ろす。━━高い。
唇を噛み、空を見上げる。
「コーラル……!」




