Realigi 12 第一部 第五章 勝利の先にあるもの 第一話 「平等な世は、創れない」
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「お誕生、おめでたきことにございます」
普通の姫だったころと変わらない、忠義者の侍女たちが、床にひれ伏す。
「真王誕生の暁には、このお子が、お世継ぎの王子にならせられることでしょう」
布地に包まれた、紫の髪に青い瞳の男の子を抱いて、ベッドの上でハープは笑む。
「真王誕生の日は近いですね」
「見ろよ! ビリーヴ‼︎」
ある日、行き先も告げずに馬車で連れてこられたのは、とても大きなドックだった。
「これが、現在建造中の、俺の船‼︎ 《コーラルレッド》だ……!」
ビリーヴは船側を見上げ、息を呑む。
「我が国は今、反乱軍と交戦中だが、直に奴らなぞ鎮圧する。なんの心配もいらないと、父上はおっしゃっている。だからさ、ビリーヴ」
とても嬉しそうに、彼は笑んだ。
「この船ができたらさ、一緒に、船旅に出ようぜ!」
船を見上げるコーラルリーフと、建造中の豪華客船の間で瞳を行き来させ、ビリーヴは声を失くした。
━━《レアリーギ》……?
この船は、《レアリーギ》……?
だとしたら……
彼は━━死ぬ…………
「キャアアアッッ‼︎」
夜の闇に、悲鳴が轟く。
「逃げて、逃げてください、姫様……!」
アサシンが闇に刃を関かせる。
侍女たちの悲鳴を背にし、部屋を飛び出、赤子を抱いて通路を走る。
前方右斜め、窓が割れ、新手が現れる。
後ろからも、黒装束にダガーの、アサシン。
「い、嫌、助けて、ミスト……!」
━━せめて、この子だけでも……!
「…………」
紫色の遺髪を前に、ミストは掠れた声を出した。
「ハープが……暗殺された?」
「なんとか、お子のほうは、助かったのですが……ハープ姫殿下は……」
早馬を飛ばしてやってきた、元紫軍の男も、ミストには目に入らない。
野営地には、その日、沈痛な静寂が訪れた。
「どうやら、第二王子ポーラスターの手の者のしわざのようです……」
ミストの青い瞳の副官ウェザーが、拳を震わせる。
「邪魔になったというのか、姫が━━なにより、生まれたお子が……」
「……一人に、してくれ……」
テントから、人々が出ていく。
束ねられた遺髪からは、ハープの匂いがする気がする……
「う、ううううテン…」
膝が、地に落ちる。
「アアアアアアアアアアッッッッッ……‼︎」
上体を曲げ、地に手を突き、獣のような叫びを上げる。
片手で遺髪を握り締めたまま、涙が地を濡らす。
「……ミスト……」
肩に、優しく手が置かれる。
「……神仙様」
緩慢に顔を上げる。
「紫の瞳の者など、僧用できない……」慈悲深い笑みを浮かべ、レアリーキがすぐそばにいる。
「だが…!」
そう、青の瞳の者たちは、紫の瞳を憎んでいる。
平等な世━━。
そんなものを謳う者がいる一方で━━。
紫の瞳を支配しようと企む者たちもいる。
この、陣営にも。
ミストの、ハープの大義が総意ではない。
しゃがみ込んだまま、レアリーギはミストの青の瞳を見つめる。
「もちろん、ハープは別ですわ。彼女は紫の瞳持ちながら、青き崇高なる魂持ちし者。……ごめんなさい、ミスト。わたくしに、彼女を生き返らせる力があったらよかったのに……」
三つの奇跡が、使えたら。
使えても、命を取り戻せることができるのかは、わからない。
…………おそらく、できない。そんな気がする……
「……許さん、許さんぞ、紫の瞳……!」
ミストのに歪んだ炎が浮かぶの見、レアリーギはテントを出た。
篝火と、濁ったような赤い満月を見つめ、疲れたように、泣きそうに笑む。
「……わたくしは、神仙なんかじゃない……」
だって、こんなに、心が汚れている。
これで、ミストは紫の瞳の人々を怨む。
━━歴史は、紫から青の支配へ。
「ハープ姫、お許しください……」
彼女が暗殺されたのは、本当に悲しい。
自分は、彼女が好きだった。
「平等な世は、創れないのです……」
━━歴史を変えてはならない。
だって、そんなことをしたら、本当に、もう二度と、彼に逢えないかもしれない……
「……ビリーヴ……」




