Realigi 11 第一部 第四章 第三話 「それは、実現しない」
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「ホープが、討たれた……?」
王座に腰を下ろした国王ヒースに、第二王子ポーラスターが跪いたまま続ける。
「は。敵軍、奴隷にありながら、魔法使いを味方につけ、中には奴隷に与する青の瞳の者どもまで大勢おり、敵軍のミストなる下賎司令官が、ホープを、斬り倒したと……」
ヒースは口端を歪め、吐き捨てる。
「……あの、バカめ」
「…………」
「よりによって、奴隷ごときに破れるとは……」
「更にそのミストなる下践者とハープの間には子が━━……ハープは、|ミストの子を宿しているという情報が……」
「なんだとォォッッ⁉︎」
王座から腰を浮かせ、王は激高する。
「ハープが、ハープが、きゃつらの慰み者にされたというのかァッッッ⁉︎」
「……父上、心中お察し、余りあります」
「おまえは━━おまえは、何をしていたのじゃ⁉︎ ハープが……ホープが……」
「箝口令をしき、兄上が殺されたことなどは内密にし、いたずらに人民を惑わさぬようにするか、もしくは……特にハープのことは━━うまく利用すれば、兵たちを煽れ、戦力増強をはかれ、反乱軍に惑わされる同胞たちの回帰を期待できるかと」
「━━何を言う! このような恥、秘匿せぇ‼︎」
王族や貴族はプライドが高く、身の恥を何より嫌う。
「勝利は我らにあるのじゃ!」
「は! 兄上亡き今、全軍総司令権を我に。必ずや、きゃつらを砕いてみせましょう」
ポーラスターが出てゆくと、王は指環のたくさんはまった手で、肘かけを強く叩く。
「……あのビリーヴとかいう神仙、まだ、使いものにならぬのか……」
ポーラスターは王座の間を離れると、息をつくように笑んだ。
……嫡子が奴に破れたのが、恥か。
姫が奴隷の子を身ごもったのが、恥か。
「なれば……」
兄が死んでも、涙一つ見せない父。
「なれば……」
私は、どうすれば━━
ヒースは、悪政をしきすぎた。
代々の王の中でも、最悪だった。
華やかな貴族階級の者たちは別としても、彼に憤懣やるかたなき思いを抱く紫の人々は多かった。青の奴隷たちなら尚更だ。
ミストとハープのように。瞳の色など越え愛し合う者だとて、広い世界に目を向ければ、確実に存在しているのだ。━━比べれば、少数だとて。
王族や貴族ばかりがむだに富み、堕落しきり━━平民や奴隷たちをないがしろにしすぎたしわ寄せが、ついに彼を苦しめ出したのだ。
「神仙様、どうぞ、ミストをよろしくお願いいたします」
妊娠したことが知られたため、ハープは進軍せず、青の占領下の町へ戻り、そこで安静に過ごすことになった。
「妊娠二ヶ月……でしたわね。あなたも、無茶をする……。その身で戦闘に加わっていたなんて」
「……でも、私は、できるだけ、自分の力で皆と戦いたかったのです。……これを」
ハープはペンダントを外し、レアリーギに差し出す。夕陽を弾き、舵型ペンダントヘッドが朱金に輝く。
「我が王家の女に受け継がれるお守りです。もう何代も伝わっていますが、少しも傷つかず、汚れることがありません。神の黄金でできていると伝えられています」
「王家の……?」
レアリーギがそれを首に下げると、まるで何十年もの間、自分が主だったかのように、とても自然に、それはフィットした。
ハープの乗った馬車を見送り、夕陽を見、レアリーギは無口な水色の髪の青年を仰ぐ。
「子の誕生は、めでたいもの、ですよね?」
どこか祈るように、切なげに、レアリーギは訊いた。
「ああ」
「……よかった」
━━必ずや、青も繋もない平等の世━━その大義を果たしください。
去り際に、ハープは言った。
「……でも」
自分は知っている。
それは、実現しない……




