Realigi 10 第一部 第四章 第二話 「愛し合っているのです」
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第一王子ホープの獲物はアクスである。
その巨漢に見合った大斧は、青き瞳の奴隷たちの血を吸い、赤く濡れている。
「おやめください、お兄様!」
大剣を振り下ろし、ホープと戦うミストを━━弓を構えたハープがサポートしながら叫ぷ。
ここは戦略的重要拠点の一つ。交通の要、商業都市ホーリールードを守護するための砦。
ここを取られるのは、ホープにはかなり痛い。奴らを王都へ近づけることに繋がる。
累々《るいるい》たる双方の死体と。戦場に響く鬨の声。獲物の上げる音と、断末魔の悲鳴。濃い、血の匂い。
━━妹を操る、にっくき敵軍司令官━━ミスト。
そう、操られているのだ、ハープは、このミストに。そうして、最近奴隷たちが祭り上げている、赤毛の小姫━━あの、魔王の力を使う、魔法使いに。
「私は、操られてなどいない! 自分の意志で、ミストについているのです! もう、何度も申し上げいるはずではありませんか……!」
王都から離れた田舎、乳母の実家にほど近い離宮にハープがいたとき、青の革命軍と紫の正規軍が交戦した。町が、離宮が奴隷たちに占拠された。
だけど、ミストは自分を殺さず、辱めず、身代金も要求しなかった。すぐに、解放してくれようとした。自分は軍人ではない。姫といっても、ただの非力な娘にすぎない。
ハープはミストの善良で真摯な態度と、その汚れなき大義に打たれた。
青も紫も関係ない。
━━真の、平等を。
奴隷も、支配者もない世を創る……!
「ハープ、おまえは、操られ、騙され、利用されているだけだ……! 平等な世? そんなものを、誰が望む? 奴隷を搾取するからこそ、我らは華やいだ安穏な暮らしができる! ━━コイツだって、」
ミストの剣を叩き折り、ホープは嗤う。
「たとえ父上を倒したとて、望は新たな支配者。柴の瞳を奴隷にしたがるに決まっている!」
地に倒し、押さえつけたミストに、戦斧を振り下ろす!
間一髪、ミストは脚に装備していた短剣をホープに笑き刺し、彼から離れ、態勢を立て直す。
しかしホープも、すぐに立ち上がる。
「ミストは違うわ! 彼が真王になれば、この世は、青も紫もない、真の楽園になる……!」
ハープはつがえた先を持つ手を震わせ、ホープに狙いを定める。
「お兄様、私には、子どもがいるのです!」
「「━━⁉︎」」
ミスト、ホープとも、動きが止まる。両者とも、初耳だったのだ。
「……ミストの、子どもです」
フリーズから解けたのは、ホープが先だった。
「貴様ァァァァッッッッ‼︎!」
アクスをなんとかショルダーガードで防ぎ、後方へ跳ぶミスト。
「ミスト!」
火球を飛ばし、革命軍と共に、周囲の紫軍兵士たちからミストをガードをしていたレアリーギが、剣をミストに投げ渡す。
アクスを振り下ろし、ホープが吠える。
「俺の、俺のかわいい妹に、よくもォォッッ‼︎!」
「違います、お兄様‼︎ 私は、彼と━━ミストと、心から愛し合っているのです!」




