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12話 「観音さま……シャワー浴びたいです……あとドライヤーも……」

石段の前に縛り付けられたショターヌは、ぜいぜいと肩で息をしながらも、なぜか経ではなく小声でこうつぶやいていた。

「観音さま……シャワー浴びたいです……あとドライヤーも……」


金角が「名前吸い壺」のフタをカパッと開け、にやりと笑う。

「導師姫よ、逃げ道はないぞ! 名を呼べば、この壺に吸い込まれ……三分でインスタント煮込みうどんになるのだ!」


銀角は「どばどばボトル」を抱えて、ドヤ顔で囁いた。

「兄者、焦るな。まずは馬を煮込んでスープの出汁にしよう。それから導師姫を投入すれば……究極の不老長生シチューの完成だ!」


白馬は縄でぐるぐる巻きにされながら必死にひずめで床をかく。

「ヒヒーン!! ニャア ニャア~ ヒヒーン~」


ショターヌは観念したように目を閉じ、声を張り上げる。

「観音さま! 今、俺は“異世界鍋パーティー”の具材になろうとしてます! 助けてください! せめて焼肉コースでお願いします。いや、どちらも死ぬだろ!!」

天宮翔太ことショターヌ令嬢は、完全にパニックっていた。


スイレン・カドウ城の前。

白いもやがうねり、渦を巻く。城門の前に立つゴクウたちは、互いに顔を見合わせた。

大理石の石だたみは湿り、足音すら吸い込むように重く沈んでいた。


「ブヒィィ……胸がざわつくでがす……」

八海が筋肉を震わせ、無意識に腕を構える。


「落ち着けカパ。これは……ただの自然現象ではないカパ」

沙悟浄が皿をあげると、水面にも同じもやが広がり、まるでどこか別の空間とつながっているかのようにゆらめいた。


洞の外。悟空は如意棒をドンと地面に突き、妙にしぶい顔をしてもやをにらんでいた。


「ちっ、やられたな。兄じゃは洞の中だ。だがあの宝器、正面からじゃ勝てねえ」


八戒は顔を青くして耳をぴったり伏せる。

「兄貴よ……名前呼ばれて返事したら終わりだろ? 俺なんか“はい!”が口癖だぞ? 呼ばれてなくても返事しちまうんだ。スーパーの呼び出し放送にだって“はい!”って……」


悟浄は腕を組み、やれやれとため息。

「策を練るしかありません。八海は、口にバンドエイドを張るのじゃ」


「ブヒィ? それは傷口に使う物です。悟空様。ブヒィ? 口は閉じられません!!」


悟空は今度はどや顔で言う。

「名前吸い壺は“名と返事”が鍵だ。なら返事をしなければ、よいのじゃ!!」


そう言うと、悟空は毛を一本引っこ抜いて、ふっと吹いた。煙が立ちこめると悟空が小さくなっている。


「うおーっ! すげぇ! 俺も毛抜いて吹いたら何か出るかな……? ……ただの鼻毛だ!」


「……八戒殿、真剣にやってくださいカパ~」


小さくなったゴクウは、見つからないように身をかくしながら洞内の奥に進んでいく。


祭段の前に五つの宝具が並んでいた。


名前吸い壺――名前を呼ばれるとパクッと吸う。

どばどばボトル――水がどばどばあふれる。

ぐるぐるロープ――宙でぐるぐる回り敵をしばる。

ピカピカソード――刃がピカピカ震えよく切れる。

ドカ風うちわ――開くとドカッと熱風がでる。


「これは……力でいどめば、一斉に牙をむく。おろかな方法じゃ」

悟空は心の中でそう呟くと、また、身をかくしながら来た道を帰る。


外に戻ると、八海と沙悟浄が心配そうに待っていた。

「奴らの宝具はわかった。これからは、知恵の戦いじゃ」


沙悟浄が心配そうに言う。

「悟空様、知恵の戦いはやめた方がよいと思うカパ~」


そう言い終わる前に、ゴクウは洞門をけ破り、如意棒を天へと突き上げた。

「妖怪ども! ショターヌを返せ!」


「ブヒィィ! 姫を返せでがすぅぅ!!」

八海も咆哮し、筋肉を鳴らした。


金角がドカ風うちわを大きく振り下ろす。強風が洞内を切りさき、石まで吹き飛ばす。

銀角はどばどばボトルを傾け、白濁のもやを吐き出す。瞬く間に足元は泥の沼地へと変わった。


「むうっ!」

ゴクウは如意棒をグルグル回すと風を弾き返す。しかし、泥に足を取られ後ろに下がるしかなかった。


八海は九歯棒を構えて突進するが、強風に押し戻されて背中から転倒。

「ブヒィィィ! ドレスに泥がぁぁぁ!!」


沙悟浄は冷静に長槍を振り、濃いもやから飛び出す小妖を突き倒す。

「……これは幻術と呪術の合わせ技カパ。油断すれば全員飲まれるカパ」


次の瞬間、金角がふるうピカピカソードが宙を舞い、星影の斬撃が雨のように降り注いだ。

ゴクウは如意棒で受け止めるたび火花が散り、石の壁がえぐられた。


ぐるぐるロープがうなりを上げ、頭上から落ちて来る。蛇のようにうねると、八海の腕にからみついた。

「ブヒィィ!? 筋肉でも解けねぇでがす!」

筋肉がきしむが、ロープはしめ付けを強めていく。


「しゃらくせえ!」

ゴクウが如意棒をたたきつけ、ロープをはじき飛ばした。


戦況は大混乱となり、地響きのようなごう音が洞内をゆらした。


金角が壺のふたを外し、叫ぶ。

「孫悟空!!」


抜いた毛から生まれた分身たちが、反射的に答えた。

「はい!」


次の瞬間――壺は赤光を放ち、分身たちは吸い込まれて煙のように消えた。


「ブヒィィ!? 俺も呼ばれたら一巻の終わりでがす!」

八海が青ざめる。


沙悟浄が皿を掲げ、低く言った。

「仕組みは“名と返答”。呼ばれて応じれば、からだごと飲まれるカパ」


柱の後ろに飛び退いたゴクウは、目を細めてうなる。

「やはり……名を返すと取りこまれるのか」


銀角が苛立ち、叫ぶ。

「ゴクウ!」


ゴクウは”あっかんべー”をしながら笑っている。

「呼ぶなら呼べ。応じるかはわしの勝手じゃ」


ときにいつわりの名を使い、ときに無言をつらぬき、金角をほんろうする。

「わしは“木の葉丸”じゃ!」「ここには名はない!」


金角と銀角はいらだち、呼びかけを繰り返す。

「おくしたか、猿め!」

「返事をせぬか!」


「いやいや、そんな子供だましで口車に乗るわけがなかろう」

ゴクウは如意棒を突き立て、石ゆかを割った。


もやの中で仲間の声がひびく。

「ブヒ。悟空様、長々とやると危ない! 腹も減ってきたでがす!」

「急ぐべし、導師様を救わねばですカパ!」


すると、悟空は毛を一本抜いて「変ッ!」と吹きかけ、小妖の姿に化けて配下の列にしれっと混じり込んだ。

「よしよし……誰も気づいておらん。わしは演技派じゃ」


そしてスッと近づき、気づかれないように名前吸い壺をひったくる。


「ん? あれ俺の壺じゃね?」と金角が振り向いた瞬間――。


悟空は満面の笑みで壺を構え、大声で叫んだ。

「おーい! 金角ーーッ!!」


金角は反射的に「なんだ!」と返事。


その直後――。

「ズボォォォッ!!」と壺が大きく開き、金角本人を勢いよく吸い込んでしまった。


「ぎゃあああ!? 自分で返事しちゃったぁぁ!!」

中から情けない声がひびくとふたがパタンと閉まる。


悟空は壺をクルクル回してポーズ。

「はい、自己申告で捕獲完了じゃな!」


「兄さん!?」

銀角が動揺した。


ゴクウはすかさず名前吸い壺を銀角に向ける。

「銀角!」

「なんだ!」


渦巻く水が銀角を呑み込み、「俺も、なんで返事するんだ!!」壺はしっかりとフタが閉じられた。


指揮官を失った小妖どもは総崩れとなり、逃げまどう。

八海が"落ち葉拾い棒"を振り回し、「ブヒィィ!! 残りめし掃除だ」と叫ぶ。


沙悟浄は結界を解き、ショターヌを抱き起こした。


ゴクウは宝具を両手に掲げ、声を轟かせる。

「これでお前たちの命運は終わりだ!」


ショターヌが目を開け、涙ぐんでつぶやいた。

「みんな……ありがとう……」


白馬が「ヒヒーン」とほこらしげに鳴くと、再びショターヌを背に乗せる。


悟空はどや顔で言葉をそえた。

「名にのまれると、自らの器にのまれる。覚えておけ……」


翔太は目を細めて、深く息を吐いた。

「悟空、それっぽいこと言ってるけど、たぶん自分でも意味わかってないよな? 無理すんな」


八海が背後から筋肉を誇示しつつ叫ぶ。

「ブヒィッ! 悟空さま、カッコいいです。それすごくいい!!」


沙悟浄は冷静に皿スマホを頭に乗せながらまとめる。

「……全員ケガもなくやり遂げた。みんな頑張ったカパ!!」


こうしてスイレン・カドウ城での騒動は無事に幕を閉じ、四人と一匹は、無事に地球へ帰ることができた。

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