胸に落ちる寂しさ
「………ふぅ」
自宅のマンションに辿り着いて、肩に重く圧し掛かっていた鞄を床に下ろした。
1人暮らしなので当たり前だが部屋は暗く、冷え切った空気が淀んでいた。
手探りで電気のスイッチを探り点けて、鞄を引き摺ってソファまで行き、思い切り倒れ込んだ。
私には毎日ご飯を作ってくれる母親もいなければ、夜遅く帰ってきて叱ってくれる父もいない。
以前まで親戚の叔母さんにお世話になっていたが、1人立ちしたくて両親が残していったこのマンションへ引っ越した。
親戚の話によれば両親は岸に飛び込んで死んだという人もいれば、私を置いてどこか遠くの地へ行ったという人もいる。
確かに言えるのは、今現在何処にいるのかも生きているのかも分からないということだ。
私がうんと小さい頃にいなくなったので顔さえ覚えていない。
「ん~~~~っ」
横になったら眠気が襲ってきて、欠伸と一緒に伸びをした。
こういう時、お母さんがいれば言いと思う。
ただ単にご飯を作るのが面倒くさいだけだけれど。
両親が生きていて会えるのならば、聞きたいことがいくつもあった。
目のこと。霊感のこと。私を置いていってしまったこと。その理由。
私の知っている親戚の中で、私と同じように霊感を持った人はいなかった。
霊感は遺伝するのだという。
ならば、両親のどちらかが、同じように霊感を持っているのだろうか。
同じように、悩んでいたんだろうか、それとも私とは違って気にも留めていないのだろうか。
テレビなどで霊能力者という人はいるけれど、血が繋がっていると思うと、両親の方がずっと身近な存在の気がした。
両親がいたなら、何でも話せる気がしてならない。
それともそうであってほしいという願望なのかもしれないけれど。
人ごみの中にいるときの方が、私は独りだと感じてしまうときがある。
学校の教室で授業を受けている時、人が大勢集まっている時、ふと思う。
この中で私と同じ人間はいるのだろうか。
同じように悩んでいる人はいるのだろうか。
悩みを持っていない人はいないというのだから、辛いのはひとりだけじゃないというのだから、まったく同じ悩みを同じ数だけ持っている人がいるんじゃないんだろうか。
そう思って、1人だと気付く。
学校が嫌いなわけでも、人間関係がうまくいっていないわけでも、人が嫌いなわけでもない。
それでもふと、突然何かの拍子に人との隔たりを感じてしまう。
私に霊感があるということが、私が青い目をしているとか。両親がいないということが。
人が持っているはずのないものを持ってて、人が持っていないものを持ってる。
そういうものが関係しているのかもしれないし、関係していないのかもしれない。
何かが違う。そう強く思う。私が違う世界の人間だったと言われれば納得してしまうような。そんな感じ
。例えばパズルのピース、形は周り合ったのに絵柄が明らかに違う時みたいな。
そしてそれは結局間違いであって合っているわけじゃない。
そのピース1つで、出来上がった絵はちぐはぐなものになってしまうのだから。
たった1つが全てを壊してしまうような。
そんな日が来るような気がして、私は私が怖くなる。
まどろみに囚われて、私はご飯を食べるのもお風呂に入るのも忘れて寝入ってしまった。