日常と非日常 現実と非現実
白い天井がぼんやりと見えはじめて、自分が夢から覚めたことを思い知らされた。
だるい身体を起こして時計を確認すれば、いつもと同じ早朝4時。
いつもこの夢から覚めたときは何だかがっかりした気分になる。
自分と彼以外誰もいない空間の方が、自分にとって現実なんかよりもひどく落ち着ける場所。
ここ数ヶ月、あの男の人は欠かさず自分の前に現れている。
ふつうならば怪しんだり、怖がったりするのが当たり前なのだろうけれど、私はそんな感情は一切なかった。
毎日見る夢なので慣れてしまった訳でもない。
ただ、酷く懐かしい気がして仕方ない。
懐かしいような、切ないような、苦しいような。
自分でもよくわからない気持ち。
夢は微かに、けれど確実に、少しずつ変化を見せている。
けれど結局いつも、彼が手を差し伸べて終わる。
自分はどうしてもその手を取りたいと思うのに、心の片隅で何かがそれを拒む。
何故だろう。
何故懐かしいと思うのだろう。
何故不安に思うのだろう。
――わからない。
それとも、夢自体が自分の心の現われだろうか。
つまらない日常から逃げ出したい願望。
「…あれは、ただの夢」
馬鹿らしい考えに自分で笑ってしまった。
自分は何も別に逃げ出してしまいたいほど今が苦しいわけでもない。
世の中に悩みを持たない人はいない。
その中で私はちっぽけなひとつ。
まるで自分に言い聞かせるように、憂はもう一度呟いた。
「あれは夢、ただの夢。」
どれだけ不安に思おうが、懐かしく思おうが、夢は夢で終わってしまうから。
いつも夢をみた後は妙に身体がだるく感じる。
寝てるということは休んでいるということなのだから何故逆に疲れるのだろう。
本当にこの頃、疑問のような違和感ばかり感じる。
ベッドからのろのろと抜け出して両手を天井に向けて大きく伸びをした。
ゆっくりと手を下ろしてもだるさはなんら変わりない。
というより、身体を動かすと更に疲れる気もする。
ふと白み始めた空に目をやると、太陽の縁が顔を出して光が差し込むところだった。
夏の終わりに差し掛かる、肌寒ささえ感じる朝。
黒い影が光から逃げるように、さぁ、と引いていくのが分かった。
小さな頃から不思議な体験をするというのは何度もある。
確実に普通の人ならば体験しないような出来事だと言えるようなものも。
"人に見えないはずのものが見える"のもその中のひとつ。
一般的には幽霊と呼ばれる、死んでいるはずの人が見える現象。
だからあの夢も、この影もそれに類する物だと思っている。
けれど、どちらでも言える事で、あんな姿をした霊をみたことはない。
というより、霊ではない、といった方が正しいかもしれない。
ただひとつ確信を持ってわかるのは、この世の生き物ではないということ。
"生き物"とすら言えるのか怪しいということ。