不穏…
ここは、とある森。至って何も変哲のない、爬虫類や恐竜が住み着く巨大な森。
「おい、あんた一体何なんだよ…!」
森の中、5人の狩人。彼らは追われていた、爬虫類でもなく恐竜でもなく黒い何かに。
黒色の分厚いコート、分厚いズボンを履いている。腕や脚そして顔と、肌の見える箇所を全身包帯巻きにしている者がいた。それは狩人に近づいていく。
「俺等が何かしたってのかよ、おい」
「なぁ、あんたよ人なんだろ?ここはよぉ危なぇからよぉ…」
狩人の死体が2つ。狩人達は狙われる理由が分からない、ただ仲間達が次々と殺されることだけは理解できる。
「おい、人の話ぐらい聞けや!」
1人の狩人は弓を構える、すると狩人の構えた羽は炎を纏い光を練り込む。そいつは止まらず進む。
「止まれ…止まらないなら打つ!…いいな!」
狩人の弦は強く張っている、同時に手は恐怖に震え矢尻の焦点はぶれている。そいつは止まらない。
「早くっ…!止まれ…って!」
「いい!…打て!」
別の狩人が声を荒げる。その声に煽られ、構えた狩人は弓を放つ。そいつは止まらない。
「やった、命中した!」
矢が纏う炎は噴射し、超高速でそいつに向かう。人間が到底避けきれる速度ではない。
「くたばれ野郎…ッ」
確かに命中した、間違いない。しかし狩人達の目に入るのは血だらけのそいつではなく、コートが切れただけの無傷のそいつだった。無傷のそいつは止まらず進む。
「ひぃ…」
「クソッ、威力が足りねぇってか」
いや違う、無敵になる能力、そっちの方が理解できる。弱点の無い力なら今の威力に傷がつかないのも説明がつく。しかし、ならあの包帯はなんだ、なんのためだ?傷を塞ぐため?やはり威力が足りなかっただけ?狩人の一人は考える、そいつの能力の秘密、穴を。
「あいつの硬い皮膚をぶっ壊すには全員の能力が必要だ、みんな構えろ!」
違う、硬い皮膚には間違いないのかもしれない、しかし見ただろお前たち。二人が襲われたとき、抵抗してナイフでそいつの腕を切ったあの瞬間を。弱点はある…が!そのやり方じゃ、あいつの防御には…。
「ダメだ…何か間違ってる」
そう、言い切る間もなく他4人は能力を構える。
矢を構え、羽は炎を纏う。手のひらに光が集中し、膨れる。ロケットランチャーを肩に乗せ、それを肥大。
仲間に手を向けて能力の威力、精度、速度を上昇させる。
そいつとの距離は残り数メートル。
「今だ…放て!」
刹那の内に高出力の束がそいつを襲う。
「…ハァ、スゥ、ハァ、能力を出しすぎたようだ」
「なんだよ、逃げた俺等が馬鹿みてぇじゃねぇか」
狩人達を除いて森は沈黙を起こす。
「静かだ…本当に倒せたのか?あいつの防御力は…結局」
そう思い立った数秒、巻き上げる煙が静かに消える。
そして…沈黙は消し飛ぶ。
巻き込まれて粉砕した木々をそいつは踏みしめ、止まらずまた進む…
俺の考えは間違ってなかった。こいつは無敵、しかし同時に弱点もある。そして、そいつは近接である。
だから近づいている。そう間違っていない、そう俺は間違っていないんだ。一旦考えて行動し、皆で迎え撃てば…ってば……と…
「こいつナイフを隠し持っていやがった」
「ダメだ、頭に刺さってちゃもうたすからねぇ」
「あの野郎、近づいてたのはおふざけってことか、よくも仲間をやってくれたなぁ!」
そいつは不動を構えナイフを飛ばした。ナイフには紐が結ばれており、投げたナイフを取り戻す。
そして…
「早く…ッ紐を切れ!」
そいつは紐を振り回しナイフは縦横無尽に暴れる。
「いや…こんなの、逃げるしか」
「俺は逃げる!」
狩人達は戦闘態勢は取りつつも距離を取り逃亡を図る。
「違う、俺はじゃない…全員だ…逃げろ!!!」
途端、狩人達は全員、別方向かつ異なるタイミングで逃走する。
あの技はなんだ?別に隙は多くある、不格好だしそこまで脅威にも感じない。けれど何かやばい。
振り回したナイフは更に速度を上げる。風を切る音がより激しくなる。
………は?
瞬間そいつは紐を横に振るう。木々をへし折りただ力に沿って曲がる。振るう勢いで引っ張られる紐を握る力を調整することで長さを変え、その先にあるナイフは逃げる狩人の首に届く。
俺の見た光景は幻か?俺の目には吹っ飛んだ首が1、2…3!やばい、このままじゃ、俺まで死ぬ。
あいつの強さは一体何だ?この強さはまるでA級!それもずっと上位の!
とりあえず奴は振り回したナイフをもう一度振り直すはず、その内にッグ…!!
そいつはもう片方の腕で2つ目のナイフを投げつけた。
「………」
辺りは沈黙を満たす。周りには首のない死体が3つ、適当な箇所の骨の折れた死体が2つ、頭を貫かれた死体が2つ。黒色の分厚いコート、分厚いズボンを履いている、腕や脚そして顔と、肌の見える箇所を全身包帯巻きにしている者が1人。
そいつは再び歩き出す。
深い森へ…
「ヒィィィェェェ……!!!」
「何だアイツ?何アイツ?爬虫類の追跡を頼まれたのに、人間?しかも何あの強さ、A級クラスの強さじゃんか」
「俺たちゃC級クラスだB級が1人いたがそれでも限度がある、あんなのには絶対絶対100%勝てない!!」
「よかった~影を薄くする能力で!いや違うな影が薄くなる能力か」
「とととにかく、死ぬ前に本部に報告しなきゃ〜!!」
沈黙の中一人の男が慌てて逃げ帰る。その足音は朦朧と霞み沈黙に溶け込む。
・・・
「そろそろ見えてきたな!」
「本部ってさ、こんなに派手だったかよ?」
俺が最後に見たときはビル1つ突っ立てただけなのに、今は周りに小さな建物が多くある。
「ちょっとしたテーマパークみたいだぜ」
あつとは周りを見渡し眺める。レイトはビルに向かう。
「早く来いよ、ホース…直すんだろ」
「てめぇが壊したんだろってのに」
二人はビルに向かう。
同時期、影の薄い男はビルにいた。二人は知らない、この先、奴と戦うことになることを…