能力
楕瑠牡醒海類清から逃げ切り、カイトを失ったあつと。
あつとは自身の武器ホースで加速して、今は数km先に街のある平原にいる。
加速の能力で身体強化をした上で疲れて平原で休憩しているところである。
「あー、さすがに走りすぎた...水、水〜」
水を求めてあつとは死にかけていた。
「だけど、街まであと少し...」
舌は干からびている、仰向けで空を見上げ日差しに焼ける、この物語は終わるかもしれない。
「お前は仕事もせず寝てやがって、どうゆー始末だ?」
上から顔を覗かせたのはベリーショートの男だった。
「んぁ?...水か...水の妖精か」
あつとには日差しでその男の姿は黒く塗りつぶされていた。
「水?あぁそうかい、いくらでもくれてやるよ」
男は手に持つ水筒をあつとの口いっぱいに注いだ。
「あぁ、ん!、んがぁ、ゲホッ...へぁ」
「こんなに汗だくで、なんだ?そこらの雑魚爬虫類にやられて逃げたのか?」
男はあつとの横に座り罵倒をする。
「なんだ?あんた俺をバカにしてって?」
あつとは起き上がりその男を睨んだ、しかしその顔には見覚えがあった。
「あんたレイトか...背、小さくなったな」
「てめぇが大きすぎんのよ」
小さな癇癪を付きレイトは頭を抱える、そうなぜなら彼は身長にコンプレックスを抱いているからだ。
そんなレイト、身長157cm年本名新島レイトはあつとに不服そうに言った。
「お前なぁサボって本部にも顔出さず、バックレにも程があるよな」
「俺らがクビにならないのは会長が温厚だからで俺達10代なんて本当は捨てられてもおかしくない
そうなりゃ行く宛なんざ無いんだから」
「考えりゃそうだな、爬虫類が現れてからは中学もろくに行けなかったな」
爬虫類は昔からいるものだが、それとは違い巨大かつ能力を持ちまた恐竜などが突如現れた。それは類を見ない被害をもたらし多くの命、建物、文化が奪われた。政府はこの爬虫類を大災害と改め、爬虫類討伐に力を注いだ。結果、爬虫類の被害を30%減らすことに成功した。しかし代わりにあらゆる社会保障が消え、そのうちの一つ義務教育が無くなったことであつとは中学に行かなくなった。
「まぁ、そのよ...さぼってたのは過去のことさ、もうそのつもりはない」
「本当かよ?」
レイトは呆れた様子であつとに聞いた。あつとは自身を持って言い放つ。
「本気なこれもう俺は諦めねぇ...それに、もう誰も死んでほしくねぇ」
レイトは最初の意気込みには信用しなかった、しかし最後の言葉にはなぜか悲しさを感じ少し目を見開いてしまった。
「(なんだよ最後の"それ"声に力が乗ってねぇ、らしくねぇよ...)」
「なぁ何かあったか?俺ら小学校からの仲だろ」
そしてあつとはカイトの死、これからを伝えた。
「カイトが死んだ?、それに楕瑠牡醒海類清...よくお前、逃げれたな」
「俺も奴の能力で動けないと思ったがきっと恐怖があいつの能力のトリガーだと俺は思う」
「そうか...カイトは残念だったがまぁお前が生きてて俺は嬉しいぜ」
「で、お前はどうやって爬虫類を倒すんだよ、その武器だけじゃ限界だろうし能力を鍛えるとかか」
「それが武器の能力は成長しない、一体A級様はどんな武器を使っているんだか」
「いや〜武器のじゃなくて自分の」
自分?一体何を言っている、あつとにはレイトの言葉が分からなかった。
「は?自分ってなんだよ」
レイトは空を見上げ少し息を吐いた。
「能力は武器だけじゃなく体にも発現する、カイトの戦い方は武器ってより自分の能力だったが」
そういえばカイトは錆びつかせるコインを飛ばしていた、あれはコインが武器じゃなくコインを武器にしていたのか。
「カイトの能力は知っているのか」
「さぁな、能力なんて聞くもんじゃないし、見た感じでいうなら触れた物に錆びつかせる効果を与えるとかか?」
そんな能力が人の力なんて未だ信じられないが、あつとは考えても無駄なので否定することも考えることもやめた。
「じゃあさ、俺も能力とかあるのか」
「まぁあるんじゃないか」
「なら発現方法を教えてくれよ」
あつとは自分の能力に期待と興奮でいっぱいになった。
「発現は簡単だ能力者と干渉し、かつ強い感情の起伏を起こせばいい」
「おい待て、それじゃ俺は十二分に爬虫類と戦ってきた」
確かにあつとは今まで爬虫類と十分な位に戦ってきた、それに相手も申し分ない何故ならついさっきまで戦っていたのは楕瑠牡醒海類清S級3位 歴史上狩人で傷を付けたものはいない、そんな化け物の戦闘に加えカイトを失った、強いストレスもあった。それで足りないのならあまりにも非道ってやつだ。
「確かに言いたいことは分かる、が発現には相手の強さは関係ない必要なのは人間の能力者との強い干渉だ、(まぁ爬虫類でも無いことはない)これに関しては確率になる」
「確率?」
「そう、カイトと一緒でも発現しないのはたまたま、だがなこれを極限にまで上げる方法が一つある」
レイトは指を鳴らし答える。
「戦闘だ!!」
「戦闘?どうやってそうなるんだよ」
「仕組みは簡単!戦闘ってのは直接能力を相手にぶつけるからな、強く干渉する感情も自ずと高まる」
つまりは魂のぶつけ合い、強引ではあるものの確かな信頼性を感じた。
「戦闘室はそのためなのか」
本部には戦闘室がある。しかし爬虫類と人は全然違うという理由であつとは全く触れていなかった。本部をもう少し見直すべきと感じた。
「やるんだろ、俺はいつでも準備できてるぜ」
「俺は人と戦ったことは初めてたがレイト、お前に負ける気はしねぇ」
あつとは槍ホースを構える、反対にレイトは武器も構えず気楽にあつとを覗く。
「武器はいいのか」
「そういうスタイルじゃないしな」
「いくぜ!」
あつとはホースの能力の一つ加速で走り出す、が目の前には大きなパイプが生え出した。
「んぁ、パイプ?」
「はは、捕まえてみろよ」
そうかよ!鬼ごっこかよ、こんなパイプ如きで負けるかよ。
勢いを止めた足を再び走らせレイトを追う。ホースの速度は時速300km、優に人の速度など上回る。
「追いついたな!トドメだ!」
しかしレイトはまたもやパイプを伸ばし、槍の刃を受け止める。
「鬱陶しいパイプだな!」
あつとは刺さった刃先の向きを縦に変え、パイプに足をつける。そして。
「飛翔!」
あつとは飛び出した。飛翔と共にパイプは縦に割れる。ホースの2つ目の能力飛翔それは天高く飛び出す能力。飛び出したあつとは下を眺めレイトを探す。
「見つけた!」
あつとは勢いよく着地して、レイトに今度こそ。
「ゼロ距離なら生やせまい」
しかしレイトは笑ってあつとに言う。
「甘いな、能力は縦にただ生えるだけじゃねぇ」
その時遠くから勢いのついたパイプがこちらに近づいてきた。
「パイプが横から生えてきた、防御に...」
あつとは間一髪だがホースでガードした。しかし勢いのついたパイプはあつとを吹っ飛ばす。
「生やしたパイプを横に曲げただけだが、初見じゃ対処できないか、よし次は...」
何かの生える音が大きくする。
「やられた、まぁ今度は今みたいにって...」
倒れたあつとだったがもう一度起き上がり、そして見た景色は。
「森...いや違うこれはパイプ」
あつとの見た景色はパイプが広がっていた。パイプの数は分からないきっと100は生えている。
「逃げ場は無いぜもう」
「せっかく姿を隠せるのに、顔出しやがって舐めプか」
レイトはあつとに近づき手を挙げる。
「舐めプはしない、隠れるためのパイプじゃないしな」
「まさか攻撃ってか」
あつとはより一層強く構えた。だがこれは攻撃ではなく守りの体制である。なにかおぞましいものが来る、だだそれを警戒して。
「そうだぜ、とどめの攻撃だ」
レイトは手を振り下ろす。その瞬間。雨のようにパイプが降り注いだ。上に伸びたいくつものパイプは下向きに曲がりあつとを狙う。
「飛翔対策に高く伸ばし、数で加速も潰す作戦はよくハマったな」
沢山のパイプはあつとを襲う。対応して精一杯に加速で避ける。
「やばいこのままじゃ」
だが限界はもう近い。いいのかこれで俺!逃げてるだけじゃ結局あの時と同じ、負けられねぇいっそ立ち向かうべきだ。
「パイプなんてぶった切る!!」
逃げる足はもう無い、今ある足は進む足。あつとは降り注ぐパイプをホースで受け止める。
「守りの体制に変えたな、しかしパイプを受け止めるにはもう限界だろ」
「ああ、限界さ、ちょーきちぃ、だがよ〜」
あつとは笑って、迫りくるパイプを弾いた。
「攻めの体制はまだ大丈夫そうだぜ」
瞬間あつとは飛ぶ。ホースの能力飛翔により降り注ぐホースを避ける。すかさず向かうパイプに乗っかり
パイプを渡る、パイプを蹴り出す時加速をして飛翔x加速のベストマッチでレイトのもとまで突き進む。
その速さにパイプが追いつくことは不可能だった。そして。
「見えたぜレイト!」
レイトに向かいホースを向け落下する。しかし。
「巻き付け!」
あつとの落下に合わせて無数の細いパイプはあつとの四肢に絡みつく。
「はぁ、こんな細いパイプに、ググッ」
「お前の武器はかなり危険だ、使えなくさせてもらう」
パイプはホースに巻き付いた。その瞬間ホースは細いパイプになった。
「なんだこれ!パイプに」
「俺の能力はパイプを生やす能力だが、補足するならパイプが巻き付いた物もパイプにできる能力をもつ、
これで槍の能力は無効化されたな」
あつとは未だ能力を発現させていない。その上ホースを使えなくされれば能力なしのただの人間。
無力な能力者に圧倒されるだけの存在。
「(絶望は十分与えた、強い感情もこれで起きるんじゃねぇか)」
「......俺はやっぱり無力だもうこれで戦えなくなった...こんな俺じゃ、俺じゃ...」
あつと涙を流した、こんなにも無力な自分に絶望した。俺は本当に生きてよかったのかカイトが生きて俺が死ねばよかったのに。ならカイトはどうする?このままじゃ無駄死にで終わる。俺は生きる意味が分からない。こんなのカイトが死んで一時的に救われた命。どーせ殺される命。俺は狩人になるべきじゃなかったな。
でも狩人に救われた命。爬虫類を倒すために繋がれた命。死ぬためにある命なんかじゃない!!俺は生きる意味が分からない。きっと分からないままかもしれない。生きる意味は分からなくとも...
戦う意味は分かってる!!
「こんな俺じゃ...ねぇ!!どんなやつにも俺は負けてたまるか!!」
あつとは何もできない。だができないなりに諦めることをやめ、もがき続けることにした。
「切れろ!パイプ!!!!」
あつとは自分を縛るパイプを力いっぱいに引きちぎろうと藻掻き続ける。それだけがあつとの持つ最後の手段だから。
「切れろーーー!!」
その瞬間。
「ビリビリッ!!」
「何だよこれ?」
「ついに来たか」
あつとの手は稲妻を纏い出した。
「これが能力?」
あつとはよく分かっていない、が分かったことが一つある。
「これならパイプなんか」
そしてあつとが手を握る瞬間、稲妻は爆発する。
「すげぇパワーだなお前の能力」
「ああ、おかげで希望が見えたよ」
あつとは手をレイトに向けて。
「決着つけようぜ」
稲妻を再度纏いそして...解き放
「降ーー参」
は?
「良かったじゃねぇか発現して」
周囲のパイプは消える。今までの死闘が嘘のように辺りはただの平原となっていた。
「その力大切にしろよな」
レイトは感謝ならいらねーぜと腕を組み自身に満ちている。しかし。
「おいレイト...俺のホースはどうなった」
ホース?槍のことかそういえば...
「えーとな、パイプに変えると強度も変化してよー」
あつとの眼の前には砕けたホースがあった。
「俺の大切なホースを...よくも!」
「まぁ、まてよ直すあてはあるからさ、な?」
そう言うとあつとは怒りを抑えた。
「ふ〜ん、どこよ」
「本部に決まってるだろ」
「本部にそんな事できる場所があると?」
「お前だいぶ行ってないだろ、本部は武器専門の部屋がある、そこに行く」
本部を全く知らないあつとにため息を吐き、粉々になったホースを持って本部に向かうことにした。
「1年ぶりの本部かぁ」
あつととレイトは本部に向かうこととなった。