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3.ギアの相談

コンコンコン。

リズミカルに扉を叩く音が聞こえる。


本日の相談者は恐らく男性だろうと推測しつつ、ドア越しに入室の許可を出すと、すぐさまドアがガチャリと開く。

部屋に足を踏み入れたのは、予想通り男子生徒。

少し緊張した表情で、ロザリアの前までやってきた。


「お初お目にかかります、ルマン公爵令嬢様」


彼は即座に頭を下げた。

優雅さの欠る所作から、貴族ではないだろうと察する。

まぁ、試飲に身分なんて関係ないからどうでもいいのだけれど、平民が物怖じせずに私のもとに来たのは正直驚いた。


「ご機嫌よう、ところで貴方のお名前を教えてくださらないかしら?」

「は、はい、私はギアと申します。第5学年の農業科に所属しております。姓は平民のためございません」

「ギアね、そこのソファーにお座りになって」

「し、失礼いたします」


ギアはソファーに腰を落とした。

座りなれないのか、一人でなんだかワタワタしているが、それを横目に私は早速お茶の準備を始める。

ティーポットの中には、既にブレンド済みのお茶の葉を入れており、熱いお湯を注ぐ。

湯気と共に独特の野草がすり潰されたような匂いが漂ってきた。

これ、お茶というより薬に近いかも・・・。

そんな事を思いながら、蓋をして暫し蒸す。

20秒たったあたりで、ギアの目の前にお茶を差し出した。


「この部屋で私とお話をしたいなら、まずこのお茶を試飲してちょうだい」

「かしこまりました」

物凄い匂いを放つお茶を、眉一つ動かすことなく、味わうようにゆっくりとお茶を飲んでいく。


「あれ?美味しいです!」

「お口にあってよかったわ」

「人伝に毒茶と聞き及んでいたので、正直覚悟していたのですが・・・これはウチの田舎でよく飲まれているヨモギの薬草茶に似ております。これ蜂蜜入ってますよね?うちの田舎のよりも美味しいですよ」

「貴方の田舎では一般的ということかしら?」

「はい!よく飲むものです。はちみつなんて高級な物は入っていないですけどね」

「・・・そうなの」


なんだかがっかり。

折角商人から珍しい茶が手に入ったと聞いて、意気揚々と出したのにもかかわらず、庶民の間では一般的なお茶だったとは。

脳裏に浮かぶのは、このヨモギ茶を売りつけてきた、手揉み商人の顔。

何が貴重で、滅多に手に入らない茶なのよ!

簡単に騙されてしまった事に腹が立ち、ついついカップの取手に無意識に力をかけてしまう。


ミシッ―

不穏な音が部屋に響き渡る―


その音にビクリと反応するギア。

音源となったロザリアのカップを、驚きの眼差しで見つめている。

でも、私は気にしない。

ちょっとヒビ入っちゃった程度では、私のティータイムでの優雅な所作は揺るがないものよ。

カップの状態を確認することなく、そのまま何事もなかったようにお茶を飲もうとするも、いつまで立ってもカップが口に触れない。

何かおかしい・・・。

不思議に思い、手元に視線を落とすとカップ部分がとれており、手持ちは取手だけを持ち上げていた。

この状態から、なんとか優雅さを挽回しようと頭をフル回転させている。

けれど、一向にアイディアなんて浮かばなかった。

すると、手前からクククッと抑えきれない笑いを、どうにか抑えようと両手で口元を抑えているギアの姿が見える。


「・・・笑っていいわよ」


ギアはそれを聞くと、両手を自身の口元から離し、大笑いしはじめた。

遂には、机をバンバン叩きながら笑う。


まったく、この人遠慮ないわね。

まぁ、そっちの方が私は気楽たからいいけど・・・いいけど・・・。


「いい加減、笑い終わりなさいよ!」


長過ぎる笑いに、ついつい声を荒げてしまう。

「あっ、すいません。ルマン公爵令嬢様がこんなに愉快なお方だったとは存じ上げなくて・・・」

ギアはニコニコと謝ってきた。

ギアの裏表なち笑顔と言葉に、毒気を抜かれる。


脱力しつつも、約束通りお茶も飲んでもらったし、そろそろ悩み事でも聞いとくかと声をかける。


「さて、ティータイムといったらお喋りよね。貴方の相談事は何かしら?」


そう言葉をかけると、ギアは崩していた姿勢を但し、私に向き合った。

「ルマン公爵令嬢様は、僕の事をご存じないと思いますので、まずは僕の事をお話しさせてください」

「あら?私、貴方のこと存じ上げておりますわ」

「えっ??」

「先程、お名前をお聞きした事と貴方の制服の裾を見て、誰だかわかりましたわ。今年最終学年で、かつ入学以来常に学年トップの天才。土壌や植物学に詳しく、一昨年は寒さに体制のある小麦の品種を開発。これを受け、来年は国の研究機関への入所が決まっている。身長170cm、体重73kg、好きな物は縫いぐるみ。このため賄賂は縫いぐるみが効果的、それから―」

「ストップ、ストップしてください!!」

「あら違ったかしら?」

「いいえ、寧ろ詳しすぎて鳥肌が・・・」

「フフフ、天才に褒められるなんて、気持ちいいわね!」

「・・・色々お詳しいので、本題に入らせていただきます。実は・・・」

―――

ギアにはヨハンというクラスメートがいる。

ヨハンもまた平民でありながら、その優秀さを買われ特別に学園に通うことの許された者。

ヨハンは商人の息子て、ギアと違い裕福だった。

最終学年になるまで、接点はなかったが、ある日歩いているとヨハンの鞄からポロリと可愛らしい縫いぐるみが落ちた。

偶然、ギアが拾い渡して上げると、縫いぐるみが好きなのだと教えてくれた。

やっと同士を見つけたギアは、自分も同じ趣味なのだと打ち上げ、これがきっかけで友達になる。

その後ヨハンは、縫いぐるみだけでなく、ギアの研究にも興味を持ってくれた。

土壌改良等の話をしたり、ギアを実験室に連れて行ったり楽しく交流していた。

だがある日突然ヨハンから避けられるようになる。何度か話しかけようとするも、今忙しいと言われまともに話すことができない。

何かやらかしたフシもなく、意味がわからずここ最近悩んているとのことだった。


「・・・それは、嫉妬ね」

「嫉妬?」

「そう、貴方への嫉妬じゃないかしら?天才的な貴方の横にいると苦しくなって離れてしまったとか」

「そうでしょうか?」

「私達凡人は、時として天才に憧れお近づきになりたいと思うものよ。けれど、近付くと自分の無能さに気付き苦しむものよ」

「はぁ・・・では、僕はもう彼と友達にはなれないのでしょうか?」

「私にいいアイデアがあるわ。仲裁役をかってでてあげるわ」

「ありがとうございます!」


ギアは来たときと同様90度のお辞儀をすると、足取り軽く相談室を後にした。

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