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1.タラン伯爵令嬢の相談

コン・・コンコン。

躊躇いがちなノックが、ドア越しに聞こえる。

どうやら本日の相談者は女生徒のようだ。

ドア越しにお入りになってと声をかける。

その声が聞こえたのか、ドアノブがゆっくりと周り、扉が開いた。

予想通りそこには一人の小柄な女生徒が立っていた。

うつむきながら、ゆっくりと此方へ向かって歩いてくる。

そして、私の目の前に来るとピタリと立ち止まり美しくカーテシーをする。

スカートを握る手が僅かに震えていた。


「タラン伯爵令嬢、ご機嫌よう」

「ルマン公爵令嬢、ご機嫌よう」


挨拶を交わし、タラン令嬢に向かい合わせのソファーに座るよう促した。

そのタイミングで、私はお気に入りのティーカップを用意する。

すでにブレンド済みのお茶をカップに注ぎ、令嬢の前に置く。

ふと目の前の令嬢に顔を見ると、口元が少し引きつっているように見えた。

「このお茶お嫌いかしら」

「いいえ、いいえ、ルマン様自らお茶を淹れてくださるとは思わなくて、思わず驚いてしまいましたの。勿論、いただきますわ」


令嬢はすぐさまソーサーを持ち上げた。

だが、緊張しているのか、手が震えてカタカタと食器音が鳴る。

私が淹れたお茶は貴重だと思っているのかしら?確かに公爵令嬢自らいれたお茶なんて滅多に飲めないから畏れ多いのもわかるのよ!

でも、そんなに緊張しなくてもいいのに・・・。

言ってもらえれば、何杯だって試飲させてあげるのに。

でも今は、彼女の緊張を解して上げないと、お茶美味しく飲めないわよね。

何か声をかけてあげましょう。

「わかってるわ、大丈夫よ(あなたが公爵令嬢の淹れたお茶が貴重過ぎて、飲めないという気持ちと戦っているのはわかっているわ。でも安心して、何杯でも淹れてあげれますわよ)」

「いえいえ!大丈夫です」

タラン嬢は激しく首を横にふると、カップを真剣な眼差しで見つめた。

そして、取手に手を添えると、いきなりお茶をゴクゴクと飲み干しはじめた。

貴族令嬢のお茶会での飲み方とはことなり、酒場で一気飲みするおっさんばりの飲みっぷり。

彼女の可愛らしい顔に相反する豪快な飲み方に私は思わず拍手をした。

それにしても、飲み終えた後の令嬢は、口元をハンカチで抑え苦しそうにしている。


私は、あらかじめ用意していた飴玉と水を令嬢の前に置くと、すぐそれらは令嬢の口の中に消えていった。

ちょっとだけブレンドの掛け合わせが悪かったかしら・・・次回はもう少し飲みやすいように改善するためには、令嬢の意見が欲しい。


「如何でしたか?本日のお取り寄せしてみたフェンネルをブレンドしてみましたの」

「・・・ゴブゴブ」

令嬢は口元を必死でハンカチで押さえている。

どうやら、まだ話せない状態らしい。

頑張って飲んでもらったお礼にと、今回のブレンド茶の構成と効能をお伝えすることにした。


「フェンネルはね、女性の身体にはいい効能があるのよ。血流を良くしてくれたり情緒を安定させたりしてくれるわ・・・でも、今日のはどうやら刺激が強すぎたみたいだわ。フェンネルとドクダミのブレンドは匂いもきついし、難易度が高めで参っちゃうわ。貴女もそう思うでしょ」

苦しそうな表情で、首を必死に縦にふる令嬢。

「私も匂いを嗅いだ時、これ駄目だと思っていたのよ。でも、折角ブレンドしたから他の人の意見もお伺いしたかったの。やっぴり不味い物は誰が飲んても不味いわよね~それがわかっただけでもよかったわ」


自分勝手な事を、一通り話し終え私はようやく令嬢に声をかけた。


「さて、ティータイムといったらお喋りよね。貴女の相談事は何かしら?」


私は、長い脚を組み優雅に笑ってみせた。


――――

ここは、ダーラン国の首都トルティにある名門貴族が通うダーラン国立学校。

12歳から16歳の貴族と一部の優秀な平民が通うことができる学校だ。

学園内での身分平等と表向きは言われているが、実情は勿論違う。

縮小された縦社会がそこにはあった。

一部の高位貴族以外は、学園内及び学園寮含め、専用の召使を連れてくることは禁止されていた。

そうなってくると自ずと発生するのが、身分の高い生徒による、横暴だ。

いつの時代からか、身分の低い生徒は学園内で召使の様にこき使われるようになった。

更に、人によっては複数の貴族からこき使われ、勉学ままならぬ状態に陥って退学や休学、挙句の果てに脱走を試みるまでの状態になっていた。

そんな悪しき習慣が蔓延していた・・・半年前までは。


それを改革したのは、私ロザリア・ルマン。


私は、ルマン公爵家の長女であり、皇太子殿下の婚約者。

実質学園のNo.2の権力学生とも言える存在だ。

私は、今年入学した際、騎乗して単身で学校に現れた。

通常高位貴族は、召使を引き連れ学園内にやってくる。そのまま身の回りの事をさせるのが常だった。


私はそんなの嫌。


自分のことは自分でやるし、折角自由かあるのに何故監視人みたいな召使を希望するのかわからなかった。だが、これは少数派とも知っている。

そして、それを裏返せる手札も私のもとには揃っていた。

真面目な雰囲気を装い、私は入学式を終えるやいなや、1学年上のエリック皇太子殿下の下へ訪れた。

皇太子殿下こそ、掌で動かすには最適な人物だった。

殿下のクラスメート達は皆、私の事を知っているようだった。

モーゼみたいに廊下から殿下の教室まで、一本道がてきる。

そこをテクテクと歩いていくと、お目当ての殿下がいた。

教室の真中で友人達と談笑している。

私が声を掛ける前に殿下はこちらに気付いた。


今日の殿下も愛らしかった。

国母の王妃様にそっくりに生まれた殿下は、世紀の美少年だ。

風に靡く金髪のサラサラ髪。

大きく水色の瞳に、整った鼻立ち。

色白の肌に、桃の様な唇。

男子制服さえ着用しできなければ、まんま女子。

そんな殿下が、兎に角今日も可愛い。

そんな心の声は隠し、殿下に詰め寄る。


「エリック様、ご機嫌よう」

「ロ、ロザリア、どうしたんだい」

「用がないと、こちらに伺っては駄目なのかしら」

わざと小首をかしげながら、さり気なく殿下を壁側に誘導し、念願の教室壁ドンを敢行。

ドンの音に驚いたのか、殿下は目を見開いたまま、腕の隙間から私を見た。

外野から見ると、恐らく殿下が私の胸の中にすっぽりと埋まっているように見えるだろう。


殿下の身長は175cm。この国の男性の平均身長だ。

私は175cm。この国一の背高女性だ。


更にブーツを着用しているから、約180cm位の身長になる。

それに加え、私は毎日の鍛錬を欠かさなかった。

お陰で、女性らしい身体付きというより、全部引っ込んでしまってあるけれど、鍛え上げられた引き締まった身体、切れ長の涼し気な目元。

サラリとしている黒髪は無造作にひとつ結びをし、ドレスは似合わないからと男性用制服を着用していた。

見た目は、下手な男子よりも格好いいのではないかと自負している。


イケメン女子が、世紀の美少年に壁ドンする姿に、教室に「きゃぁ~」という黄色い歓声が上がる。


腕の中にいる殿下は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、視線を私に合わせるように顔を上げた。


「色々言いたいことはあるが・・・壁ドン不要だろ!」

「あら?ちょっと憧れません?」

「憧れない!」

「私は、教室壁ドンは憧れです」

「・・・普通、ドンされる側に憧れないか?」

「ええっ、私が殿下にドンされるんですか?それは萌ないから不要ですね。まぁ、そんなことどうでもいいんてすが、今から大事なお話をさせて頂きますわ」


わざと殿下の耳元で囁くように話し出す。

その声に、殿下の体がビクッとする。

幼馴染の関係にあたる私は、殿下弱点を知っている。


それは、耳!


面白いように反応する殿下に、悪戯心が芽生え、更にふーっと吐息を吹きかける。

「やめ・・・ろって・・・」

かわいい抗議の声が真下から聴こえてくる。

殿下の可愛い所は、声でしか抵抗してこないところだ。

昔8歳の頃一度だけ、殿下に突き飛ばされかけた事がある。

いや、正確に伝えると、殿下は突き飛ばしたつもりだったが、私はその当時既に鍛え始めていた事と、元から、体幹が良いお陰なのか分からないが、殿下の突き飛ばし程度の威力では、蹌踉めかなかった。

思い返すと、私の揺らがない姿に、押したはずの殿下は呆然とした。

そして運の悪いことに、父がこの現場を一通り見ていた。

ツカツカ私達の元にやってきた。

私が怒られると目を瞑ると、父は怪我していない私をひょいと抱き上げた。

そして、氷の様な冷たい視線で感情を押し殺したような声で言い放った。


「エリック皇太子殿下、娘の胸を触りましたね。いくら婚約してるからといっても、まだ我が娘は8歳です。皇帝陛下に本件お話させてもらいます!」

こうして、父から国王へ即セクハラクレームが入り、殿下は皇帝から説教されることになった。

それに加え、王妃様はこの話を聞いて倒れてしまった。事態を重く見た、殿下の教育係によって、その後マナー講座の受講数を極限まで増やされたと伝えきいた。

これ以後、殿下は私からどんなに愛の籠もった嫌がらせを受けようと、抵抗することはなくなった。

「ちょ・・・ちょっと、話聞くから普通にしろ!」


首元まで真っ赤になった殿下が上目遣いで見てくる。


やだ可愛い・・・やっぱり可愛い・・・。


脳内がフィーバーしそうになるも、やり過ぎて嫌われるとそれはそれで、会ってくれなくなる事が過去わかっているで、壁ドンをやめ本題に入る。

私は高位貴族にのみ優遇される、召使引き連れ制度を取り消すべきだと殿下に訴えた。

高位貴族だけ優遇制度を設けてあるなんて、ダサさの極みであり、高位貴族の私達こそが、お手本となるべきと滾々と説いた。


その言葉に殿下は驚いているようだった。

「学園生活一日もたたない内に、君からこの指摘を受けるとは思わなかったよ。やはり、結構酷い内情だよな・・・匿名の陳情書が結構きてるんだよ」

「そうでしょ!(そうなのね〜)」

「君に指摘ん受ける前に、皇族の僕が動くべきだった。すまない、後は任せてくれ」

殿下の言葉通り、この不公平な制度は僅か1日で廃止することが可決された。

余りの展開の速さに、何があったか気になり殿下に話を聞きに行く。


「制度廃止のスピードが早くて驚いたわ」

「僕もだよ。実は、学園長は、前々からこの不公平な制度を廃止したいと考えていたそうなんだ。だから、僕から相談した日に、学園の規則変更の改定案の素案を作成し、そのまま城へ行って父に承認してもらったらしいよ。

父もこの制度いいと思ってなかったらしく、判子押して即承認したんだって。あ、僕は学園長にも父にもキチンと君の案って報告しておいたから安心して!それに、ちゃんと周囲にも君の功績と話しておいたよ」


「な・・・何故そんな余計なことを!!」

「ほら、人の手柄をとったら卑怯だろ」

「私が何のために、内緒話にしたかわかってるんてすか!」

「もちろんだよ」


殿下はにやりとと笑うと、勝ち誇ったかのように私の前を去っていった。

やられた・・・。

お茶以外の事で目立つ事を嫌う私への仕返しだ。

久しぶりに敗北感に打ちひしがれていた。

悔しがっている本人が知らない間、この廃止案によりロザリアは身分の低い者達に絶大な人気を誇ることになる。

この廃止案は、学園に通う身分の低い者達に希望の光を与えた。

元々優秀な平民しかこの学園に入学出来ない。

しかし、本来優秀であるはずの彼らは、中間層に時間を搾取され勉強時間が確保出来なかった。

だが、これからは違う。勉学に励める。

成績を上げより良いところに就職し、お金を稼ぐぞと皆一様に勉学に励み始めた。


そして、高位貴族達は元々有事に備え、身の回りの事が一人でできる様に幼い頃から教育を受けてきた。

不便な生活にはなるが、彼らは困らなかった。

それに皇太子とその婚約者が提言した事に、逆らって良いことは一つもないと理解きていたため、すんなりと受け入れた。


逆にこの廃止案で困ったのが、中間貴族だった。


今までのように、寄子を使いたくても、皇太子を始めとする高位貴族自らやっている事を、彼らよりも低い

自分達が寄子を使ってやらせることが、憚られた。

更に、学園の風潮として他人に自分の世話をさせる人は自立心がない人と認識される様になった。

そのイメージをつけられてしまうと、男女とも後の婚活に影響することもあり、中間層も見様見真似で自分たちの事をやるようになる。


流石未来の国母と囁き始められているとこを、本人は知らない―。

―――――

私、ロザリア・ルマンの趣味はお茶。

古今東西、多種多様のお茶を取り寄せ、香り、手触り、味、色、お茶の全てを五感で堪能する所謂お茶狂いと呼ばれる域にたっしている。


お茶さえあれば、他に何も要らない。


そう自負できる。


そして、究極のフレーバーティー自作するために、日々開発に全身全霊を注ぎ込んで取り組んでいる。

自分で試飲もしているが、究極の一杯を作り上げるために、自分以外の試飲者が必要だった。

試飲については、自ら志願して試飲してくれるお友達に協力してもらうこと、この一点を必ず守るよう家族に言い渡されていた。

昔は、屋敷にて使用人にも試飲を行ってもらっていた。

だが、時折あたる強烈な味にのたうち回る使用人の姿を見た家族に、固く禁止された経緯がある。

父から身分の高いものが低い者を虐めるとは何ごとかと叱られたこともあったが、私も飲んでおり、虐めではないと言い張るも納得してもらえなかった。

怒った父に、全てのお茶を取り上げられ一週間お茶禁止生活を強いられたのは忘れもしない。

あの時は、辛いの域を越えて廃人一歩手前になりかけた・・・。

それに加え、私が入学後身分を使って試飲を強制するのではないかと心配した父は、学園内につれてく召使に、お茶嫌いな使用人をあてがった。


私は大いにそれが不満だった。


お茶の良さがわからない人となんて、過ごしたくない。私の愛飲のお茶管理をしっかりしてくれそうにない人を絶対に部屋に入れたくなかった。

何か方法はないかと、学園の規則を見ていると、召使に関しての記述が目に留まる。


これは使えるとひらめき、父を出し抜くため入学式当日愛馬に乗り、明け方にこっそり家をでてひとり学園へ向かった。

そして、殿下へ不平等さを盾に直談判を行い今に至る。


私欲のためなら、何でもやる。

ただ、それだけだ。


お茶の試飲もだ。

最初は、公爵令嬢肩書をもつ私に取り入りたい子女達が群がって飲んてくれていた。

だけど、人が沢山いるからと冒険し過ぎたお茶を出していたら、一人また一人と去っていき、最終的に一学期立たない内に、試飲者がいなくなってしまった。


本当に悲しかった。


手の届く範囲に、試飲出来そうな健康な人々が大勢いるによかかわらず、試飲を快く申し出てくれない。

丹精込めてブレンドしたお茶も、私だけの味覚だけだと究極の一杯にたどり着けない。


他人の感想がどうしても必要不可欠だった。

ヤキモキしても、何も変わらない。

どうすれば、人がホイホイ寄ってきてくれるのか・・・。


考えた末にでてきたのが、この相談室。


公爵令嬢位の地位ならば、誰かのお悩みを合法的な範囲であれば助けてあげれるだろうし、そのお礼にお茶を試飲してもらえれば、関係的にwin-winじじゃない!!

私は、居ても立っても居られず、早速学園長の部屋に乗りこんだ。

生徒の相談に乗ってあげたいから一部屋部室として貸して欲しいとお願いしてみると、なんとあっさり一部屋借りることができた。

こうして無事に試飲ありきのお悩み相談室が開設されることになる。


そこに第一生贄として訪ねてきたのは、冒頭のタラン伯爵令嬢だった。

不定期更新となります。よろしくお願いいたします!

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