表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士令嬢エリーレアの冒険  作者: シルバーブルーメ
27/30

第27話 戦士レント、鞭振る美女に立ち向かう


 テランスとバンディルがにらみあっているのと同じときに、別なところでは、レントと(むち)をかまえたギリアがにらみあっています。


「こんどは、だまされないぞ。お前がどれほどきれいな顔をして、男の目を引くかっこうをしていようとも、その中身がきたならしいものだということはもうわかっている」


「ははは。そう言いながらも、さっきはあの『剣聖』とやらに鼻の下をのばし、今だって、あたしの胸とか脚とかちらちら見てるよねえ。人をきたならしいなんてよく言えたもんだ」


「だまれ。お前がどれだけいい女でも、カルナリアさまを(むち)打った、それだけでぜったいにゆるすわけにはいかない」


「ゆるさなければどうするの? ん? その体とおんなじくらいちっちゃな剣、あたしにぶっ刺す? やくにたつの、それ?」


「もちろん。こいつでお前をすぐに、もう二度とわるいことができないようにしてやる」


 レントは短剣をにぎって、みがまえました。


 ギリアはあたまの悪いこどもを見るように、よゆうたっぷりに笑いながら(むち)を軽くふります。それだけでもう、ヒュンヒュンと恐ろしい音がなります。


 その(むち)を本気ではなてば、前に犬の()()()()を吹っ飛ばしたように、木のえだを折りくだいたように、レントだってかんたんに骨を折り体をくだいてしまうことができます。


 レントは、もとから小さい体をさらに小さく丸めて、どこを打たれても()()()()だけならたえてやると歯をくいしばり、両手で短剣をしっかりにぎって、まっしぐらにギリアにつっこもうと力をためます。


「いくぞおおおおおおお!」


 この体のどこからこんな声が、とおどろくほどの強いさけびをあげながら、レントは()()()()しました。


 でも、まっしぐらにギリアに向かうとみせかけて、いきなり小さな(つつ)みを投げつけました。

 あの目つぶしです!


 ビュッ!

 風切り音がして、黒いものがひらめいて。


 (つつ)みは、レントの手をはなれたばかりのところでくだかれて、中の(こな)が飛び散りました。


「げほっ! ぐえっ!」


 自分が浴びてしまったレントは、目を閉じてよろめきます。


 その手元に、ヒュンとするどい音がひとつ飛びこんできたかと思うと、握りしめていたはずの短剣が、空中にとんで、回転しながらきらきら光りました!


 (むち)です。

 ギリアは(むち)で、ほんのわずかな、点のようなすきまをみごとに打って、レントの手にあてて、短剣を飛ばしたのでした。


「その(つつ)み、さっき犬に投げたの見てたからね。あんたみたいなやつは、まともに向かってくるふりをしてそういうことするもんさ。見え見えすぎて白けるよ。もっとおもしろいことやりな」


 こなが目に入って、目をあけられずよろめくレントを、真上から(むち)が打ち、さらに横からもこぶしで殴るように(むち)が打ち……。


「ぐあっ! ぎゃっ!」


 ビシッ、バシッ。

 ギリアはそれはもう楽しそうに、レントをころさずに、ひたすら痛めつけ続けるのでした。


「うう……ぐ……ううう……」


 とうとうレントは、体中ぼろぼろにされて、倒れてしまいました。

 ひどい痛みに、うめくばかりになってしまいます。


「で? 王女さまを(むち)打ったから何だっけ?」


 レントをいたぶり続けて、楽しくて楽しくてこうふんし、息をはずませたとても色っぽい姿で、ギリアは近づいてきて言いました。


「…………」


「あれ、もう何も言えないか。ざんねんだねえ。これでも向かってくる()()()()()があるなら、ちょっとくらい、いいおもいをさせてやってもよかったのに」


 ()()を作り男をゆうわくするようにギリアは腰をくねらせました。


「っ!」


 レントが飛び起きました!


 でもそこへすぐ、ビシッと、これまでで一番大きな(むち)の音がして。


 レントの体に、黒いすじが()()()にも――そう、(むち)がぐるぐると巻きつけられていたのでした。


「はい、それもおみとおし。あたしがゆだんしたところへ、飛びつこうとしたんだろう? あんたみたいなのがそういうことするの、あたりまえすぎて、あきちゃったよ」


「いいや、引っかかったのはお前のほうだ」


 レントが、まだまともに目をあけられないまま、さんざん打たれて血が流れているひどい顔で、いいました。


「お前が知っている、お前と同じような、ていどのひくいやつらとこの私をいっしょにするな。私は、こんな()()でも、エリーレアさまに負けぬほど、カルナリア王女さまのことをおもい、王女さまにひどいことをしたお前に怒っているのだ」


「へえ。怒ってたらどうするんだい、お貴族さま!?」


「こうするのだ!」


 レントは、ぐるぐる巻かれて両腕とも使えない姿にされてしまったまま――さらにぐるぐる、自分からまわりはじめました!


 それにより長い(むち)がまきとられて、自分もギリアに近づいていって……。


「はいはい。それもみんなよくやること。どれ、その首をへし折ってやっても、まだえらそうなこと言えるかどうか、ためしてやろうかい」


 ギリアはもう片方の手にも(むち)を持っています。

 それを振り上げ……ぐるぐる回るレントの、首の骨を折ってやろうと、こんどこそ本気の、いちばん強い打ち方で放ちます!


 ですが、その瞬間!


 レントは――ギリアに近づくのではなく、反対方向に回り始めたのでした。


「なにっ!?」


 それは、ぐうぜんですが、反対側でバンディルと戦っていたテランスがやったのと同じこと。


 あれほどに怒り、気合いをこめていたというのに、相手に向かって行くのではなく、ぎゃくの方向へにげたのです!


 そしてそのせいで、ギリアの(むち)は、当たりはしましたが威力(いりょく)が弱く。


「おおおっ!」


 こんどこそ本気でほえたレントは、そこだけは動かせる首をふりあごを使って、ギリアの(むち)をはさみ、とらえました!


 そしてぐるぐる回り――左右りょうほうの(むち)を、どちらもほどほどに自分の体に巻きつけた姿で止まります。


「ぐっ、こ、このっ、チビが!」


「おまえだぢと、わだじだぢが、ぢがうのは……」


 さんざん打たれている上に、今のいちげきで喉もやられて、赤いものをはきながらレントはにごった声でつげます。


「わだじは、おまえを、だおず必要はないどいうごど!」


 痛みと苦しみに震える足をぐっと踏ん張って、体に巻きつけたギリアの(むち)を二本とも、その手からうばおうとしました。


 ギリアはとられてたまるかと、こちらもふんばります。

 二本の(むち)がぴんとのびきります。


「わだじは、勝だなぐでも、いいっ! おまえの、ぶきを、ごうじで、づかえなぐじてやればっ……なかまがっ! ながまがっ、かならずっ、おまえをだおしっ、カルナリアさまをおすくいずるどっ、信じでいるっ!」


「ふ………………ふざけるなっ! なにが仲間だ! ぶっころしてやる!」


「――その忠義と、人を信じる心もまた、みごと」


 低い、うつくしい女のひとの声が流れて。


 レントのかたわらを、さわやかな風がかけぬけました。


 ヒュッと、小さな、風を切る音だけがしました。


 目がほとんど見えず、くるしく、息をするたびに血を口からたらすレントには、何がおきたのかよくわかりません。


 けれども、体にまきついていた(むち)がゆるんで、はずれたことははっきりわかりました。


「お前の剣だ。さいごは、お前がやるべきだろう」


「ぼろぼろさん……いえ、『剣聖』、ざま……」


 レントの手に、持ちなれた短剣が渡されました。


 にぎって、できるかぎり目を開きました。


 ゆがみ、ぼやけてしか見えませんが、その先にギリアがいることがわかりました。


 足を引きずり、レントは進みだしました。


「ひっ! く、くるなあっ! いやだあ! たすけておくれ! おねがいだ! ね、な、なにしてもいい、あたしに、したいこと、なにしてもいいからさあ!」


「したいこと……そうだな」


 レントは、ひとかけらのよこしまなものもなく、()()()()な男の声でいいました。


「わが姫君を傷つけた、そのむくいを受けさせるのが、今の私のしたいことだ!」


 そのまま、体ごとギリアにぶつかっていって。


「ぎゃあああああああ!」


 数多くの男をだまし、わなにはめ、ころしてきた、ずるがしこくて悪い女の、さいごでした。


「おみごと」


『剣聖』さまの声がして、レントの顔を水で洗ってくれました。


 目がまともに見えるようになると、レントがとどめをさすまえに、ギリアの両腕が切り落とされていたことがわかりました。


「これは…………ありがとうございます。色々とぶれいなまねをしたというのに、助けていただくとは」


「いや、お前が、体は小さくとも、知恵を使い自分にできるかぎりのことをして、()()()()に戦ったからこそ、私も助ける気になったのだ。だからこれは、お前がやりとげたことだよ、カルナリア王女さまの騎士、レント・サーディル・フメールどの」


 最強の剣士、美しき『剣聖』さまはそう言って、レントのことを心からほめたたえたのでした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ