第16話 エリーレアたち、山賊の砦で大暴れ
犬のお腹をなでなでしているぼろぼろさんは、穴から出てきたレントとエリーレアに、あいさつするように頭の部分をさげました。
「ああ……そうか……あのときの、肉を食べさせた犬か……」
レントがつぶやいて、エリーレアも理解しました。
「ぶ、無事でよかったです! とにかく、その犬がおとなしくしてくれているなら! レント、テランスさまを助けますよ!」
「あ、はいっ、そうでした!」
ここへあの弓つかいが来たら、テランスを助けるどころではなくなってしまいます。
大急ぎでふたりはあたりを探し回り、レントの言ったとおり、長い棒に横木を何本もつけてあるはしごや、がんじょうなロープなどが隠してあるのを見つけました。
テランスがようやく上がってくると、あたりに霧がたちこめはじめました。
山の天気はかわりやすいのです。
「ありがたい、これなら弓もねらいづらい」
「でも、馬と荷物を取り戻さなければならないのに、道がわからなくなってしまいましたね。どうしましょう」
「…………」
ぼろぼろさんが、エリーレアの剣と、丸めたマントを返してくれました。
マントには、あの矢につらぬかれた大きな穴があいてしまっています。
「おそろいですね」
ぼろぼろさんの布と同じようになったそれが、何だか面白くなって、エリーレアは笑いました。
ぼろぼろさんも、笑ったようにぼろ布をすこしだけふるわせました。
そして、たっぷりお腹をなでられて幸せそうにしている黒い犬に、かがみこんで、首にロープを巻いて――。
その端をエリーレアににぎらせました。
「え?」
犬のお尻を、きれいな手でぽんと叩きます。
すると犬は、あたりのにおいをかいでから、霧の中を、ある方向へ進みはじめました。
「わたくしたちの、馬のにおいを追ってくれるのですか……?」
うたがっている場合ではありません。霧が出ているといっても、うっすらとはまわりのものが見えますし、出てきたときと同じようにいつまたすぐ晴れてしまうかわかりません。
後ろからあの恐ろしい弓矢にねらわれるというのは危険すぎます。
みな急いで、犬のあとについて歩き出しました。
「山賊どものねぐらは、そんなに遠くはないはずだ」
テランスが言いました。
「さらった女の子をつれこむにしても、道ゆくひとをおそって色々うばうにしても、あんまり山の奥深くにいたのでは、行き来するのがたいへんだ。そんなに遠くないところに、見つからないようにひそんでいるにちがいない」
エリーレアは、剣のけいこはたくさんしてきましたが、こういう本当のたたかいの経験はほとんどありませんので、テランスの知恵と経験はとてもべんきょうになります。
「いた、いた、いたっ! いましたっ!」
レントが、声をひそめて言いました。
風が吹いて、もやが流れて、そのすきまに、馬のお尻が見えたのです。
三頭います。間違いなく自分たちの馬です。
それをあの女、ギリアが引いています。
さっきまでのかっこうのままなので、とても色っぽい後ろ姿です。
「ちくしょう、悪いやつとはわかってるけど、やっぱりいい女なんだよなあ。あのきれいな顔とすごい胸とお尻には、だまされても仕方ないよなあ」
「レント」
エリーレアはけいべつのまなざしを投げつけました。
その進む先に、岩山があらわれました。
そこまでは登りではありましたがわりと平らだったのに、そこから一気に岩が切り立ち、崖のようになっています。
ギリアはそこを回りこむのかと思ったら、まっすぐ向かっていって、止まって、手をあげて声を出しました。
「あたしだよ。いい馬と、色々持ってそうなやつらをつかまえた。いつもの落とし穴だ。何人か出しとくれ」
「おう、あねさん」
岩山から声が戻ってきて、そのあちこちから、ひげだらけの男の顔がいくつも出てきました。
ここが、山賊どものとりでなのでした。
(さらわれた女の子たちも、あの中にいるのしょうね)
(まちがいなく、そうだろう)
エリーレアとテランスは目で伝え合いました。
ときおり流れてくるもやにまぎれて、できるだけ近づきます。
「うへへ、あねさん、こりゃまたずいぶんなかっこうで。バンディルのあにきとお楽しみでもしてきたんで?」
「うるさいね。さっさと開けな。あの穴に、三人落ちてる。ひとりはでかくて強そうな、多分騎士だ。もうひとりはお前らごのみの、若くてきれいな女だよ。剣や弓も使えるやつだ。急いで、できるだけおおぜいで行きな」
「ああ、でもあねさん、いまたくさんえものが来てるんで、ほとんどのやつら、そっちに行っちまってて……五人ぐらいしか出せませんぜ」
「仕方ないねえ。まあディルゲが来るまでころすわけにもいかないんだから、見はるだけならそれでいいか。じゃあ手のあいてるやつだけ行きな」
「へいっ」
のぶとい声に続いて、岩だと思っていたところが、動き出しました。
木で組んだとびらに、石や枯草をいっぱいくっつけて、岩山の一部に見えるようにしていたのです。
それが奥へ開いていった先には、馬に乗ったまま通れるはばがじゅうぶんにある、登り道が作られていました。
そこをギリアはとおりぬけ、三頭の馬が続いて、すれちがうように山賊たちがぞろぞろと出てきました。
(いまです!)
(あの扉が閉じられてしまったら、入りこむすきがなくなる!)
エリーレアとテランスはここも目で伝えあって、突っこもうとしました。
そこへ、黒いものが飛び出してゆきました。
ぼろぼろさんが首のなわをほどいた途端に、犬が疾風のように走り出したのでした。
「ガウッ!」
犬は、とてもこわい声をひとつあげると、出てきた山賊たちの足元をすり抜けて、馬のお尻にかみつきました!
ヒヒーン!
甲高い悲鳴をあげて、三頭の馬が一気に走り出します!
「うわっ、なんだい!?」
手綱を握っていたギリアが引っ張られ、ぶざまに転がりました。
犬は、馬にかみついたあとは、山賊たちにすごい声で吠えてから、馬のあとを追いかけるように道を駆け上がっていってしまいました。
その向こう、とりでの中で、こわい吠え声と人の悲鳴、馬があばれて色々なものがこわれる音がきこえてきます。
「お、おい、止めろ! つかまえろ!」
山賊たちはおおあわて、開いた入り口をそのままにしてとりでの中に戻っていってしまいました。
(いまです!)
エリーレアたちは駆け出しました。
マントも上着もないので、エリーレアがいちばん身軽で、いちばんはやく走れます。
先頭にたって入り口に飛びこんで、扉をひらく役目の山賊に剣をひとふり、見事にやっつけます!
「うわああっ!?」
「な、なんだあっ!?」
いつもひとをいきなりおそうばかりだった山賊たちは、自分たちがいきなりおそわれて、なにもできずに立ちすくみます。
そこを、エリーレアはさらに剣をふるい、ふるい、何人も切りたおしてやりました。
「敵だ! 敵だぞぉ!」
気がついた山賊が叫びました。
こちらを向かれると、相手は体が大きく、斜面の上にいますので、エリーレアが不利です。
「伏せろ!」
そこへテランスの声が飛び、すぐ伏せたエリーレアの頭の上を、ブォンとものすごい音と風を立てて、テランスの剣が通りすぎてゆきました。
とても大きくするどい剣が、下から上へふりあげられて、山賊がひとり吹っ飛ばされてゆきました。
エリーレアの横を抜けて、テランスは斜面を登ります。
その一歩ごとに、ごうおんが鳴り、剣がうなり、山賊の体がおれまがって飛んでゆきます。
ものすごい強さです。
エリーレアも起き上がり、その後ろに続いて、横や足元からこうげきしようとしてくる山賊たちに剣をふるってテランスを守りました。
「騎士団が、とうばつに来たぞおおお!」
ふたりのかつやくを見たレントが、山賊のような声を張り上げました。
「だめだ! 強すぎる! 本物の騎士だ!」
「門がやぶられた! みなごろしにされるぞぉぉ!」
「逃げろ、逃げろ、もうだめだ、逃げるんだあああ!」
次から次へとこわねを変えて、何人もの山賊が叫んでいるようにみせかけます。
それにだまされた山賊たちは、乗りこんできたテランスのものすごい強さもあって、すっかり信じこんでしまって、みるみる弱気になり、逃げることしかかんがえられなくなりました。
「バンディルのあにきがやられたあああ!」
さっきちらりと聞こえた名前が、あの弓つかいのことだろうと思ったレントがそう叫んだところで、山賊たちはかんぜんに負けたと思いこみました。
「やべえ! 逃げろ! つかまったらしばり首しかねえ! 逃げるんだ!」
「奥だ、奥の道から逃げるんだ! いそげ! どけ! じゃまだ!」
「お前こそじゃますんな!」
とうとう山賊たち同士であらそうことすらはじめてしまいました。
テランスとエリーレアは、そういうやつらをようしゃなく片づけてゆきます。山を行く人たちをおそい、ふもとでも女の子をさらっていくようなやつらを、ゆるしてやる必要はありません。
登っていった先には、何軒も小屋があり、煙のあがっているものもありました。
そういう中から飛び出してくる山賊もいましたが、すぐエリーレアとテランスが倒してしまいます。
バウッ、と犬がほえました。
逃げ出そうとしていた山賊を見つけて、かみついて引き止めているのです。
「ありがとう! えいっ!」
エリーレアは犬にかんしゃしながら山賊をやっつけました。
「エリーレアさま、あの小屋です! 女の子の泣き声が!」
山賊たちを叫び声でさんざんに混乱させたあと、とりでの中にするりと入りこんできたレントは、山賊とたたかうのは強いふたりにまかせて、さらわれた女の子を探していたのでした。
もう立ち向かってくる山賊がいなくなったことを確かめてから、エリーレアとテランスはその小屋に近づきました。
外からしっかりかんぬきがかけられています。
間違いないでしょう。
「中に、女の子はいますか!?」
こわがらせないために、エリーレアが声をかけました。
「お父さま、お母さまたちに頼まれて、あなたたちを助けに来ました!」
娘を探しているという夫婦の名前をいくつか言うと、すぐに声がかえってきて、とびらがドンドンと叩かれました。
「今あけます! おちついて!」
かんぬきを外すと、中からまず女の子がひとり飛び出してきて。
びくびくしながら、ふたり、ようすを見て、いるのが女の人であるエリーレアとわかって、あんしんして出てきて。
中には他にも、あまりにもこわい思いをしたからでしょうか、うずくまったまま動かない女の子が何人もいたので、エリーレアは他の子たちにも手伝ってもらって、みんなを外に出しました。
女の子は八人もいました。
ひどい目にはあわされていないようですが、腕をしばられたあとが赤いあざになってしまっている子や、あまり食べものをもらえなかったのかよろよろとしている子もいました。
「何てひどい。他のやつらも残さずたいじしてやりたいところだ」
テランスが大きな剣についた血をぬぐいながら言うと、女の子たちはおびえて後ずさりました。
特にひとり、悲鳴をあげ頭をかかえて、うずくまってしまった子がいました。
エリーレアは、もしかしたらと思って、その子に近づいてやさしく声をかけました。
「あなたは、妹さんといっしょにいたときにさらわれた人ではありませんか? 護衛の人がころされてしまって、とてもこわい思いをしましたね。でも大丈夫です。わたくしもとてもおそろしい弓矢を使うやつにおそわれましたけれど、このとおり、ころされることなく、相手をやっつけて、あなたを助けにきましたよ」
お父さま、お母さま、妹さんの名前も聞いていたので、それを言いながらやさしく体に手をかけ、そっと抱きしめてあげると、女の子はふるえながら顔をあげました。
「わたくしは、エリーレア・アルーランともうします。かならず、あなたをおうちへ返してあげますよ」
エリーレアが言うと、女の子はふるえながらしがみついてきて。
「た……たすけてくださいまし…………おねえさま……」
エリーレアの耳元で、そう言ってきたのでした。




