4.聖女とローエンベルク王国
「な!な!なにこれーーーーー!!!!!」
私の悲鳴が部屋中に響き渡る。
「姿見!アルマ!姿見をこちらに!」
「はい、お嬢様こちらに」
アルマが用意していた姿見を私の近くに寄せてくる。
「みさと、魔力には色がついていてね、聖女の魔力は唯一白い魔力なの。
その人が持っている魔力の種類に応じて色は複雑な色になるんだけれども、聖女の魔力は白くて他の色にはならない。
みさとの白い魔力は紛れもない聖女の証よ。それとこれも」
そうして姿見へ促される。
姿見に映った私の姿は......
だいぶファンキーになっていた。
髪は白く染まり、瞳も白く輝いていた。
元の黒髪に黒い瞳とはかけ離れた姿に純日本人(多分)の私は何度も目を凝らして姿見を見る。
髪を染めるどころか、マニキュアすら小言を言われるせいで塗ったことがなかった私は、予想外の自分の変化に完全に動揺してしまった。
「どど、ど、どうしよう!エレオノーラ!エレオノーラ!」
「大丈夫、綺麗よ」
「違う違う!そういう事じゃない!どうしよう!なにこれ!」
「魔力の影響を受けやすい部分が魔力に反応して一時的に変化することがあるんです、聖女様。一時的な変化なので魔術の行使を止めればそのうち落ち着きます。
フィリップ、本来は君の役目だろう。見とれてないで説明してくれ」
殿下がいつまでも黙っているフィリップさんにツッコむ。
なんだか仲のいい友人同士のような雰囲気に従者と主だと言うのを一瞬忘れそうになる。
「失礼しました。忘れてください。
聖女様、先ほどのエレオノーラ嬢の変化も今起きている聖女様の変化と同様のものです。心配ございません。
魔力を保有している量や出力の高い人はこのように身体の一部が一時的に変化することがあるのです。
先ほどのエレオノーラ嬢も瞳が黄金に変化していたのもそのためです。
現在ここローエンベルク王国にてこの”変化”が確認されているのは一部の王族と魔術師だけになります」
「も、戻るんですよね?」
「綺麗だからわたくしはそのままでも良いと思うわ。とても神秘的な雰囲気でみさとにあっているし」
「エレオノーラ、今は冗談を言って欲しい時じゃないのよ?」
「大丈夫です、聖女様。すでに毛先から元の髪色に戻りつつあるのでご安心ください」
フィリップさんに指摘されて姿見をもう一度確認する。
確かに毛先から徐々に黒く染まっていく。
「ほぉ~...。すごい、CGみたい...」
「しぃーじー...?んんっ!普通はいきなり髪の色や瞳が変わるくらい魔力を出力できないし、魔術を行使できないわ。なのにみさとは何も言ってないのにわたくしを癒してしまうのだもの!びっくりしたわ!流石わたくしの師匠!」
ん?さっきも気になる単語を挟んでいた気がする...”師匠”ってなに?
「エレオノーラの言う師匠ってなに?」
「わたくしは魔術で都市機能を維持する手伝いや、国防のために魔術を開発したり行使する仕事をしているの」
「うん、魔法がうまく使えるように一緒に特訓して成果が出たって言ってたけど...。その後からよね?」
エレオノーラは幼い頃全く魔法が制御できず屋敷を破壊しまくっていた時期があった。
多すぎる魔力に制御が追いつかないのが原因だった。
その時私にアドバイスを求めて...ほぼ泣き落としのような感じだったが、あまりに畑違いな相談に私は申し訳ないが当時本や映画で言われているような知識をエレオノーラに伝えたのだった。
いや、十個試して一個くらいまぐれで当たればいいなって思っていた。
「ええ、わたくしが今魔術で気に入らない家柄だけの貴族にブイブイ言えるのもみさとのおかげですわ!」
言い方よ。言い方。もっと言い方あったでしょ...。
と言うか、とんでもない子にとんでもないアドバイスをしてしまったかもしれないと今更思った。
「我が国ローエンベルク王国は元は魔術を極めんとする魔術師達の集まる一都市でした。周りにある大国や小国から魔術師が集まり、あらゆる魔術を開発しこの大陸を豊かにしていきました。
しかしその知識や力を独占しようと侵攻してくる国も多く、時には力をもってして敵を文字通り滅ぼしました。
滅ぼした国々の領土を統合し防波堤として都市や街を築き、領土を広げ今のローエンベルク王国となりました。
因みに王家である僕の祖先は癖の強い魔術師達を力と知識でまとめ上げ、敵を打ち滅ぼしたリーダー集団であったみたいですね」
そう紅茶を飲みながらサラッと説明してくれたカスパール殿下の後にフィリップさんが補足を入れてくれる。
「領土を広げたと言っても小国の範囲は出ません。現在は魔術師を派遣したり、学院にて自国の学生や近隣の国から留学生を向かい入れて魔術を教えたりしています。
聖女様が”魔法”と仰っていたものも厳密には魔術に該当します。
周りの国々と同盟を結び、魔術に関する特異性を活かして小国ながら大国とも対等に渡り合っています」
「なるほど...。なんだか凄く便利そうと言うか、さっきもイルマさんが......い、イルマが魔術でローズティーを用意していて凄いなと」
イルマがニッコリしながら無言で首をフルフルと横に振るので何事かと思ったら、どうやら正解だったらしい。
姉妹揃って敬称にうるさいのは似ているらしい。
「魔術は何かを破壊したり、創造したりするのは得意なのだけれどね。苦手なのよ、何かを癒したり元に治すと言うのは。
それも当たり前で、癒したり元に治すと言うのは時の逆行に相当するもので聞くだけで難しそうだわ。
しかし一度大国が侵攻してきたことがあって、流石にローエンベルク王国も無傷とは行かなかったわ。
破壊するだけでは戦えない民は守り切れない。
そこで当時の魔術師は考えたの。自分たちに成しえない理ならば、それを成すことのできる存在を他から招けばいいって」
エレオノーラはキラキラした目で私を見ながら魔術に関して、そして私の想像が正しければ私自身の事を教えてくれる。
「僕の祖先で三代目国王は国中の力を結集して条件に合う存在を探した。
意思の疎通が取れるか、もしくは洗脳して使役出来る存在で自分たちには扱えない理を扱える存在を。
そして当時大国相手に傷ついた民や兵士と魔術師を癒して回り、戦いに勝利した後も敵味方分け隔てなく癒して回った聖女が初代聖女だったと言う訳です」
「魔術師たちが最終的に目を付けたのは我々とは異なる理を扱う異世界の住人でした。聖女を召喚した例は実のところそこまで多いわけではなく、完全にメカニズムが解明されている訳ではないのです。
こちらに招くことのできる異世界の住人は限られており、”招くことが出来るから聖女なのか”、”招く過程で聖女の力が備わるのか”不明です。
いままで上手くいっていたからと言って、今回も聖女かどうかはわからなかったのです」
フィリップさんはカスパール殿下の説明を引き継ぎ、一気に説明した後エレオノーラを難しい顔で見る。
「結果的にはう、うまくいったわっ...!それに!聖女でなくても関係なくてよ!みさとをあのままあそこに置いておけなかったわ!」
エレオノーラはパッと私の隣を詰めて腕を取って抱き着いてくる。
フィリップさんを睨むのも忘れない。
「殿下も私も巻き込んで、陛下に事後承諾で聖女を召喚したのです。私は上手くいかなかった時のことを想像すると鳥肌が立ちます」
「フィリップ。まあまあ、あまりエレオノーラを虐めないでやってくれ。勝算の高い賭けで合ったのは確かだし、これで”もしも”があった場合僕たちは強力な味方を引き入れたことになる。
それに、召喚の儀に見とれて、召喚された聖女様に見とれ、先ほども見とれていたのだから十分に鳥肌の分は元を取っただろう」
ニコニコしながらカスパール殿下はわざわざフィリップの傍まで寄ると肩を叩きながら宥めるのだった。
確かにあの魔法...魔術は凄かった。鼓膜が破れるかと思ったし視界なんて真っ白になった。
召喚された足元にはブランコの下に現れた魔法陣の何倍もの大きさの魔法陣が描かれていたし、あれが白く光っていたなら相当神秘的な光景で綺麗だっただろう。
「という事で今までの聖女も一部の例外を除いて皆さんとても協力的に我々ローエンベルク王国に協力してくれました。
それもあり聖女様の地位はとても高く、国をもってこれからも保護させて頂きます。
戦争が起きていない現在では頻繁にお力を使っていただくことも無いでしょうから、どうぞ肩の力を抜いて過ごしていただければと思います」
カスパール殿下に半ニート許可証を貰って、朝の新聞配達の為に仮眠して午前二時に起きる生活ではなくなるのだろうと私は思った。
けれど一つ確認しなければならなかった。
とても重要な事。
カスパール殿下の口調からなんとなく推測はしていた。
エレオノーラが私に伝えたいであろう、一つの真実を。
「そっか...私はもう、元の世界には帰れないんだね。そうだよね?エレオノーラ」
あ~~~やっとローエンベルク王国と聖女と魔術に関して説明できました~。
次回!さあ!白状せいぃ!エレオノーラ!打首獄門じゃ!覚悟ぉ!
でお送りします。お楽しみに!嘘です。
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