2.はじめの三人とイルマ
「みさと!よく眠れたかしら?何かあればすぐに言ってくれなきゃだめよ?まあ、みさとはどうせよっぽどじゃないと言わないからわたくしが勝手にするわ!」
エレオノーラは今日も元気いっぱいだ。本当に公爵令嬢で後ろでニコニコしている金髪イケメン、カスパール王太子殿下の婚約者で良いんだよね?
私は早く淑女然としたエレオノーラを見て安心したい気持ちが沸いてきた。
「だ、大丈夫大丈夫。アルマさん...アルマにもマッサージしてもらったの。とっても気持ちよくて寝てしまって...。アルマに迷惑を掛けてしまったけど体が軽くなったのよ」
「アルマはメイドとしても一流だからなんでも命令していいわ!さあ、掛けてちょうだい。色々話すことがあるわ。あと...その...うぅ...謝らないと...」
私は朝食、時間的にはもう昼ご飯であったらしい食事を取ってカスパール王子殿下とエレオノーラ、そして殿下の従者であるフィリップが待っているという客間まで来ていた。
いつの間にかテーブルのそばまで移動していたアルマに椅子を引かれて着席する。
先ほどの”メイドとしても一流”という言葉から私はもしかしたらアルマはモデルの仕事を兼業でしているのかもと思った。
今のところ整ったビジュアルしか見ていないから美的感覚が狂わないようにしなければ...。
「イルマ、今日のおすすめは何かしら?今日はみさともいるからうんと美味しいのがいいわ」
「はい、お嬢様。シルヴァ領の特産品でもあるローズティーをご用意いたしました。美容にも効果があるので是非こちらを」
エレオノーラのそばで手先を宙で動かしながら優雅に答えたのはアルマと同じ褐色の肌に黒い髪、髪形はボブカットの女性だった。
アルマと違って垂れ目でほんわかした雰囲気を漂わせている。
アルマが出来るOLなら、イルマは幼稚園の先生というイメージだ。
「ん?イルマさん?ん?ってティーセットが浮いてる...」
ティーセットが浮いてそれぞれ運ばれていく。
紅茶の用意が勝手にされていくのを見ながら「魔法?手品?ここで?手品?え?いや~じゃあ、魔法?」と小さく呟いていたら、イルマはニッコリ微笑んでコクコクと頷いてくれる。
生魔法初めて...ではないか。
ここに来るとき凄まじいのを一回見てたわ。
「わたくしはイルマより凄い”魔法”を使えるわよ!」
「従者と言うか自分自身の弟子と張り合わないでください」
フィリップがそうツッコむとエレオノーラは扇子を広げて、
「今日もお口が無駄にお元気でございますこと。少しはその元気でよくはしゃぐお口を女性への誉め言葉に使えばよろしいですのに。
あ、失礼。よく女性に囲まれてはいますがなぜかそのお口は元気を無くしてしまわれるのですよね」
エレオノーラとフィリップが言い争っているのをぼーっと見ながら私は共通点が多いアルマとイルマを見比べて姉妹なのではないかと推理を立てた。
「アルマとイルマは姉妹で10年ほど前からエレオノーラに仕えています。私から見ても非常に優秀で私からエレオノーラを通して仕事を依頼する事もあります。まあ、頻度はフィリップの方が多いかな?」
「なるほど、どおりで似ていると思いました!あ!すみません!えっと...カスパール王太子殿下」
「カスパールか殿下で大丈夫ですよ聖女様。説明は致しますが聖女の立場は非常に高いのと、エレオノーラの貴賓でありここはプライベートな場ですから。”魔法”を見るのは初めてですか?」
王太子を呼び捨てはキツイ。あまり人付き合いをしてこなかったのもあるが、エレオノーラの婚約者の筈なので呼び捨ては更に無い。
「では、カスパール殿下とお呼びします。魔法は私のいたところには無かったですし、エレオノーラから聞いていただけ見るのは昨日が初めてです」
「”魔法”の説明ならわたくし以上に適任はいないでしょう。みさと、手を出してちょうだい」
「エレオノーラ嬢、流石に魔力を通すのは説明をしてからの方が良いのではないでしょうか?」
手のひらを無言でエレオノーラに預けた私を見て慌てて止めに入ったのは、さっきまでエレオノーラにツッコんでいたフィリップだった。
「体感した方が早いわ?」
「誰しもあなたのように魔術の才能に長けているわけではないのですよ!それに失礼ながらまだ聖女と決まったわけではありません」
フィリップは心配そうに私を見る。
失礼なことを言ったと自分で言っておきながら心配そうな顔で私を見ていた。
「聖女でなかったら何だというの?それにこれからそれを確かめるんじゃない。それにわたくし以上にみさとを分かった口をきかないで」
そう言ったエレオノーラの紫水晶の瞳が黄金に輝くと美しいウェーブが掛かった長い髪ががフワッと黄金の色を帯びて浮き上がる。
「まあ、良いじゃないかフィリップ。エレオノーラが聖女様を傷つけるとは考えられないし、早めに白黒つけておいた方がいい。
聖女でなくても聖女でも保護するのは変わらないが、貴族共に嗅ぎつけられる前に手を回しておきたい」
心配そうな顔でもう一度こちらを見て、降参する旨の両手を上げて続きをエレオノーラに促すフィリップ。
「ちょっと気持ち悪くなって、ちょっと体が”熱く”なるかもだけど必要なことだからごめんね、みさと」
説明は十分とばかりに私の手を取って黄金に変わった瞳で私を見つめるエレオノーラ。
「エレオノーラ、痛いやつだったら最初に教えてほしいかも...」
「大丈夫よ。ダメだったら魔力酔いで意識を数日失うだけだから」
良くない。
よくはないが...エレオノーラが止まらないのを知っている私は...。
「そうなったら、今度ご飯奢ってね。きっと起きたらお腹ぺこぺこだよ」
エレオノーラを信じることにした。
止まらないエレオノーラ。
止めないカスパール殿下。
止めたいフィリップ。
三者三様の動きで執筆も止まらず字数もかさむ...。
次回、光る。
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