僕と僕の婚約者筆頭候補①
「本当にあれが殿下の婚約者筆頭候補なのですか...?」
「...ああ」
フィリップの言いたいことも分かる。
フィリップはランギエール侯爵家次男で僕の側近となるべく日々一緒に切磋琢磨する優秀な側近で、関係も親しく、ある意味家族のような男だ。
普段、第一王子として隙を見せられない中で数少ない気心知れた仲と言ったところ。
そのフィリップと一緒に剣術修行をしていた所に前触れなく、許可もなく乱入してきた僕の婚約者候補にフィリップは相当お冠だ。
「やはり隣国から輿入れして頂いたりは出来ないのでしょうか?」
「フィリップ、結論が分かり切っている話題を振られても僕は困るよ」
普段から冷静な分析と的確な指摘を行うフィリップにしては珍しい無駄口だった。
「しかし...」
まあ、フィリップの言いたいことも分かるのだ。
けれど、それだけあの婚約者候補...エレオノーラ・ド・シルヴァは...彼女がと言うよりシルヴァ家が問題だった。
シルヴァ家は元々忠義の厚い優秀な臣下だ。代々王家と国を支え、領地の収支も良い。
現当主のピーターは特に優秀で、彼が当主となってからは領地の運営、貢納は右肩上がりだ。
それでいて王家、陛下に対する忠言もきちんとしたもので陛下も宰相も頼りにしている。
少し前に起きた軽い飢饉にもほぼ無償で国に奉仕し、民からの覚えも良い。
それでいて本人は自身が力を持ちすぎて王家の威信に傷が付かないように配慮までする有り様で、まさに理想的な貴族だ。
ある一点の欠点を除けば...。
それは...重度の親馬鹿である。
シルヴァ公爵夫人であるレオニー夫人とは恋愛結婚であったらしく、今でも仲睦まじい様子を貴族や民の前で人目を憚らず晒している。
貴族らしくないと陰口も出そうなものだが、シルヴァ家をもし敵に回したらと考えるとそんな事をいう貴族も必然的に減る。
そんな夫妻だが第一子が生まれて間もなく亡くなってしまい、レオニー夫人もピーターも揃って意気消沈していた時期があった。
愛する人との間にできた子でもあったためかその絶望は一入だったのだろう。
第二子であるエレオノーラが生まれてから第一子の分まで甘やかすように育ててしまった。
きっと愛情を第一子に注げなかった反動であろう。
しかしその過剰な愛情はエレオノーラの我儘な性格を助長させるには充分であった。
気に入らないことがあれば両親に泣きついて白を黒に変えたり、格下...まあ、殆どの貴族令嬢はエレオノーラより格下なのだが...権力を使って黙らせたり、痛い目に合わせたり...。
とにかく滅茶苦茶だった。
当然好く者も少なく、本人と本人の両親以外にとっては腫物であった。
そんな彼女が僕の婚約者候補筆頭なのだ。フィリップも楽しい剣術の時間を邪魔されてご立腹なのもあって言葉が辛らつだ。
僕も彼女が将来妻になると思うと頭が痛い。
しかし、同時に”私”はこのまま何事も無ければこの国の王となる。
王として貴族を正し、民が安心して暮らせるように動かなければならない。
その為にはシルヴァ家の力が必要で、王家の力と合わせればより王として多くの事が成せる...。
そこに愛など要らない...。
自分の両親は政略結婚ではあったがお互いに愛し合っている。
きっと私はそうはならない...。
少し羨ましいと思うけれど、王としての責務からは逃げられない。
この結婚も仕事だと割り切って行くしかない。そう思っていた。
しかし異変...僕たち、僕とフィリップにとってはある意味事件が起きる。
ここから僕たちの関係は変わったんだ...。
遂に挟めたカスパール殿下視点、これはわざと後回しにしていました。
やっぱりカスパールとエレオノーラのお話で挟むべきであると思ったからです。
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