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4.貴方が一生後悔して、一生残る傷を付けてやる

「凄い...こんな雁字搦めに...」


なんだ、この少女は...?


入ってきた少女はこの薄暗い牢に似つかわしくない、上等なドレスに身を包んだ金髪の美しい少女だった。


なぜ鍵を壊して入ってきたのか、そもそもなんでこの牢に入ってきたのか...。


そうだ、もしかしたら扉の向こうに居た看守だろうか、男が”毒”と言っていた。


もしかしたらもう私は毒で死んでいて...これまで犯した罪の罰をここで受けているのではないか?


そう考えてしまうくらい場違いで、美しく...垢と泥と乾いた血、擦り傷だらけの自分との対比によって良い感情は微塵も湧かなかった。


「へぇ...本当に黒い髪...」


少女は近づいて私に手を伸ばす。この汚い身体にこの少女は触れるのか?


「汚れているわ。けれど黒い...ベージュでもブラウンでも、ブロンドでもない...


貴方の妹と一緒ね」


思わず...本当に思わず...伸ばされた手に噛みついた。


栄養失調と疲労、痺れ薬の後遺症、色々重なっていた為少女の手に歯が食い込んで流血する程度ではあったけれど...


「ちょ!え!なに!?いった!!!いったぁぁぁぁぁ!!!!痛い痛い痛い!!!」


手を噛まれてその場に膝を突く少女。


噛まれたまま、手を上げた状態で荒い呼吸を繰り返す少女。


“貴方の妹”という単語に思わず反応してしまった。


街で活動するうえで動けないイルマは私を狙う者たちにとって格好の餌になる。


なるべく誰にも知られないように注意してきた...。


それなのに目の前の少女は妹を知っている。私はその時本気で彼女の手を噛み切るつもりだった。


「ちょっと待ちなさいっ!!!ああ~~~!!!痛い痛い痛い!!!つ、痛覚遮断...うぅ...」


少女が魔術を使用した。てっきり攻撃されるモノだと思ったけれど、暫く息を整えてから少女は私を下から睨む。


「はあ、はあ...はぁ...。貴方...後悔するわよ。ああ...そうだわ...決めたわ。貴方が一生後悔して、一生残る傷を付けてやる...精々後々悔いながら生きることね」


肩で息をしながら美しく整った口元がまるで三日月...悪魔のような笑みで歪む。


自分より確実に五歳以上年下の少女がしているとは思えない表情に私も動揺する。


「放しなさい。駄犬。今なら貴方の妹だけは生かしてあげる...はぁ...言葉通じてるの?」


妹...イルマ...生かして...。


段々と噛む力が弱まっていく。そもそもこれ以上強く噛めない...。


「あああ~~~ゆっくりゆっくり...うっわ...これなんて言い訳するのよ......。


......なんでアンタが泣くのよ...痛いのはこっちよ。駄犬」


この少女はどうやら妹を知っていて、生殺与奪の権利すらあるらしい。


本当かどうかは分からない...。


私はその少女の手を噛んだ。きっと私は助からない。けど、妹だけは...。


「ご、ごめんなさい...妹だけは...妹は頭がいいんです...。きっと役に立ちます...お、お願いです」


もう訳が分からなくなって...涙が止まらない...。


「ほんっと...姉妹ね...。まあ、良いわ...さっさと治療したいから手短に...。


妹は助けてあげるわ」


ほ、本当だろうか...思わず少女の目を見やる。


「けど条件があるわ。それは...…わたくしのために貴方の命を捧げなさい。良い交換条件だと思わない?


一人救って...一人はわたくしのおもちゃ...”取り巻き”になるの。わたくしの私利私欲で使いつぶされて、要らなくなったら捨てられるおもちゃ...。


精々わたくしの靴を舐めて、媚びを売り、尻尾を振る駄犬に成り下がるの。


いつ捨てられるか分からず、それでも懐くしか選択肢のない駄犬に...。


どうかしら?わたくしに命、捧げられる?」


何を言っているんだこの少女は。血で濡れた手で顔を触ったからか、頬に血が付いてる。


三日月に歪んだ美しくも凄惨な笑みに意味の分からない交換条件。


意味も分からないし選択肢もない...妹が生き残るなら...誰だって殺す覚悟があった。


今更自分が可愛くてこの交渉を断るという選択肢はない。


腹は決まった...。


こうして私はエレオノーラお嬢様...エレオノーラ・ド・シルヴァに忠誠を誓うボディガード兼、取り巻きになった。





「お嬢様...あれから七年経ちました。その御手の傷を消しても良い頃合いではないでしょうか?」


あの牢での交渉から...七年が経った。


私の蹴りとパンチを軽く受け止め、頭突きを繰り出したシルヴァ領騎士団団長に戦闘技術を学び、エレオノーラお嬢様に魔術を学び、メイド長と執事に従者としてのイロハを教わった。


妹の病は身体の魔力が上手く循環しない、ローエンベルク王国でしか治療できないかなり珍しい病気だった。


基本的に魔力が詰まる程の魔力保有量など貴族でしか見られない。治療費も見たことがない額だった。


妹は暫く治療を受けて、お嬢様には遠く及ばないものの一般的には”天才”と称される魔術師に成長した。


姉妹揃ってエレオノーラお嬢様の”取り巻き”...のちに取り巻きの意味を誤認識していたお嬢様は「じゃあ、従者で」の一言でエレオノーラお嬢様の従者になった私達。


色々やらかして初めは公爵夫妻とも他の使用人ともギクシャクしていたけれど、今では仲間...と言うか皆私達を頼りにしてくれている。


多すぎて使いきれない給金、信頼できる使用人たち、尊敬できる公爵夫人...そして敬愛なるエレオノーラお嬢様。


もし、お嬢様に明日死ねと言われても私たちは恐らくなんの躊躇もないだろう。


けれど...たった一つだけ...一つだけ不満があるのだ...。


「え?いやよ。言ったわよね?


『貴方が一生後悔して、一生残る傷を付けてやる...精々後々悔いながら生きることね』


って言った気がするわよ?」


これなのだ...。


お嬢様はあの時、あの牢で噛んだのを根に持っている...と言うか、御手に残った傷跡を消そうとなさらない。


そして、こちらに近づいて私の顔の前に手を掲げて...


「貴方の大事な妹の命を救い、仕事と居場所を与え、魔術と立場すら与えた主に残した噛み傷。貴方はこれを見るたびにあの事を思い出して後悔するの。


だから、消してあげないわ」


俯く私の頬に手を当ててニコニコ笑うお嬢様...。


敵に対しては異常なまでにサディストになる妹の悪い影響を受けていらっしゃる...元からかもしれないけど...。


「......けど、確かに可哀そうだわ。やめる?従者。良いわよ?妹と一緒に住む場所も仕事もお金もあげるわ。


大体、黒髪だから助けただけだし...まあ、手入れはしてるみたいだからそこは褒めてあげる。


けれど、わたくしは殿下の婚約者。これまでも人に言えない仕事を貴方たちに任せたこともあったけれど、誓約魔術で秘密を守れるなら、今やめてもいいわよ?


このままだとわたくしに危機が訪れる時、貴方たちも道連れ...。


いつ使いつぶされて捨てられるか分からない今より、そっちの方が幸せかもしれないわ?」


淑女らしくない歪んだ笑顔で私を見やるお嬢様...。


けど、私は知っている。


こんな風に笑うお嬢様は本当は素直じゃないだけの優しい、私たちの愛する主。


「幾らでも後悔致します。ですから、最後まで...どうか要らなくなるまで貴方の御傍に、どうか」


頬に当てられた御手に自身の手を当てる。


従者として許可なく触れるのはマナー違反だけれど...欲望には逆らえなかった。


「ちょ...姉さんだけずるい...。お、お嬢様!私も勿論一生付いて行きます!どうぞいつでも捨ててください!」


お嬢様に命を救われて色々与えられた妹のイルマはちょっと残念な感じになってしまってる...。


「......ほんっと...懐きすぎだわ...。まあ、本当に頼りにしてるわ。貴方たち。精々捨てられるまで、役に立ちなさいな」


ちょっと呆れたような、困ったようなそんな笑みを浮かべてもう片方の手でイルマの頭を撫でるお嬢様。


あの牢から七年、すっかりお嬢様の素直じゃないところも含めて忠義を誓った私達姉妹。


そしていま、あれから三年後。


目の前で孤児の為に必死に慣れない魔術を行使する聖女様。


私達使用人にも笑いかけてくれる聖女様。


陛下の作ったおにぎりを食べるように進めてくる聖女様。


敬愛するお嬢様が大好きな美しく、可愛らしい聖女様。


美味しいお菓子や可愛いアクセサリーをすぐ私に勧めてくる優しい聖女様。


嫌われたくないし...出来ればお世話したい...。


こんな話を聞かせてしまってよかったのだろうか...。


嫌われたくない...。


どうか、嫌われませんように...。




アルマは別にお気に入りではありません。


初期案の段階でエレオノーラ以上に設定が練られていても、なんなら主人公より練られていてもお気に入りではないです。


全然話は変わりますが、可愛い物を虐めたくなる衝動をキュートアグレッションと言うらしいです。


全然関係ない小ネタですけど。


あ~アルマなんて全然お気に入りではないです。


次回も少しアルマとイルマとみさとのお話が続いてから本編に戻ります。


それにしてもすっきりしました。


次回もお楽しみに!


続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。

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