3.これこそ本当のマスターキーですわ!
「あっちだ!回り込め!かなり素早い、鈍化の魔術が使えるものは構えろ!バディはそのカバーだ!」
ローエンベルク王国へは奴隷業者の積み荷に忍び込んで密入国した。
イルマを抱えての入国だったのでこれしか無かった。
再度彼らから逃げなくてはならないけれど、前の奴隷業者より管理が杜撰で助かった。
魔術が他の国に比べて圧倒的に発展したこの国であればイルマを治療して南の国...祖国に帰れるかもしれない。
もう誰も居なくなった私たちの民族。
けれど私は狩りが出来る。帰ることができ、イルマの病さえ無ければ暮らしていける筈...。
けれど、密入国した結果を言えば...
「ここだ!既に騎士が数人やられてる!油断するな!」
失敗だった。
元々活動していた国々と比べて明らかに動きづらい。
騎士たちも皆魔術を使って捜査や追跡を行う。
一度追いかけっこになった際、もはや戦闘と言っても差支えない程組み合った。
致命傷こそ貰わなかったが、防御に捕縛に魔術を絡ませてくるせいで最後は川に飛び込んで狭い水路を泳いで逃げた。
常に複数人で囲み、誰一人ツッコんで来ず、本気で蹴りあげても壁が凹むだけで鎧も騎士も驚いた顔を見せるだけ...。
腕を折るどころか、逃げるので精一杯だ。
初めは王都、そして追われて追われて...今はシルヴァ領と言うところで...
「しゃああああ!!!」
「なんで剣を蹴られたこっちが体勢を崩されるんだ!?一体こいつはなんだ!?」
「おい、まだ痺れ薬は効かないのか?!ルースのやつさっき吹っ飛んでノビてたぞ。そろそろ大人しくなってもらわないと市民を巻きんでしまう」
騎士たちに捕まったゴロツキや野盗の末路は今までなんとなく聞いてきた。
ここ、ローエンベルク王国では知らないけれど...きっとロクでもない事になる。
動けないイルマを残して牢にでも入れられたら...あの子の元へ帰らないと...。
そう思っても足が動かなくなってきた。痺れ薬、さっき聞いた。
きっとこれだろう。さっきから視界も、音も、まるで水の中に居るみたいに不明瞭だ。
気配を感じて真後ろに横なぎに蹴りをかます。
「筋はいい。けれどここまでだ」
まだだ。
「しゃああああああああ!!!!!」
掴まれて固定された足を引きこんで顔面を殴りつける...いや、殴りつけようとした。
「鈍化魔術に痺れ薬を使ってもこれほどなら部下が手こずるのも分かる...なっ!」
渾身のパンチも軽々止められて、思い切り頭突きを貰う。
私の意識はそこまでだった。
♦
「意識が......事には......噂の...黒髪の......。ええ、今は......毒......せん。獣......我々も...ルースは......処分...」
意識が戻って初めに見たのは石畳の床、それと固定された足だった。
腱は切られてない。運がいい。多分...。
両手と首は一つの板で完全に固定されている。足も歩けない様に固定されて...詰んだ。
そもそも薬か知らないけれど、身体が動かない。
「......妹...相当...。ええ、大変でした......どうでしょう...暴れて...」
扉の向こうで誰かの話し声が聞こえる。
分厚いのか遠いのか分からないけれど、単語が聞こえたり聞こえなかったり...不明瞭だ。
妹......妹...イルマ...ああ、イルマ!
「ああああ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!!」
♦
あれからまた暴れまくって、もうクタクタだ。
固定されて擦り切れた足首と手首が痛い。
何時間経った?そもそも気絶していた間の時間が分からない。
空腹も時間の目安にならない。お腹なんてずっと空きっぱなしだ。もし、何日も気絶していたら...。
イルマ...最後に見たときはもう...苦しそうに身体を丸めて...。
どうすれば正解だった?ローエンベルクに来たのが失敗?けど、他に選択肢なんてなかった。
イルマ一人で食べ物を得るなんてあの様子じゃ無理だ...。
最近はご飯も食べるのに起きるのも苦しそうで...代われるなら、そんな風に何度も思った。
あの子を一人置いておくなんて...ああ、私はただ...あの子と笑いあって過ごしたかっただけなのに...。
その時...
コンコン!
扉をノック?する音?が聞こえる...。
コンコン!コンコン!コンコン!
連続でせわしなく扉が叩かれる。なんだ?
「返事が無いけれど、開けますわね」
扉の...鍵の部分がみるみる赤くなって...溶けてる?
溶けて役目を果たせなくなった扉の鍵を吹き飛ばす勢いで扉が開く。そして...
「これこそ本当のマスターキーですわ!」
♦
お父様が難しい顔をされて居るのを夕食で見かけてしつこく問いかける。
お父様とお母様は基本私に甘い。それは愛されているから。みさとに色々教わって殿下との婚姻も進み、家ではわたくしを可愛がってくれる両親。
そんな両親は私と接する時はだらしのない顔をするのがお決まりだった。
「どうされたの?お父様?」
「いや、なんでもないよ。エレオノーラ」
気になりますわ!
しつこくに問い詰め...お願いすると、どうやら最近領内で黒髪の異邦人が色々荒らしまわっているらしい。
一般市民への被害は盗難程度で済んでいるが、アングラ、ちょっと褒められない家業の方たちが困っているらしい。
それだけなら良いのかもしれないけど、最近騎士たちが捕縛しようとしたら抵抗されて逃がしたらしい。
たかが少女一人に。
目撃によると、黒髪褐色の少女で体躯から考えられないほどの機動性、魔術の痕跡などない事から単純な身体能力のみで魔術を使う騎士たちに一撃入れて逃げおおせたらしい...。
面白い...。
そもそも黒髪と言うところが非常に惹かれる。
この国では黒髪なんて居ないし見たことない。
それは異世界の住人にしか見られない貴重な印。
わたくしは恩人で友達であるみさとがどんな姿をしているのかいつも想像している。
黒髪で本人曰く平凡な顔つきらしい。
黒髪...黒髪...きっと夜空をくり抜いたような...そんな艶のある...美しい艶やかなドレスのような髪に違いない...。
お父様はどうやら騎士団に命じて彼女を捕らえる予定らしい。
しかし情報筋によると一人ではなく、もう一人連れがいるらしい...。
はあ...黒髪...気になる...欲しい。
きっと美しい。絵本に出てくる聖女は皆美しく描かれている。
みさとはまるで聖女のような人柄だ。最初は公爵令嬢のわたくしに滅茶苦茶言ってくるクッソ無礼極まりないド平民の小娘くらいにしか思っていなかった。
けれど、わたくしの愚痴を聞いて、間違いを正し、叱ってくれる。
立場ではなく、わたくしを、エレオノーラを見てくれる数少ない友人。
そんなみさとも異世界としか思えない世界にいて、聖女と同じ黒髪なのだ。
きっと聖女に違いない。証拠は何も無いけれど、聖女に違いない。
そんな黒髪を持った優秀な...優秀な...?そこでわたくしは思いついたの。
素晴らしい案だわ...。それにこれでみさとの言っていた”取り巻き”もゲットできる!
素晴らしいわ...。まずはその連れから当たりましょう。連れは黒髪かどうか知らないけど、件の黒髪の少女さえ手に入れば...お~っほっほ。
海外のゲームコミュニティでは、ショットガン、散弾銃の事をマスターキーと呼ぶことがあるらしいです。
鍵穴を鍵ごと吹き飛ばす。
エレオノーラならまだ幼いながらも魔術が...しかも高威力の魔術が使えるのでショットガンなんて要らないです。
まあ普通、開錠の魔術とか使いますが...。
次回もお楽しみに!
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