17.捕り物
「い”だい”!!!い”だい”!!!あああああああ!!!!」
床のでのたうち回るソフィアを立ち上がったカスパール殿下は冷たく見下ろして...
「予想外の事ばかりで、結局エレオノーラを傷つけてしまった。僕の不手際の所為だけど、これで終わると思わないことだね」
周りの騎士も混乱しているのか抜いた刃を下に向けて戸惑っている様子だ。
「ああ、叔父上。貴方もですよ」
殿下は手を掲げてヴィクターに向ける。
途端に鎖のようなもので雁字搦めに拘束されるヴィクター。そのまま膝を付いて動けなくなる。
「カスパール!何故だ!?何故ソフィアの影響下であやつに危害を加えられるのだ!?それになにをした!?」
「ああ、これですか?...これは貴方が手を出していた違法薬物ですよ」
そう言って注射器を容器に入れて内ポケットにしまうカスパール。
「貴方は謁見の場で騒ぎを起こしたバックス元伯爵と薬物や奴隷に関して共謀こそしていなかったものの、これらを使ってもう少し賢いやり方でこの国を乗っ取るつもりだった。
ああ、その前に...」
「みさと嬢。可能であれば癒しの力をこのホール全体に掛けていただけませんか?個人差はあれど、それでソフィアの影響もだいぶ軽くなるはずです」
フィリップさんからのお願いを聞き入れる。カスパール殿下から視線を貰っていたので恐らく必要なことなんだろう。
言われてみれば先程までの様子なら動揺することなく騎士たちは攻撃を続行していたはずだ。
てっきりソフィアが苦しんでいるのと関係あるのかと思ったが...。
言われて魔術の出力をどんどん上げていく。
私を中心に段々と辺りが段々と白く輝き広がっていく。こんな時に言うのもあれだけど...カメラの美肌効果?みたいな感じだ。
エレオノーラも少し落ち着いたのか呼吸も緩やかになり、落ち着いて事の成り行きを伺っている。
“なにがどうなっている...!?”
“ここは...王城か...しかし...”
"サンチェス公爵が捕らえられているぞ...それにあの娘..."
“これは聖女様のお力か...なんと...”
あれだけの騒ぎでも声一つ漏らさなかった貴族たちに変化が訪れる。
私はエレオノーラの口元に付いた血を拭いながら出力を維持する。
「なぁ...アアぁ...なんでぇ...」
息も絶え絶えな様子のソフィア。うつ伏せで顔だけこちらに向けて睨みつけてくる。
「最初、叔父上...ヴィクターが怪しい動きを見せていた時、我々は尻尾がつかめずヴィクターに大きなミスをするように仕掛ける方向に転換しました。
無駄に有能な所為で現場を抑えることも、確実な証拠を抑えることも出来なかったので」
書類らしき紙束を取り出してヴィクターに見せるカスパール。
「これはっ!?」
「ええ、我々は尻尾がつかめないあなたに長期戦を迫られていました...。
しかし、これが出てくれば話が変わってくる。
これは魔術師...いえ、魔力を持った人間の力を無理やり底上げする禁薬。この薬のレシピは過去、この国を混乱の渦に落とし込み、根絶に何十年も掛かった厄介な代物です。
飲むだけで魔力が上がる禁薬にまともな副作用などあるわけがない。
使えば使うほど気が付かないうちに身体を蝕む劇薬。
既に完成したこの薬を国に、他国にばら撒かれたら取り返しがつかない。
貴方もそれは分かっていたのでしょう?
だからこそ、これを使って国を乗っ取つもりだった」
苦虫を噛んだような顔をして黙り込むヴィクター。
「そこでどう見つけたのか知らないけど、これ、ソフィアを見つけた訳だ。
貴方は賢い。十分な程勝利の算段があって初めて身を危険にさらす。
よっぽどこの女の力が強く、薬で強化した力は厄介な代物であったのでしょうね。
貴方が力の餌食にならなかったのは...そうだなぁ~...。
どうせ国の主要人を傀儡にしても外国との外交や領土の統治など面倒なことを全て自分がしなくてはならなくなるとか、自分は傀儡とせずに味方にしておいた方がいいとか...そんな耳障りの良い言葉で説得したんでしょう?
こんな服用すればやがて死に至るような薬を渡しながら...」
「貴様はこの国が小国のまま終わっていいのか!?これだけの技術力と魔術の力を持っていると言うのに!」
殿下は一瞬だけ私...いや、エレオノーラを見やると直ぐ視線を戻して...
「良くないのは貴方自身が王になりたかったのになれなかったコンプレックスの方でしょう。
行き過ぎた選民思想に民を思わない外面だけの貴方には王にはなれないし、私が許さない。
それに貴方はエレオノーラが卓越した魔術で単身、魔術院を抑えたのも気に入らなかった。
力さえあればあんな小娘にも絶大な権力が手に入る...王家なのに力なく王に成れず、血筋と賢いだけだと思っていた貴方には眩しかった。
けれど貴方の言う技術力も、魔術の力もこの国に暮らす民と、民を思う善良な貴族があってこそ。貴族を従える王家は国を統治するのではなく、思いあがった貴族が民を虐げぬように管理し、時に捌くのが王家。
それが分からないから、優しく賢い陛下に賢いだけの貴方は負けたのだ」
周りの貴族も詳細は分からないだろうが、事の発端がヴィクターにあり、殿下による捕り物の最中であると分かったらしい。
今後の派閥争いや身の振り方に大きく影響するからか、大声を出して邪魔するものはいない。
大きく深呼吸した殿下は、今度はまっすぐ私を見やりニッコリ笑うと大きく体を広げて...
「まあ、結構いい線行ってましたよ?あれだけ禁薬と一緒に入念に傀儡を増やして...隣国の王子に新たな王誕生の証人になってもらうこのチャンスに、電撃戦のごとく主要人物を傀儡にする。
私達は半数も逃がせませんでしたし、危うく術中でした。
聖女様が居なかったらどうなっていたか...いや~危ない所だった」
え?私?
「あ、貴方何したのよ?」
床に座った私に抱っこされながら、私の手をにぎにぎして聞いてくるエレオノーラ。
「わかんない...」
「聖女の力は貴方も知っている通りこの世界の理とは異なる力、ソフィアの力と同じモノで我々には扱えない。
我々ではソフィアの力の影響を軽減するのがやっとだったはずです。しかし同じ理に属した癒しの力であればソフィアの力に対抗できる。
ましてはあのエレオノーラ・ド・シルヴァ、我が婚約者で魔術院の統括者、天才魔術師に半分請われて招かれた聖女みさと様。
その力は私利私欲に駆られた異世界の異邦人とは比べ物にならない。
どうやら以前、聖女様に癒しの力を使っていただいた時に残った残滓ですら、ソフィアの力は及ばなかった。
そのおかげで私とフィリップは無事だったと言う訳です。
獅子身中の虫、もう言い逃れが出来ない状況ではあるが...既にそれ以上に証拠は集めた。
逃がした半分足らずの同士とシルヴァ家で貴方の私兵も領土も禁薬も違法奴隷も既にこの瞬間抑えている。
終わりです。ヴィクター・ド・サンチェス」
カスパール殿下に詰め寄ろうとするが鎖が邪魔で動けないヴィクター。
ソフィアは苦痛で声も出ない。
騎士に抑えられて暴れるヴィクターを尻目に殿下はマティアスに話しかける。
「マティアス殿、大丈夫ですか?」
隣国の王子、マティアス・フォン・ハインリッヒに殿下が話しかけるも私をジッと見て返答しない。
この世界に今、聖女は私一人。以前召喚されたのは何百年も前だから珍しいのだろう。
「ん...?ああ、済まない。大丈夫だ。いや、聖女の力をこの目にしたのは初めてで...見入ってしまった」
「こちらこそ申し訳ない。もっと穏便に事を済ますつもりであったのだが、この国の醜態は私たちが必ずケリを付けるので寛大な対応を願いたいのだが...」
「貴重なものも観れた、散々手を焼いていた病魔も捕らえられた。私としても喜ばしい」
そうして殿下にフッと笑い掛けるマティアス様。
「みさと嬢、エレオノーラ嬢大丈夫ですか?」
フィリップさんが心配してくれているが...
私は落ちて拾われて力を使っただけで...怪我しそうになっただけじゃん...。
ボケっとしてたら抱えていたエレオノーラから胸倉を思いっ切り掴まれて...
「なんでここにいるのよ?ねえ?」
あ、元気を取り戻したエレオノーラがキレてる...。
「傷に触るから...ほら大人しくしてなさい」
依然なんか言っていたので思いっ切り顔を胸に押し付けたら「モガ!モガ!」って言ってた。
「私は大丈夫です。エレオノーラも癒せたみたいなので......フィリップさんこそ大丈夫ですか?その...刀傷とか...」
剣を床に置いて私に目線を合わせるフィリップさん。
「大丈夫です、全て捌きましたので。それより、てっきりシルヴァ領へ退避しているものと思っていました。ご無事で何より」
優しく微笑んで私の頬に手を当てるフィリップさんに私は顔が赤くなるのを隠せない。
「おお、エレオノーラ?!大丈夫か?!みさと殿!」
パタパタ駆け寄ってくるシルヴァ夫妻にもみくちゃにされながら...エレオノーラは暴れていたけど、少しほっとした。
「あれの片付けと、後処理をしてきます。エレオノーラ嬢とみさと嬢にはきちんと説明いたしますので」
そう言って名残惜しそうに私の手を取って口づけしたフィリップさんはグッタリしたソフィアと殿下の元へ歩いて行った。
♦
結局私たちはシルヴァ家に一旦帰って休んだ。
以前に毒が仕込まれていた事もあったが、どうやらソフィアの力を直接受けていた使用人が居たようで今回の事で適切に対処できたと思う。
エレオノーラは依然ぷりぷり怒っているし、イルマは「姉さん、殿下の説明があってから話を聞きます」って全然取り合ってくれない。
アルマは少しだけシュン...ってなってるし、これはちょっと手を貸してあげないと大変そうだ...。
「シルヴァ領まで退避していると思ったら...あんなところまで来るなんて...」
「放っておけるわけないでしょ...。どんなにエレオノーラが怒っても嫌っても放っておけないよ、諦めて。」
怒るフリで腕を汲みながら視線を横に向けるエレオノーラ。
プリプリ怒っているけど照れていて、それを悟られたくないみたい。
「けど...その...ありがと...助かったわ...」
それにしてもフィリップさん、強かったな~...剣を抜いたフィリップさんは初めて見た。
今回もきちんと守ってもらった...エレオノーラは重い蹴りを騎士からもらっていたけど...。
少し素直になったエレオノーラと殿下達を待つ私達。
これで殿下とエレオノーラの誤解が解ければ色々楽なんだけどなぁ~。
今回は書いては消して、描いては消して...の繰り返しでした。
次回から殿下の言い訳タイムと遂に、書きたかったアルマの話を書いていきます。
多分。
次回もお楽しみに!
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