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3.エレオノーラ、キレる(転機)

次の日、痛む頬を摩りながらバイト先へ行く準備をする。

大学には行かせてもらえなかった。

バイトの時間が迫っていると言えばサッサと行けと言うのだから現金だ。


しかし私は人生で初めてバイトをサボった。

これは世間的に言えば大変よろしくない行為で、私の家庭環境はバイト先で迷惑を掛ける人たちには関係無いため、相手から見ればとばっちりであることも理解している。


ふらふらした足取りで向かった先は小学二年生まで住んでいた家の近所だった。

本当は一目だけでも住んでいた家を見たかった。

今まで見に来ず、なんなら自分から知らない様にしてきたのはきっと昔を思い出したくなかったからだろう。


しかしそれは叶わず、更地になり跡形もなくなった場所にノスタルジーを感じろというのは難しい。

よく遊びに行った小さな公園は当時のまま残されていて、ブランコに腰かけて暫く虚無感に心を委ねながらジッと足元を眺めていた。

どれくらいそうしていただろうか。エレオノーラの声が聞きたくなり話しかける。


「エレオノーラ、今忙しい?」


「え?なに?珍しいわね。みさとから話しかけてくるなんて」


「エレオノーラは最近忙しそうだから。今私暇なんだ」


暇なわけではない。本当はさっきから鳴りやまない携帯に出てから謝り倒して一秒でも早くバイト先に行かねばいけないのだ。

分かってはいる。けれどズキズキと痛む頬に貯金の事、そう多くはないけれど本当の両親との思い出を浮かばせる元実家が無くなっていたショックで私は冷静さと気力を失っていた。


「暇って言うのは心を休める良い機会よ。悪いことじゃないわ」


「ふふ、誰からの入れ知恵?王子様かな?」


「カスパール王子殿下よ。因みに殿下はフィリップに耳にタコが出来るくらい言われてて暗に休めって言われてるらしいのよ」


フィリップはエレオノーラの婚約者のカスパール王子の側近を担っている侯爵の次男坊らしい。

エレオノーラとは親しい訳ではないがお互い王子の事に関しては頼りにしていると言う。

エレオノーラの性格的に恐らく親しいが小言を言われるので認めたくないと言ったところか。


「そっか...心の休憩か...。ねえ、例えばどn」


「みさと、何があったの?」


流石に鋭い。伊達に一二年間もまるで同じ通話アプリに居るような生活は送っていない。

そして直球だ。いつも貴族同士の化かし化かされで培った遠回しな言い方はどうやら私には使わないらしい。

上手くはぐらかされる、そう判断したのだろう。


「いや〜...その〜、今プチ家出しててねそれでね。その...私...えっと...あのね...」


弱音を吐ける唯一の存在を前にしたとき、吐き出すように声に出てしまった。

いつもは気味悪がられる為声には出さず、声のイメージだけ飛ばしていたのだが感情が胸から溢れて止まらない。


「がんばっで、集めたお、おがね...みづがっじゃって!...」


どうやら喉だけでなく感情が目から涙として溢れてきたみたいだった。


「ずっと、ずっど...わ”だじこのままでぇ...元の家もな”ぐなってでぇ...」


夜の公園で一人咽び泣きながら独り言を漏らす女子大生になっていたが気にならなかったし、エレオノーラが珍しく黙っているのも今は気にならなかった。


「だがら...!わだじぃ...わたし...もう、疲れたよぉ...エレオノーラ」


「.........そう」


気がついたら随分話し込んでいた。

エレオノーラは珍しく茶々やツッコミは入れず、相槌を繰り返していた。

最後に一言エレオノーラが呟いたのを聞いた私は勢いで全て話してしまったのを後悔した。

随分支離滅裂な説明になっていただろうし、どうしようもない事を泣きながら相談されても困ってしまうだろう。

きっとエレオノーラも返答に困っているのだ。

何をしているんだ私は...。


「あはは......はぁ~......大丈夫!ごめんね!今から帰って一回寝ればあしt...」


「我慢の限界ね。分かったわ。もう決めた」


「え、エレオノーラ?」


「みさと、そこから二時間動かないで待ってくれる?いいえ、待っていて。お願い。」


エレオノーラは普段私相手だと公爵令嬢の皮を脱ぎ去り、年頃の娘の様な振る舞いで接してくる。

怒るときもきっと他の人相手なら完璧なアルカニックスマイルを浮かべながら、内心ではキレ散らかして頭に青筋を浮かべているだろう。

何かや誰かに怒ることはあってもこんな静かに、そしてこんなに”本気”で怒る事はあまりない。


「え、でも時間が...」


「お願い、私を信じてくれるなら。お願い」


有無を言わせない気迫を持った”お願いだった”。

ここまで切実にお願いなんてされるのは...ああ、王子様との仲直り大作戦、もとい大革命の時以来だったかな?

なんて場違いな事を考えて携帯を手に取り電源を落とす。


「分かった。ゆっくり待つよ、エレオノーラにお願いされちゃったらね」


「ええ、準備が出来たら声を掛けるわ。覚悟しておきなさい」


この誰もいない静かな公園の居心地に比べたら家もバイト先も大学も比べるに値しない。

そう思い直し少しだけ肌寒い秋の夜を一人で堪能しながら、サボったバイト先の事やこれからの大学の事を考えていた。


「覚悟...かぁ〜。なんのこっちゃ〜。まあ、まずは寝に帰る覚悟よね~」


頭をブランコのチェーンに預けて足で軽くブランコを揺らす。




「みさと!やるわ!」


「うぇっし!」


どうやら私は半分寝ていたらしい。久々に音量調節をミスしたエレオノーラの爆音、ならぬ爆声が脳に響く。


「みさと、確認したい事があるけど覚悟が鈍るから聞かないわ!これから多分見慣れない事が起きるかもしれないけど、動かないでね!いくわよ!」


聞かんのかい...。


もはやOKかどうかすら聞いて来ない辺りエレオノーラらしい。

状況に付いていけず何か言う前に異変が起きた。

ブランコの足場に敷いてあるクタクタになった人工芝に突如記号と丸い図形が現れた。

それは私を中心に現れて足元を白い光で照らす。


次の異変は嗅覚だった。

その記号と丸い図形は人工芝と触れている部分をどうやら焼いているらしい。プラスチックを焼く刺激臭がする。


「えええ、えれ、エレオノーラ!?!?」


「動かないで!」


でもでもでも!足が焼けちゃう!

そう、言おうとして気がついた。


“熱く”ないのだ。


次第に臭いも無くなる。

私を中心とした白い円状の図形と外の境目に薄い膜のようなものが張られた。

立ち上がって真下に浮かんでいる白い円状の図形...魔法陣のようなものだろうか?

魔法陣と焼ける人工芝を見下ろしていたら先ほどまで座っていたブランコが突如音を立てて踵のすぐ後ろに落ちる。


「え?ちょ、え?え?」


「...」


パニックになりながら後ろを見上げるとブランコの鎖が途中から焼き切れていた。

足元に現れた魔法陣によく似た物が切断面に現れている。

まるで鎖を魔法陣で一刀両断したみたいだ。


「みさと、そのまま立ったまま腕は動かさず直立不動で、魔法陣から出ないで。部位再生はもし、みさとが聖女じゃなかった場合出来ないから、お願いね。」


ダメもとで説明を求める最中、今度は異変が聴覚に現れた。

電車が急ブレーキを踏んだ時の様な甲高いキーッ!!!という音が何重にも重なって聞こえてきた。

音が大きくなるにつれてエレオノーラの声も叫んでいる自分の声も聞こえなくなる。

耳を塞ごうとしても手が動かず、しゃがみ込もうとしても足が動かない。

唯一動く瞼をギュッと閉じて異変が収まるのを待つ。


体感では何十分もその場で目を瞑っていたような気がする。

突如体の中心に電流のようなものが走ったかと思えば、意識があの事故の時のように途切れたのだった。


辛いのおわり!終わりです!おわり!


次のエピソードではプロローグにつながってエレオノーラがみさとと初対面です。


続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。

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