13.キャス
「ごきげんよう、皆様」
態々シルヴァ邸に招待状まで送ってきてくれたのだ。正面切って堂々と登場するわ。
ここにいる貴族たちからはここ数日研究したあの小娘の魔力がぷんぷんする。
つまりここは...この王城で一番大きなホールは敵のど真ん中。
この、上にも横にも広いこのホールで...味方はいない。わたくし一人...。
歓談していた様に見えた貴族たちはピタッと話すのをやめて、わたくしをただ黙って見てくる。
人の波が左右に分かれて...道が出来る。
その先には小娘...ソフィアと......殿下...。
「あら?あらあら?この前のお茶会ぶりで御座いますね?エレオノーラ様?
お元気でしたの?なんだかお忙しそうで...クスクス...」
フィリップ様もそして、帝国第二王子のマティアス様も...。
騎士に縛られて父上と母上は膝間づいている。
「お連れの~殿方は~...あっは!そうでしたそうでした!カスパール殿下はわたくしに掛かりっきりでした。ふふふ」
「......こんな事をして、どうなるか分かっていらっしゃるの?ソフィア?」
「え?どうにもならないわ?だって、わたくしが主人公、元の流れに戻るだけ。エレオノーラ様、貴方はこのあとサクッと流れに乗ってサクッと...じゃつまらないから見世物になって、死ぬだけよ?」
みさとの言っていた事を悪く言いたくは無いのだけれど...主人公って皆こんなぶっ飛んでるのかしら...。
「へぇ...わたくし、強いわよ?」
「くっくく...無理...やめてよ...。この期に及んで...テンプレって感じ...ぷっ!」
て、てんぷら?いえ、テンプレート?かしら。
「そ~れ~に~、人質...忘れてません?」
「...っ!」
騎士が剣を抜いて父上と母上の首に当てる。
けれど...わたくしには...。
「わたくしには、関係ないわ。ここに来たのだって、二人の事が無くても来ていたわ。それに今は非常事態。それこそ人質が心配で足踏みする程度で...未来の王妃は勤まらないのよ」
「あっは!クソ生意気~...立場分かってんの?」
「ええ、殿下の婚約者ですわ。それと貴方は只の男爵令嬢。話にならないわ」
殿下の顔は...見れない...きっともうわたくしを見てはいないから。
「......あ~...ま~じでなんも知らないのか。あのモブから聞いてないの?なんつったかな...ああ、聖女聖女。
私が主人公って聞いてないの?」
先程から口調が完全に変わってますわ...。こちらが素...随分うっすい化けの皮だこと。
それにこれだけ話しているのに、誰も口を挟まない...誰も彼も黙って私達を見ているだけ...殿下も...。
「その主人公とやらはこの短期間でこれだけの支持者を集められるのね。感心するわ」
「でっしょ~??これマジで便利でさ!スキルなの、ユニークスキル。貴方たちが崇める魔術じゃない私だけの...私だけが扱える特別な力なの。
教えてあげる。主人公は皆に愛されて、敬われて、チヤホヤされる...それが主人公。私って訳。
け~ど~...やっぱり甘いだけど飽きちゃうじゃん?だから、たまには敢えて違う味もちょっと欲しいって訳。
そこでエレオノーラだったの。プライドと地位だけの女。いつまでも殿下に引っ付く迷惑な害虫。
主人公の邪魔をしてくる、あ・て・う・ま♪
いいアクセントだと思わない?」
痛い所突くじゃない...。ほんと気に食わない。貴方に言われなくても...分かっているわ。
それでも好きなんだもの...だから努力出来た。
みさとのお陰で...素直にはなれなかったけど、全部は間違えなかった。
「......ここまで大々的に立ち回らないと上手くできないのかしら?主人公って言うのは」
「は?貴方のせいでこっちがどんだけ面倒だったか...わかんねーかなー。
大人しく殿下に嫌われていれば楽だったのに。訳分かんねー立ち回りしてたのはそっちでしょ」
え、殿下はわたくしの事を少なくとも嫌っていなかったの?...うれしい...。
ああ、まずいわ。にやけてしまいそう...、こんな時なのに...。
「まあ、いいや。ここでパパっとフラグ回収しておしまいにしちゃおう。ね?エレオノーラ様もそっちの方がいいでしょ?
そうだ!大人しく言う事を聞いてくれればご両親と~...あのモブの命だけは助けてあげるよ。ね?どう?
断ったら身ぐるみ剥がして街中引き摺り回して~か~ら~の~...う~ん、晒し首的な?あっは!」
どんな大罪人よ...とても悪趣味だわ。
「ええ、いいわ。でも一つ教えて欲しいわ」
「え?な~に~?」
「貴方の力はとても素晴らしいと思うわ。素直に強力だと思うし、これだけアウェイだと反抗も出来ないわ。けれど、流石に貴方一人では難しいのではなくて?
スキル?とやらも無条件に適応できるなら、もっと...貴方らしくできたのだと思うの...違う?」
さあ、教えて。わたくしに...、本当の敵を...。
「......あ~...まあ、そうなんだよね~。けどな~ど~しよっかな~」
ソフィアが楽しそうに悩んでいる中、両親の顔を初めて見る。
二人は必死に私に目だけで訴えかけてくる。
逃げてって。
ダメじゃない...貴族よ。わたくしたちは。やるべきこと、分かってるでしょ?
「いいよ!だって、流石に~可哀そうだし。ぷっ!」
「あら、お礼を言わなければいけないわね。ありがとう」
「ねえ、そう言うことだからさ~こっちきてよ。
ヴィクターさん」
王弟、ヴィクター・ド・サンチェス...まあ、妥当ね。
「貴様...勝手にまた進めおって...。なぜとっとと予定通り事を進められんのだ。くだらん、早く捕らえてしまえばよい物を」
「だって、可哀そうじゃん。最後くらい引き立て役くらい役目をあげないとさ~」
そう言ってソフィアの近くまで歩いてきたヴィクター...。これで...。
「あら、ヴィクターおじ様。意外ですわ」
「抜かせ...、シルヴァの小娘が。お主の貴族らしからぬ振る舞いには前から辟易しとったわ。
やれ、民の為だの国防の為だと言って卑しい者にまで金と時間を使って...まったく勿体ない」
冷たい目をしたヴィクターからこれまで聞いたことも無いような暴言が飛び出てくる。
「あら?貴族の義務を御存じでないのかしら?」
「はぁ...貴族の血は優れていなければならない。それは劣っている者たちの上に立つために必要な要素だからだ。
そして相応の振る舞いも必要だ。その逆、劣った者たちには相応の対応が妥当なのだ。
それを今回、分かっておらぬ兄上...愚王とその臣下にこうして教育しなおしてやったのだ。
まあ兄上には退いてもらい、わたしが新たな王になりこの国を導く。
強い国にな...丁度聖女もおる。手間が省けた。
あれを使って強い軍隊を作り領土を広げる...。分からぬか?この素晴らしさが」
イカれているわ。自分になぜ王位継承権が無かったか、突然自己紹介し始めるなんて...。
「この国は魔術を管理する国ですわ。その意義、意味、理解していて?」
「お主こそ、それ程の才が有りながら...。何故わからん?これだけの力を持つ国なのに、なぜ小国に収まっているのか。
勿体ないにも程がある」
「話なっが...もういいでしょ?ネタ晴らし~ヴィクターさんでした~ぱちぱち~。
はい、もうなんか小難しいのはいいから、ほら、手早く捕まっちゃって~」
聞くに堪えない...ここまでね、いいわ...始めましょう。
「ソフィアにヴィクターおじ様?知っていて?力は誰かを傷つける為にあるのではなくてよ?
誰かを守るためにあるもので、振るうと自分も傷つくの...。
とても痛く、代償が伴う...。
だから、振るうには覚悟が必要...。
それを、わかって......いらして!!!」
魔術を展開する。
足を開いて重心を安定させる。
創造するのは...光の刃。
魔剣士は己の武器に魔術を付与したりするが、得物が無くても熟練の魔術師なれば自分の魔力のみで空を駆ける刃を作れる。
エレオノーラの刃は対魔術師専用、彼女の知りえるあらゆる防御術式を打ち破り、刃を対象に突き立てる。
物質的な質量を持たない刃の飛翔速度は、常人にはまるで光が駆けているように見えるだろう。
これだけ高度で実戦的な魔術、並みの人間には避けられないし払いのけることなど不可能だ。
エレオノーラの秘策は単純だった。
ただ、黒幕を殺める。
旗印を失えば精神を蝕まれた貴族も、騎士も烏合の衆だ。
術者を失えば...スキルの影響も無くなるかもしれない。
どちらにしろ、戦争...内戦になって多くの民や貴族の命を無為にするわけにはいかない...。
もしかしたら傀儡と化した殿下やフィリップが刃から二人を庇うかもしれない...。
それでも...
念入りに規格外の天才魔術師エレオノーラは二本ではなく、何十本も瞬時に展開して的確に二人だけ...ソフィアとヴィクターに刃を飛翔させる。
避けようがない光の刃は邪魔はどうあれ、二人の身体を引き裂いた。
筈だった...。
「あっは!だから、主人公は悪役令嬢には負けないの。主人公補正ってやつ?残念♪」
「え?」
光の刃が...形を維持できず崩れ落ちていく。
「な、な...んで」
術式は完璧だったはず。このホールごと瞬時に破壊できるエレオノーラが幾ら高度な術式と言えど...。
「だって、私の周りでは私の許可した人間しか魔術を使えないの!これ超便利でコスパ最強なんだよね~。
二つ目のユニークスキル的な?
だからさ~...幾ら魔術が得意でも、ね~?」
「だったら!!!」
扇子に仕込んだ仕込みナイフを構えて目一杯走る。
狙うはソフィア一人。
ああ、なんて不利な賭けですわ...。
けれど呆気なく、控えていた騎士に横腹を蹴りあげられて吹き飛ぶエレオノーラ。
どれくらい飛んだだろうか...。
何度も床を跳ねながら転がっていく。
「え、こっわ...。ガチすぎ。つか、許可してないのに一瞬魔術発動してるの焦ったわ~
あんたの所為でシナリオで使うはずだったこの無効化スキルも出番がなくてさ。
何勝手に私の好感度アップイベント解決してんの?ほんと、迷惑」
ああ、やってしまいましたわ...。
「もうよい。心変わりでもすれば使い道もあったが...。ここで殺してしまえ。どうせ適当に罪をでっちあげる予定であったのだ。もう、よいじゃろ」
う、動けませんわ...。
「え?いいの?なんか適当に子供を生ませて~とかえぐい事言ってたじゃん」
「ゴホッ!オォ...」
咳が蹴られた所にキマすわね...。けど...立たないと...。
「聖女がおる。もしかしたら遺伝するかもしれんしな」
このままじゃみさとも、領民も...殿下も...。
「あ~...あのモブ?なるなる...。
ねえ、騎士さん達や。さっきのバビュ!ってやつ出来る?
え?無理なん?じゃあ何でもいいや...なんか飛ばしてサッさとやっちゃって」
ああ、指一本動かせませんわ...。
殿下...。殿下...。
「で、ん”かぁ...はぁ...はぁ......キャス...」
カスパール殿下に...一度愛称で呼んでみて欲しいなんて言われたことがあった。
『第一王子が愛称で呼ばれてると知れれば威厳が損なわれます』
なんて言ってしまったっけ...?本当にバカだなぁ...。
でも本当は呼んでみたかった。
カスパールだから、キャス。一人の時に声に出して呼んでみたり...。
ああ...本当に...。
「キャス...」
殿下は上を少し見上げて目も合わせてくれない...。
ああ、今日初めてお顔を見たかもしれないわ...。
最後くらい...こちらを...。
「キャ、す」
視界の端で魔術師兼騎士達による攻撃が飛んでくるのが見えた。
エレオノーラ視点って結構書きやすいんですよね。
次回、秘密です。
次回もお楽しみに!
続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。




