12.招待状
「みさとの方は大丈夫なんでしょうね?」
「はい、姉さんから定期連絡を貰っています。火の粉は降りかかる前に払えているそうです。
もうじきシルヴァ領へと発つとの事です」
魔術で周り一帯を氷漬けにして襲撃者を退けたエレオノーラがイライラした様子でイルマに問う。
「アルマが付いていれば抱えて逃げれるから大丈夫だろうけど...ね。矛先は完全にこちらのようね」
ここ数日投獄されている両親のいないシルヴァ邸では普通に毒入りの食事は出てくるわ、やたら襲撃されるわでうんざりだ。
無駄に手練れであるのも腹立たしい。
魔術院の主要施設をセファロと引きこもりの”普通の天才魔術師達”に籠城させて正解だった。
本当に...最悪は...みさとを国外に逃がす。
シルヴァとソフィア共との戦争になれば無事では済むまい。
その前に...。
「エレオノーラ様、やはり精神に作用する何らかの力のようです。
あの女の魔力を帯びています。しかし、魔術の痕跡が無いので...魔力を使った魔術以外の力としか...」
わたくしはこれでも宮廷魔術師、魔術の事なら直ぐに解明出来る自信があった...だけどこれは...。
「まるでこの世界の理から外れているわね。全く遺憾で認めがたいけれど、聖女の力に似ているわ。
はぁ~~~、イライラするわ。」
首を掴んで地面に叩きつけていた襲撃者を解放してため息をつく。
フィリップ様にぼそっとゴリラって言われたことがあったけど、今度同じ目に合わせてやろうかしら。
「一旦、姿を消すわよ。疲れたわ」
色々探っている間、時間の経過とともにこうしてちょっかいを掛けられると身体より精神が疲れる。
そして余計なことを考えてしまう...。
「そんなんだと、殿下?に嫌われちゃうよ?」
そんな訳ない。わたくしは公爵令嬢、シルヴァの姫だ。偉いんだもの。
「けど、他の候補者に嫌がらせして、それを黙っているんでしょ?」
当たり前よ、殿下はわたくしの婚約者...になるはず。それなのに...。
「ちゃんとごめんなさいはしたの?」
し、してない!する必要ないわ!だって!
「悪いことをしたら謝らないと。そんなことも教わらなかったの?」
うるさい!うるさい!わたくしは公爵令嬢!そんなのわたくしの気に入らない事をする方がいけないのだわ!それにみんなわたくしのやることに何も言わないわ!
お父様も!お母様も!周りの令嬢も!なにも!
わたくしは愛されて!愛されるべきなのよ!
「違う。悪いことをしたら謝る。友達が間違っていたらきちんと言ってあげる。家族なら尚更。貴方はのそれは愛されてるんじゃない。
ただ、甘やかされているだけ」
なによ!羨ましいんでしょ!?妬みだわ!
「そうかもしれない。けど、私にも間違ってるって言ってくれる人は...いたよ?
確かにその時は愛されてた...と思う。
けど、このままじゃ本当に皆から嫌われて。一人になっちゃうよ?」
うるさい...。
「エレオノーラ、今日も綺麗だね」
「まあ、それなりにお金も時間も掛けていますから」
この前隣国のお姫様にも同じ事を言ってた癖に...。けど...まあ、うれしい。
「エレオノーラ、どうかな?このオペラ、隣国でとてもいい評価を貰っていたんだ。一緒にどうだい?」
「態々劇場へ?まあ、仕方ないですわ。民に顔を晒すのも為政者なら...ご一緒しますわ」
偶にはお茶会だけでなく、民に一緒にいる所を見せないと不仲だって思われるから...。けど、うれしい。
「エレオノーラ、今度の舞踏会にはドレスを送らせてほしい。どうだろうか?」
「色はこちらで指定しても?わたくしに似合わない色合いだと、シルヴァの名に泥が付きますわ」
殿下の色を纏っていると愛されているかも知れないって思える...。うれしい。
本当に可愛くない。
みさとも殿下もきっと呆れてる。
フィリップ様なんてため息を隠そうともしない。
ソフィアの不思議な力が無くても殿下の心が...わたくしから離れるのは理解できる。
けど、ここ最近情報収集の為に遠くから遠視魔術で殿下を何度か探した。
ソフィアの腰に手を添えて微笑む殿下を見たとき...ああ、やっぱりなんて...
分かってる。
ソフィア...あの小娘の不思議な力の所為だって。けど...
わたくしは可愛くないから...。形は違っても、来ると気が来てしまった...って。
ああ、もっと早くみさとの言う通り素直に...。
「お嬢様!起きてください。申し訳ありませんが、至急確認していただきたいことが」
隠れ家...転移阻止機能が働いている魔術院の隠し部屋。
そこで休んでいたわたくしはイルマに起こされる。
「......やめなさい」
「いえ、少し汚れが付いております。目に入ってしまったら大変でございます」
そう言って”涙”を拭ってくれるイルマ。
泣いてない。泣いている場合ではない。だから、わたくしは”泣いてない”。
「お嬢様、議会が数日中に...開かれるそうです。前日に舞踏会が。そして、こちらを」
「...へえ。だから生かしてたってわけなのね」
参加者リストには両親、シルヴァ夫妻の名前があった。
誘われているって訳ね。
両親は人質、そしてわたくしを舞踏会...みさとの言っていた断罪イベントに誘き出す餌。
既にソフィアの影響を逃れたまともな貴族はシルヴァ領へ兵を集結させている。
わたくしが転移して一人一人説得した。
拒否した貴族も勿論いたが、忠誠深いまともな貴族は徹底抗戦の姿勢だ。まだ、王は健在だ。我々は戦うと。
このままでは本当に戦争になる。
新たな王になる人物はそれらを一掃するつもりだ。
魔術院とシルヴァとまともな貴族達を敵に回して無事では済まない...こちらもあちらも。
「イルマ、みさとの元へ行きなさい。以後、最優先をみさとに置いて行動しなさい」
「......」
「イルマ、返事をしなさい」
「......承知できません」
イライラする。
「誰のお陰で今生きていると思っているの?命令を聞きなさい。もう一度命じるわ。
みさとの元へ行きなさい」
イルマの首に手を当てて命じる。
いつでも、瞬きも出来ない一瞬で息の根を止められる。
「...いいえ、出来ません」
イライラする。
「みさと様には姉さんが付いています。なれば、エレオノーラ様を守るのはこのイルマの役目です。二人分、きっちり使命を全うさせて頂きます」
「だから、それは...」
「私は...お嬢様の為に生きています。お嬢様は幸せになりなさいと言ってくださいますが...私の幸せはお嬢様の傍で、お嬢様の幸せを見ることでございます。そして守ることにございます。
どうか、最後まで...。
そして私が要らぬのなれば...そうかその御手で、今、終わらせてください」
幸せになりなさい...確か、『幸せになって一生わたくしに感謝して生きていきなさい!お~ほっほ!』だったはず...。
本当に...イライラする。
「...本当に懐いちゃって......バカで哀れね。いいわ、精々傍にいて後悔しなさい」
「はい、後悔はしませんが、御傍に」
戦争を回避する方法は......ある。
全て丸く収める方法が、この数日情報を集めた結果である。
全て終わった後、セファロ率いる魔術院のお陰で立て直す時間はギリギリあるはず。
主要となるであろう人物も兵たちと一緒にシルヴァに集めた。
やってやるわ。
みさとも殿下もついでにフィリップ様にもこれ以上、手を出させない。
結局、わたくしは最後までみさとの言う悪役令嬢だ。
その断罪イベントとやら、最後まで醜く足搔いてやろう...なのだわ!
イルマとアルマの話を書きたい。
延々とタイミングが伸びる伸びる。
次回、ついに断罪イベント。イルマとエレオノーラは一体...。
次回もお楽しみに!
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