9.主人公
エレオノーラはよく薔薇と称される。
本人が好んで深みのある赤、真紅のドレスを好み、華のある美しいブロンドの髪と恐ろしく整った美貌からくる比喩であった。
「こうして着飾ると...本当に綺麗だね、エレオノーラ」
「ま、まあ!流石わたくしといったところでしょうね!」
私は...結婚式でもないのに白を基調としたスレンダーラインのシンプルなドレスを着ている。
エレオノーラとアルマ、イルマ、イースらによる厳選の末に選ばれた一着である。
着るだけで疲れた。
お茶会の会場はとある侯爵家の屋敷で開催の表向きの理由は、デビュタントを控える娘の親交関係を広げたい令嬢の母親主催によるものだった。
つまり、その令嬢にさえおかしなことをしなければ、派閥関係なく誰でも参加しやすいありきたりな茶会らしい。
令嬢の両親が中立派である為令嬢からこちらに引き入れたいなど理由もある。
裏の目的は情報交換である。
雑多な参加者から様々な噂を収集する。貴族社会は基本的に男性が動かしているのだが、それをサポートするのは女性たちによる印象操作や情報のやり取りだ。
たまたまうっかりどこかの家のスキャンダルが流れたり、たまたまうっかり美味しい儲け話があったり、たまたまうっかりありもしない誰かを陥れるような噂が流れたりする。
情報の真意より、誰がどこからどれくらいその噂を流しているかで力関係や影響力が計れるらしい。
貴族にとって醜聞の拡大阻止や周りからの印象等は守らなくてはならない大事な要素であることから、これらが割とバカにできない重要な仕事であると私でも理解できた。
「とりあえずちょっと挨拶して、あとは適当に話を合わせていればいいわ。情報収集はわたくしがやりますし、今日の参加者にビッグネームはそれ程居ませんわ」
馬車の中でそんな話をしていたのだが...
「ようこそおいでくださいました、エレオノーラ様。こちら娘の...」
主催の夫人に紹介された令嬢より明らかに目立っている...と言うより異常に人を集めている令嬢がいた。
挨拶もそこそこに始まった茶会では最早どちらが主催か分からない。
エレオノーラも口数少なく静観...いや、固まっている。
その令嬢は小柄な体躯に栗色の髪、庇護欲を誘うウサギのような愛らしい男爵家の令嬢だった。
周りには高位貴族の令嬢を侍らせて明らかに目立っている。
フリフリのレースをふんだんに使ったピンクのドレスはその風貌によく似合っていた。
しかし、今日の主役はあくまでも主催の令嬢のはずだ。
侯爵家の令嬢である彼女より男爵家の令嬢が目立っているのはおかしい。
「みさと、絶対わたくしから離れてはだめよ。これはおかしいわ...それに、あの令嬢...」
目立つ男爵令嬢を牽制しない夫人も令嬢もおかしいし、さも当たり前かの様に振る舞う周りも本人もおかしいらしい。
「あら、これは初めまして御目に掛かりますエレオノーラ様。わたしく、シャンポール男爵家のソフィア・ド・シャンポールと申します。」
「......」
エレオノーラの顔がものすごく怪訝な顔に変わる。
「???どうかなさいましたか?エレオノーラ様?」
顔をコテンっと斜めに傾けてこちらをみるソフィアは愛玩動物のようであった。
「...公爵家のわたくしに、男爵家のあなたが主催の仲介なく声を掛けるのかしら?不思議ね」
「あら、わたくしったら...申し訳ありません。つい、エレオノーラ様をお見かけして舞い上がってしまいましたわ。お許しください」
そう微笑みながら告げるソフィアに反省の色はない。
流石に私にも理解できた。これはおかしい。
普通爵位が上...しかも男爵と公爵の隔たりがあるにもかかわらず声を掛けるのも、それに対して形だけ謝って笑っているのもおかしい。
それを諫めない周りも主催も...。
「てっきり、今日は例の聖女様に掛かりっきりで来られないかと...あら?そちらは?」
「...弁えなさい。貴方が気軽に声を掛けていい方ではないわ」
キレてる。お茶会開始早々エレオノーラがキレてる。
「という事は...あら!もしかして聖女様?あらあら、わたくしはなんて幸運なのかしら!初めまして、わたくしはソフィアと申します」
さっき注意された事を無視して私に話しかけるソフィアに正直ドン引きである。
「は、はぁ...よろしくお願いします」
「でも~...本当でしたのね...聖女様にエレオノーラ様が付きまとってるって噂」
「あ?」
「え?」
え?今なんていった?
「聖女様がこちらの世界に招かれてから、貴族たちへの顔見せすら一回だけですし...エレオノーラ様が聖女様を独占してるって...わたくし、聖女様が可哀そうで」
「......貴方、王家が聖女を保護してるって分かっていて発言しているのかしら?」
「え?怖いわ。そうやって婚約者のカスパール殿下まで巻き込んで...」
周りの令嬢もこちらがおかしいと言った目で見てくる。なんだ?このアウェイ感は...。
ここまでエレオノーラは令嬢たちに敵が多かったのだろうか?
けど、事前にここまでとは聞いていないし、エレオノーラも困惑している。
「噂になっておりましてよ?エレオノーラ様が魔術院の地位を利用して、カスパール殿下と聖女様を引き留めていると...やはり、真実でしたのね」
そう捲し立てて瞳を潤わせたソフィア。
周りからはソフィアを心配する声が上がる。
「この前の舞踏会でわたくしは殿下とお話したのです...お可哀そうに、殿下はエレオノーラ様に囚われておられる...。聖女様も本来は国をあげて歓迎し、象徴として民から賞賛を浴びるべきなのに...」
外見や仕草はまるで虐げられる私を心配する心優しい令嬢のよう...。しかし言動は明らかに狂言のようだしエレオノーラと敵対......敵対?
「......主人公...」
「...あらぁ~?ふふっ...あらあら...ふふふっ」
ソフィアは小動物のような愛らしい顔を歪めてこちらを見下して、嘲笑うような表情で耐える様に笑う。
その醜悪な笑顔は物語の主人公には到底似合わない表情であったが、誰も気にしないし、他の誰も私の言葉には反応しなかった。
「ルール違反ですわ、聖女様?けれど、もう手遅れ。カスパール殿下も、フィリップ様も皆みんな...クククッ...あっはッ!」
「今日は失礼するわ、ごきげんよう。みさと帰るわよ」
返事も待たずに私の手を取って歩き始めるエレオノーラ。
「あら、体調でも崩されましたか?ふふっ。これから、楽しみですわねぇ~エレオノーラ様?精々、お体にお気を付けくださいね?」
一体何がどうなっているんだ?
エレオノーラの顔には初めて見る焦りが浮かんでる。
私には悪役令嬢の断罪が始まろうとしているようにしか見えなかった。
完全に登場人物が暴走した...。
想定していた山場が想定より険しい山場になりそう。
次回、狭まる包囲網。
次回もお楽しみに...。
続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。




