6.新しい家族
「アルマ、本当にごめんね?本当は陛下の件は全然根に持ってないし、イースの教育だって私のためを思ってしてくれたんだよね?本当にごめんね?」
シルヴァ邸門前にて使用人が館の門を開けてる最中に私はアルマに詫びた。
「いえ.........大丈夫です...。みさと様はお優しいですね...」
心は満身創痍に見えるけど...。後でエレオノーラに内緒で一緒にケーキでも食べようね。
門が開いて、長くて広いアプローチ(※1)を抜けて遂にシルヴァ邸玄関前までやってきた。
※1.敷地の入り口から、建物の玄関までの通路
使用人がドアを開けて迎え入れてくれる。
左右にはメイドやフットマンが並んで頭を下げている。
「行くわよ、みさと。帰ったわ!!!母上!父上!」
自分の家だからかズンズン進んでいくエレオノーラの後をおっかなびっくり付いて行く。
「おかえり、エレオノーラ。聖女様、王城と比べれば些か華麗さに欠けるかと思いますがようこそいらっしゃいました。シルヴァ家当主、ピーター・ド・シルヴァです」
「...............妻の、レオニー・ド・シルヴァで御座います」
玄関?広間の中心でシルヴァ夫妻から改めて挨拶を貰う。
なんだろう...凄く夫人が見てくる...。ピーターさんも何だかソワソワしてるし...。
「高橋美里です。聖女ではなく、みさとと呼んでくれたら嬉しいです。私が原因でエレオノーラとご家族にご迷惑をお掛けするかと思いますが、今日ここに訪れることが出来て嬉しいです」
二人の様子がおかしいのはそうなのだが、本心から思っていることを素直に言葉にする。
「光栄です、みさと様...」
「......」
夫妻もメイドもフットマンも控えている執事も私もそのまま沈黙してしまった。
やっぱり、迷惑だったのかな...。エレオノーラとは元々声だけだけれど面識があった。
けど、夫妻は違う。
私は...。
「はぁぁぁ~~~...。わたくし、カカシに転職するつもりはなくてよ?皆さん。ほら、応接間に行くわよ。下ではなく、前を向きなさい!みさと。全く、世話がやけるったらありゃしない」
口調とは裏腹に優しく背中を叩いて促すエレオノーラに付いて行く私達。
「言う事があるのでしょう?母上、父上」
対面に夫妻、私の隣にエレオノーラが座って何やら話が始まる。
「...ああ、まずはお迎えするのが遅れてしまい申し訳ない。妻が体調を崩して...ええ、体調を崩していてお迎えできる状態になかったのです」
「そんな大変なタイミングだったのですね...。こちらこそ、お邪魔になってしまうかもしれませんね...お体は...」
大丈夫なのですか?とレオニー夫人に問いかけようとして言葉に詰まった。
私から目をそらさず見ているが目から涙を流して辛そうにしている。
私は慌てて駆け寄って夫人の両手を取り、癒しの力を使う。
「痛い所、苦しいところはどこですか?まず、横になりましょう。アルマ!手伝って!
夫人?今、全身に力を使っていますが、患部が分かればもっと効率的に......あれ?」
魔力が減らない...吸い取られるような、コップから水が流れていくような感覚がない...。
「本当にエレオノーラの言う通り...あんな環境で...なぜこうも優しいの...?」
先程とは逆に夫人が私の手を包んでそう呟く。
「わたし...ちっともエレオノーラも貴方の事も信じていなかった...。あれだけお世話になって...なんて恥知らずで...ごめんなさい。ずっと、ずっと謝りたかった」
どうしよう...意味が分からない...。怪我もしてないみたいだし...けど辛そうだ。
結局、私がレオニー夫人に肩を貸す形で隣に座り、エレオノーラの横にピーターさんが移動した。
夫人が喋れる状態じゃないのでピーターさんが説明してくれるようだった。
「少し、昔の話から始めさせてください...。エレオノーラがまだ六歳の頃でした...」
ピーターさん夫妻はエレオノーラが六歳の頃、それはそれは目に入れても痛くないほどエレオノーラを溺愛していた。
我が子可愛さに爵位まで使って望むものを与えて、すっかり溺愛していたという。
貴族同士の結婚であった夫妻は平凡ともいえる政略結婚であったが生活の中で交流を深め、珍しい事にお互い恋に落ちた。
しかし、第一子の赤子が生まれて間も無く亡くなってしまい、その影響もあってか第二子であるエレオノーラは異常なほど溺愛されていた。
そんなエレオノーラが六歳の時、不注意で転んで頭を打った影響で意識が数日戻らない期間があった。
数日で意識を取り戻したエレオノーラはこれまで通りクソガキムーブではあったものの、奇行が目立つようになったという。
そのなかで夫妻は〝みさと〟の存在を知る。エレオノーラが事あるごとにこの〝みさと〟と言うので、もしかしたら事故でエレオノーラがおかしくなってしまったのではと夫妻は心配したそうだ。
そんな姿の見えない架空の人物のアドバイス?によってエレオノーラは良い方向へ変化していった。
いつの間にか王子の関心を引き、段々と我儘が少なくなり、さぼりがちだった勉強に自ら進んで取り組むようになった。
これまで両親に叱られたことのないエレオノーラが夫妻に「わたくしが悪いことをしようとしたときに...叱ってくれないのは...本当は愛してくれていないからなの?」なんて言われた日には夫妻は天地がひっくり返るほど慌てたという。
一体どこのどいつがそんなことを!と徹底的に洗い出した。しかし犯人はやはり〝みさと〟であった。
夫妻はエレオノーラを愛していた。だけれど叱らない事、厳しくしない事が愛している証明ではない。
夫妻はその時初めてそれを理解したような気がした。
その後、アルマとイルマが従者となるとある事件が引き金となり、姿の見えない幻影〝みさと〟はエレオノーラを正しい道へ...自分たち両親がするべきだったことを代行してくれたのだと思った。
エレオノーラが自分自身で作り出した幻影〝みさと〟によって強大な魔術師、王太子の婚約者になったエレオノーラは夫妻にとって自慢の娘になった。
そんなある日、夫妻が隣の公国へ条約を締結しに赴いている時事件が起こった。
“王太子殿下とその婚約者エレオノーラ・ド・シルヴァ嬢に謀反の疑い有り”
同時に、「シルヴァ夫妻。これは誤報であり、既にこちらで犯人捕縛の道筋は立っている。心配はない」と殿下から魔通話を貰った。
夫妻は慌てて仕事を終わらせて帰国、その日に謁見の間で〝みさと〟を見た。
今までエレオノーラが言っていた〝みさと〟はそこにいた。
〝みさと〟はエレオノーラの幻影ではなく、実在した...。
そして自分たちが国を離れている間にエレオノーラが王太子と一緒に聖女であるみさとを助けるべく動いていたと陛下から聞かされた。
自分たちは存在すら信じてあげられなかったうえに、異世界に来たばかりで大変な時に助けになってあげられなかった事に対してとても恥じていたという。
納得がいった。初対面の時、とても気まずそうな表情で私を見ていた夫妻の表情を思いだす。
それだけでなく、不思議なことが立て続けに起こったという。
夢を見るのだと言う。
私と初めてあった日から夫人とピーターさんは毎晩決まった時間に電池が切れたかのように同時に眠りにつくようになってしまった。
そして夢の中で黒髪で幼い子が事故に遭い、家族と居場所を無くし、周りから疎まれ、自由なく過ごす姿を目覚めるまで見続けるのだそうだ。
その夢に出てくる少女は段々と大きく成長し...
つまり、私のこれまでの半生を夫妻は夢を通じて見たそうだ。
この一カ月、その様な状態が続いて夫人はすっかり参ってしまい、ピーターも手をやいていたそうだ。
「御不快では...ありませんでしたか?」
夢で何故私が?なんて疑問もあったけど...つい、そんな質問をしてしまう。
「不愉快でしたわ」
今まで黙っていたレオニー夫人が答える。
「とても不快でしたわ...みさと様の周りの大人が...形が違っても、本質を見てない昔の私達を見ているようで...。
それに手を差し伸べないどころか...搾取するなんて許せませんわ」
今度は私の頭を抱きかかえて夫人は胸元へ持っていく。
「よく頑張りました。このレオニー・ド・シルヴァが貴方の新しい家族ですわ。夫もエレオノーラもこの家の者はあなたの味方です。
よく頑張りました...。本当に...」
エレオノーラは鼻を鳴らしながら真上を見てジッとしている。涙の我慢の仕方がまるで小学生みたい...。
ピーターさんは説明が終わって何だかちょっと安心したのか、優しく微笑んでる。
エレオノーラに抱きしめられるのとはまた違って、なんだか落ち着く。
力が抜けていくと言うか...。安心する。
信じていいのかな?二回も失敗しちゃったからな~...。
ああ、良い匂い...。
「もう少し...このまま...」
「ええ、どうぞ幾らでも」
疑問も戸惑いもあるし、不安も無くなったわけじゃない。
けど、私に新しい家族が出来た。
嬉しいなぁ...。
思ったより長くなりました。
目標文字数に収められるのかもう皆目見当が付きません。
個人的に立てている只の目安なのできっちり守る必要な無いのですが...。
次回は第三章のメインを進めたい...とは思っているんですけどね。
次回もお楽しみに!
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