15.女神かと思ったら愛らしいリスだった
ローエンベルク王国現王、ロバート・ド・ローエンベルクは静かにカスパール殿下の説明を聞いていた。
元宰相、現相談役兼お忍びで庭師のヘンリー・ド・ランギエールは...
「この!大バカ息子が!殿下とエレオノーラ嬢を補佐するのがお前の役目ではあるが、陛下に秘密で聖女を招くなど!」
盛大にキレ散らかしていた。
「申し訳ありません、ヘンリーおじさま。殿下もフィリップ様もわたくしのわがままで...」
「まあまあ、ヘンリー。落ち着くのじゃ」
キレ散らかすヘンリーを横目に宰相のルシウスと陛下に”釣り”の計画を説明する。
結局詳しい話は後日にという事になり、私たちは聖女に現状を説明する為に集まった。
一夜明けて顔を合わせた彼女は、清廉さに儚い雰囲気を合わせ持った可憐な人であった。
エレオノーラ嬢と並ぶと薔薇と白百合の花が並んでいるような...綺麗の方向性が違うというか...。
彼女の聖女の力は非常に優れたものだった。
アルマの手入れによって艶を若干取り戻した美しい黒髪は、幻想的な白い輝きを帯びて周りには初雪のような魔力の残滓が降り注いでいる。
瞳も白く輝いていてアレに見つめられてしまっては、嘘偽りなく問われた事に答えてしまいそうだ。
魔力の保有量と出力が多くて”変化”したことも、教えてもないのにいきなり魔術を行使した事にも驚いた。
人ではない雰囲気すら感じさせる神秘的な様相なのに、私を顔を不思議そうに見てから首をかしげるようにして、私の名前を呼んだ時は胸掴まれたようだった。
エレオノーラ嬢が彼女に元の世界には戻れないと告げても、何も変わらなかった。
なんならエレオノーラ嬢を気遣ってすらいた。重荷を降ろさせるように、背負いこんでいるものを置かせるように...。
敬虔な信徒に教えを説く聖職者の様に、エレオノーラ嬢には見えたのかもしれない。
それから私達に対しても敬語や敬称は不要だと言うのに甘えて、みさと様と呼ばせていただくことになった。
聖女であると確定して、陛下はある条件を出した。
「ワシらが直接人柄を見る、まあ方法はこちらで考える。離宮におるのじゃ、方法はごまんとある。
手に負えない悪女であったりしたら、最悪”自意識”を無くしてもらわねばならん。
持っている力が危険だからな。
カスパールとお主等は”釣り”の準備を怠るな。別に大物を引こうとせんでいい、しかし聖女の立場は最低でも守らねばならん。
正直、お主等がここまで入れ込んでいるのだから大丈夫だと思っておるが...だから、そんな怖い顔をしないでおくれ、エレオノーラよ」
聖女に接触しようとしてくる時に動き出す貴族派閥の全体図を釣り上げる計画。
陛下が乗ってくれなかったらと思うと冷や汗が滲み出る。
「あ!フィリップさん!こんにちは!いいお天気ですね。気分転換なされに来たのですか?いいところに来ましたね!実はこのプロメニフィーアを植えている所なのです!」
普段は殿下の”影”、護衛兼スパイ工作を請け負う者達に任せているみさと様の護衛を私に命じた殿下の顔は、いつもよりニコニコしていた。
鉢植えを大事そうに抱える姿は...メイド服だった。
奥には陛下と私と目を合わせないようにするアルマ、そして父上...。
離宮で庭師に交じりここを整えるのは二人の趣味である。
宰相を引退して相談役となった父上はそれはそれは楽しそうにしていた。
なんだこの緊張する空間は...。
「プロメニフィーア...」
「知ってるんですねフィリップさん!凄いです!」
キラキラしたリスを思わせるくりくりした目で私を見上げてくるみさと様はとても愛らしかった。
すこし頬に土を付けているのすら愛らしい。汗と一緒に拭って差し上げなければ...。
私はほぼ毎日のようにみさと様のメイド業を手伝った。執務?ああ、殿下は優秀ですから大丈夫です。
「フィリップさん!見てください!芽です!芽!これはまだ鉢植え組ですが、あちらに植える予定の子なんです!」
「フィリップさん!今日はアルマが飴をくれたんです!どうぞ!」
「フィリップさん!こっちです!こっち!ロバートさん力作のツタのアーチが!」
一目見たときは女神のような触れ難い印象だったのに、今ではみさと様から私の手を取って歩いている。
小さい歩幅に土汚れを気にしない活発さに、落ち着いた外見に弾けるような笑顔。
私はすっかり心を奪われていた。
一緒にいると落ち着く...安らぐと言うのだろうか。思わず聖女の力かと思って文献を漁ったが、そう言った事例は確認できなかった。
こうして陛下や父上とみさと様と作業していたら、陛下や父上までみさと様に気を使い始めた。
アルマが湯あみのタイミングでみさと様の身体に青あざが多数あるのを発見し報告した際は、エレオノーラ嬢と陛下、父上の激昂を収めるのにかなり苦労した。
父上に関しては陛下に働いた失態も合わせて、騎士である私にみさと様を守るのだ!なんて言ってきた。
陛下もエレオノーラ嬢とアルマ、みさと本人から身の上話を聞いてから妙に過保護気味だ。
始めは人柄を見るために秘密裏に接触したのに、今はもう友人のように接しているから不思議だ。
そんな毎日を送りながら”釣り”の準備をしていると、望んでいない餌が釣り針に引っかかってしまった。
バックス伯爵は貴族派閥ではあったものの中心人物と言う訳ではなく、恐らく今回は聖女を理由に少しでもこちらの勢いを削いでおきたい誰かによって差し向けられた。
偶然釣り針を飲み込んだバックス伯爵はトカゲのしっぽ切りにされたと言う訳だ。
バックス伯爵から糸口を少し掴むことが出来たが”釣り”は引き続き続行。
私自身も今回の出来事でみさと様への気持ちを少し見直さなければならない...。
けれど何より、みさと様にはただ健やかに日々を過ごしていただきたい、そう願わずにはいられない。
一旦フィリップ視点は今回で終わりです。
実はかなりカットしてしまいました。長すぎたので。
なのでもしかしたら物足りないか、もしくは「これはどういうことなんだろう?」とか皆さんの中に疑問が残っているかもしれません。
執筆している側から気が付き辛い盲点ですね。
次回はアルマの話にするか、第3章はいるかで悩んでいます。
どちらになったかはTwitterか投稿されるまでわかりません...。お楽しみに!
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