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14.羽化した蝶は女神だった

「本当に一人でなさるのですか?そもそも一人で発動できる魔術なのですか?」


「はぁ...勿論、一人用ではありませんわ。魔術構築を並列処理して、出力も数人分単位に切り分ける必要はありますが...、まあ、わたくしなら出来ますわ」


お忍び...権力と嘘八丁で召喚の儀を行う場所までやってきて最後の確認を行った。


エレオノーラは緻密に書かれた魔法陣が幾重にも組み合わさって出来た巨大な魔法陣の中央へ歩き始める。


並列処理なんて聞いたことも無いし、普通出力できる魔術は一回に一個なはずだ。


「僕の婚約者は美しくて、凄いね」


「はあぁぁ......殿下、これが成功しても本番はこれからですからね...」


「始めるわ」


エレオノーラの纏う雰囲気が変わり、目立たなかった魔術師としての側面が漏れ出てくる。


金色の髪は光り輝いて黄金を纏う。


まるでピアノを弾くように、スローテンポのダンスのように手足を動かして次々と魔術を展開していく。


今まで見てきたエレオノーラ嬢の魔術と違うのは規模感と消費される魔力量だ。


戦争も無く、貴族の屋敷を潰すのだって”指先”でこなせてしまうエレオノーラ嬢。


過去に大雨で川が氾濫した時に、壊れてしまった堤防や川の流れを魔術で制御した事があった。


大地を盛り、削って被害を最小限にとどめた。記録的な災害になるはずだったが、死傷者も出ずに街も村も農地も家畜も守り切った。


その後の復興もエレオノーラ嬢の対応のおかげで一年以上早まった。


その時でさえも空を飛びながら両手を振り、高笑いしながら魔術を行使していた。


『お~~ほほほ!全く!わたくしがこの領内に雨で足止めされされていなかったらどうなっていたか!


一生わたくしに感謝しながら日々を生きることになりますわね!』


謝礼も受け取らず、

『濡れるのが嫌だっただけですわ!それにそんな少ない謝礼ではドレス一着すら買えないわ。


きちんとそのお金は復興に回しなさい。全く、なっていませんわ!』と逆切れしていた。


しかし今回は......莫大な魔力の消費に辛そうな顔をしている。


元々エレオノーラ嬢は異世界から師匠を呼び寄せるつもりだと聞いていた。


そのための魔術院であり、宮廷魔術師なのだと。


その師匠の身の上話も聞いていた。正確には、召喚する時に力添えすると言う殿下との交換条件だった。


エレオノーラ嬢の事だ、きっと誇張も入っているのだろう。しかし、助けたいと思うエレオノーラ嬢の気持ちには同意だった。


「ああ、なんと美しい。フィリップ、黄金の常世とはこのことだな」


魔法陣は白く、エレオノーラの魔力に呼応して空気は黄金に輝く。


今一度空間全体が光輝いて、段々と充満していた魔力が霧散していく。


エレオノーラ嬢の前方に光が集まって段々人の形を成していく。


段々と細かく形を変えた人型からひらひらと白い表面が剥がれ落ちていく。


それは、まるで羽化だった。


これまでの纏っていたものを脱ぎ捨てて飛び去る前の蝶のような...。


エレオノーラ嬢がその蝶がまるで飛んで逃げ去る前に、捕まえる様に抱きしめる。


その蝶はとても美しかった。


小さな口元に少し垂れ目な目元、大きく見開かれた瞳は夜を思わせる黒い宝石のようだった。


普段周りにいる令嬢と比べたら短い黒髪が瞳の色と合わさって清廉な雰囲気を感じさせる。


エレオノーラ嬢の頬に手を当てて愛おしそうに撫でる表情は女神のようで、これまで話したどんな令嬢にも抱かなかった感情が、胸に灯るのを感じた。


まさか女性を一目見て話した事もないのに、一人の女性の事で頭がいっぱいになる事など今までなかった。


これではまるで自分が彼女の外見を一目見て心を奪われてしまったみたいではないか...。


あり得ない。自分に限って...そんな...女性を一目見ただけでなんて...。


彼女を連れた殿下達を馬車まで案内する間も、あの女神のような優しげな表情が頭をちらついて離れない。


馬車の中で泣いて化粧を気にするエレオノーラ嬢を見て何とか正気を取り戻し、王城に先触れを出して人払いをしておく。


泣き腫らした顔などただ目立つだけだ。お忍びで訪問した他国の貴賓を招く要領で彼女を離宮まで送り届ける。


初めて言葉を交わしたのは彼女の為に用意した部屋の前で、何とか自己紹介を終えてアルマに後を任せる。


まだ、聖女と決まったわけではない。エレオノーラ嬢にとってはどうでもいい事なのだろうが、今後の事態収拾には非常に大きなポイントだ。


先触れと一緒に陛下にも報告を上げている。事後報告になってしまった事と今後の計画に関して説明しなければならない。


やることは山積みだ...考えなければならないことも多い。


けれど女神のような人だと思っていたら、遠慮がちに少し笑って『おつかれさまです?』なんて別れの挨拶をしてくれたのが嬉しい。


いままで女性に話しかけられても鬱陶しくて仕方なかったのに、彼女を一目見て、二言交わしただけで心が浮足立つなんて......はぁ...あり得ない...。


正直エレオノーラ嬢の師匠と言うからエレオノーラ嬢のような人が出てくるのだと思っていたのに...これでは違う意味でエレオノーラ嬢より厄介だ...。


次回は陛下周りとみさととの絡みを書いてそのあと第3章に入りたいと思っています。


ただ、正直アルマの話など挟みたい話は無限にあるんですよね...。


ネタだけが沢山あってどれを削る(後に回す)か考えるのも大変です。


続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。

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