6.子供の体力って無限大ってよく言うよね
「フィリップさ...フィリップ、じゃあ暫く側仕えをよろしくね」
「お任せください、お嬢様」
カスパール殿下とエレオノーラはさっさと降りてシスター達と何やら話してから、この孤児院...もとい教会の長らしい人と話があると言って行ってしまった。
取り残された私とフィリップさんは残ったシスターにお茶の用意があると言われ案内されている。
「この教会は孤児院を併設しておりまして、少々子供の声が大きいかとは思いますがご容赦ください」
前を歩くシスターにそう言われて私はふと通路から見える建物中央の庭を見やる。
ほんの十数メートル先で子供たちがキャッキャしながら遊んでいる。
笑顔の子、ぼーっとしている子、少し怒った子、何かを熱心に観察している子、色んな子がいる。
私がもし、親戚じゃなくて施設に入れられていたら私はどうなっていたんだろう。
幾度も考えて答えの出なかった疑問がまた浮かぶ。
私は暫く子供たちを見て足を止めていた。
フィリップさんは今は私の護衛なので私を急かすことはない。
シスターも私を貴族の御令嬢だと思っているので不興を買うかもしれないと思って同じく急かすことはない。
きっと子供たちも見慣れない女性がこちらをジッと見ているのに疑問を抱いたのだろう。
目が合う子供の数が増えていく。
子供の目には警戒心と困惑の色しか見えない。
それだけで貴族がこの子供たちにとってどういうものか、分からされた気がした。
きっとカスパール殿下やエレオノーラ、フィリップさんの様な貴族ばかりじゃない、きっと私の保護者だった人みたいに横暴だったかもしれない。
エレオノーラ達が念入りに準備をしてから私を公にさらすべきだと考えたのはきっとそういう理由からだ。
今日の予定は慰問訪問だ。
エレオノーラが一言二言年長の子供と話すので隣でそれを見るのだそうだ。
「ぁ、あの...」
私のお腹に硬くて平たい物が触れる。
「え?...あら...?」
「......?新しいしすたー?よんで欲しいの、おほん」
慌てた案内役のシスターが子供に手を伸ばすのが見える。
「申し訳ございません!この子はまだここに来たばかりで...」
私は本を受け取って表紙を見る。
〝桃太郎〟だった。
私は思わず声を上げて笑ってしまった。
馬車から覗く景色は石造りの建物が並ぶ美しい街並みだった。
このちぐはぐさで笑えるのはきっと...きっと私だけだ。
「みさと様?」
「フィリップ!見て!桃太郎よ!この世界に鬼はいるの?」
「鬼は...居ません。鬼のような怪力を魔術で再現して物理で殴ってくる魔術師は身近に居ますが」
突然ハイテンションに笑い出した私に困惑しているフィリップさん...と周りのシスターと子供たち。
「ねえ、お名前。なんていうのかな?私はみさとって言うの。お名前教えてくれたらお本、読んであげる」
エレオノーラもカスパール殿下も偉い人と話しているし、その間お茶を飲んでいるより子供たちと本でも読んでた方が有意義だろう。
別に聖女の力を使う訳じゃないし、傍にはフィリップさんも居る。問題ないだろう。
「い、イースっていいます」
「イース、いい名前ね!他のお友達も良かったら一緒に誘ってくれないかな?皆で読んだ方がおもしろい?...かも知れないから」
それから私はイースを含めた数人の子供に桃太郎を朗読した。
子供相手の朗読だ、対人スキルが最近ロバートさんやヘンリーさん、アルマと関わって少し上がった私の敵じゃない。
途中興が乗って犬や猿、桃太郎などの登場人物ごとに声をちょっと変えてみたら好評だった。
楽しそうにしているのを見て他の子供も傍に来て、桃太郎が終わったらこれを呼んで欲しいとリクエストまで貰った。
知らぬ間に意外な特技を身に着けていた気分だ。
ちなみに次の本は〝走れメロス〟の絵本だった。なんで?
あっという間に子供たちで私の周りは一杯になる。
点々と小さな花が咲く庭の中心で行われる朗読会に私と子供たちは夢中になった。
何冊か読み終わってから私は先ほどまで身体を動かしていた子供に質問した。
「普段は皆ここで遊んでいるの?ここは広いから色んな遊びが出来そうね」
「うん!鬼ごっことかしてるんだ!けど、女子は足が遅くて捕まえられないからつまんないって言うんだ!」
「だって!それは鬼が楽したいから女の子ばっかり狙うからでしょ!」
あらら、子供同士の遊戯って結構平等じゃないと楽しくないんだよね~。
「ふふふ...お姉さん、男の子も女の子も楽しめて身体を動かす遊び知ってるんだけど、喧嘩を辞めたら教えてあげる!」
子供は現金なもので私の説明する〝ケイドロ〟と〝缶蹴り〟のルールに耳を傾ける。
まあ、多少誇張したけど......例えば捕まった女の子を同じチームの男子が助けたらかっこいいよね~とか。
女の子はおとり役にもなれるし小さな体を活かして隠密行動も出来るとか、ルールを少し変えてあげれば皆で楽しめるってところを実際に皆で遊びながら教えていった。
「わ~る~い~こ~は~...いねが~~~い~~~た~~~イーーーースぅ~~~」
「キャーーー!!!」
イースを後ろから追いかけまわしたり...。
「いい?もう人数が少ないから、一か八か全員で行って缶を蹴るの。どう?」
「みさと姉ちゃんそれ三回目だよ...」
元気な男の子に呆れられたり。
「フィリップの兄ちゃんデカすぎてどこにいるのかすぐ分かるから同じチームヤダ!」
「フィリップ...残念だけど貴方はオフェンスは向いてないわ」
「...捕まえた泥棒の監視役をします」
巻き込んでしまったフィリップさんに好き勝手子供たちと言ったり、かなり混沌としていたが楽しい時間を過ごした。
「みさと姉ちゃん!もう一回やろうよ!」
「次はまたお本読むの!」
「ちょ、ちょっとタイム...疲れたわ。休憩させてみんな...」
そう言ってベンチに座って息を吐く。
子供たちはワーキャー言いながらチーム決めを行い始めた。
「子供の体力は無限大とはよく言ったものだわ...」
「はい、また新しく始めたようですよ」
フィリップさんも私の隣に腰掛ける。
さっきまで私と一緒に走り回っていた筈なのに汗一つかいてない。
失礼ながら汗腺が詰まってはいないだろうか?
「失礼ながら汗腺が詰まってはいないですか?全然汗かいてませんけど」
「魔術です、みさと様の傍に居るのに汗臭かったら嫌われてしまうかもしれないので」
「便利なんですね...元の世界にあったら、制汗剤の売れ行きが怪しくなりそうです」
疲れと酸欠気味の脳みそが残念過ぎる質問をフィリップさんに投げかけている。
あ~なんか忘れている気がする...。
ああ、エレオノーラとカスパール殿下は何してるんだろうか。
きょろきょろと周りを見渡して二人を探す。
「ああ、お二人なら先ほど慰問訪問が一息ついたら声をかけてほしいと言っていましたよ」
完全に忘れてた。
童心に帰ってかなり全力で遊んでいて忘れてた。
「...忘れてた...」
「ふふっ!でも子供たちに囲まれているみさと様はとても素敵でした」
少し笑みを浮かべた顔で私にそうささやくフィリップさん。
「そ、そうですか...そうですか...」
タジタジになってしまった私。
子供の体力に後半振り回されて酷い有様をみて素敵に見えたのか...。
「後でこちらに呼んだ馬車に寄付品を積んであります。教会前に止められなくて一つ路地を挟んだ向こうから運び込んでいます。
お二人はそこで指示を取っているかと」
私が遊んでる間ちゃんと慰問訪問らしいことをしていたエレオノーラとカスパール殿下、私は急いで身なりを簡単に整えると子供たちに声をかける。
「ちょっと一緒に来てた知り合いに声を掛けてくるね。みんなちゃんとシスターのいう事を聞くのよ」
元気のいい返事を背に私はエレオノーラ達の元へ速足で向かった。
「ほんっとーに申し訳ございません!!」
途中フィリップさんに道を教えてもらいながら向かうと搬入指示を出しているエレオノーラ達を見つけた。
「あら、みさと”お姉ちゃん”じゃない。待っていて、もうすぐ終わるわ」
「私、遊んでばっかりで...大変そうなこと丸投げでごめんね?」
「どう見てもあの”ケイドロ”と言ったかしら?あちらの方が疲れて大変そうに見えるわ。それに、とても聖女らしかったわ。とってもね」
今までの聖女も泥棒役の子供を陣地に軟禁したり、缶を蹴って子供たちとハイタッチをかまして居たというのか...?
いや、異世界人であるならばそれもあり得るのか。
そんな事を考えて居たら私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「みさとお姉ちゃ~ん!」
十字路の先でイースがこちらへ...
「っ!!!」
一瞬だった。
気が付いたときに時にはイースは宙を舞っていたし、馬の嘶く「ヒヒィーン」と甲高い声が聞こえた後だった。
イースが十字路を渡ろうとしたとき、すごい勢いで通過しようとした馬車に轢かれたのだ。
私は駆け出した。
ケイドロ、ドロケイ、地域によって呼び方もルールも違います。
ただ、私は"ドロケイ"が好きで小学生の頃は男女入り乱れて休み時間に遊んでいました。
缶蹴りも面白かった記憶があります。皆さんはどんな遊びを外でしていましたか?
次回、イース異世界転生する。嘘です。次回もお楽しみに!
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