4.フィリップさんとメイド業に勤しみます
「距離が・近く・なくて?」
そう言われてつい、手を離そうとするがフィリップさんに逆に手を引かれて握られる。
「明日、私が筋肉痛で苦しまないようにみさと嬢に癒して頂いていおりました。エレオノーラ嬢は魔術局でのご用事は終わったのですか?」
「問題なくてよ。そもそもわたくしはある程度魔術局が独自に動くように整えたつもりなのにあちらが頼ってくるのですわ...。
いつまで握っているのかしら、わたくしの番ですわ」
エレオノーラも魔術局で大きな魔術に魔力を補充する大事な仕事をしていると聞いている。
魔力を使い過ぎると倦怠感を感じたり、酷い時は眩暈や頭痛、意識を失ってしまうらしい。
きっと魔力を消費してエレオノーラも疲れているのだろう。
フィリップさんの手をそっと外してから腕を広げてエレオノーラに向き直る。
「エレオノーラも疲れた?楽になるなら聖女の力使えるけど...どうする?」
いわゆるハグだ。
エレオノーラは頬を膨らませながら素直に私に抱き着いて私の肩に顎を乗せる。
「.........どや顔するの辞めていただけますか?エレオノーラ嬢」
「くっくく...。フィリップ最大の敵は僕の婚約者のようだ」
「みさとぉ~。魔術局の職員達ったらすぐわたくしを頼るのだわ...。人気者は大変とはよく言ったものなのよ~みさとぉ~」
「はいはい、お疲れ様。きっとエレオノーラが頼りになるからよ」
それからしばらく私に抱き着いて動かないエレオノーラの背中をトントン叩きながら聖女の力を使っていると、カスパール殿下が私に話しかけてきた。
「みさと様、今日はメイドとして色々されていたみたいですね」
「にあってるわみさと(似合ってるわ、みさと)」
「は、はい。フィリップさんと...花植を...。今回はアルマとフィリップさんに迷惑をかけてしまいました」
本音を言うと部屋の掃除で私は満足する予定だった。
だけれど離宮で身動きが取れない生活は快適さより、ただ飯食らいとしての居心地の悪さの方が勝っていたようで、私は部屋の掃除だけでは止まらなかった。
一応他の案も考えてはみたのだ。私は前の聖女のしていた事なら私もしていいのではないかと思ったのだ。
特に病院や孤児院の慰問訪問などは聖女の力も役に立って一石二鳥だ。
しかし、何やら準備がまだ整っていないという事で私はこの離宮から出られず、許可が出なかった。
「フィリップは楽しんでいたようなので気にしなくていいですよ」
「次はわたくしが魔法で手伝いましょうか?」
「それはきっとロバートさんとヘンリーさんが許してくれないよ。職人さんだからきっと自分の手で手入れしたいはずだよ。ね、フィリップさん」
「......そうですね。心がこもるとも言いますし」
「みさとと話してフィリップ様の心も少し余裕が出来たみたいね」
「どういう意味ですか?」
「近いうちにみさと様には陛下、父上に拝謁していただこうかなと思ってるんだ」
お、もしかして離宮から出られるかもしれない?
「貴族への顔見せはまた別にして、二週間ほど待っていただくことになるかと思いますが、それまでアルマとメイド業して頂いて構いませんよ」
「...っ!」
アルマがカスパール殿下を見やって、イルマは口元に手を添えている。
「ありがとうございます!けど、アルマが嫌なら...」
「大丈夫よ、あれでみさとの傍は気に入ってるみたいだし。許可が出たならもうみさとを止めることもないわ。空いた時間があればいつも通りお茶でも飲みましょうね」
それから私の日常は朝起きてアルマと部屋の掃除を行い、アルマの知り合いのメイドさんや使用人にあいさつしながら庭園に向って、ロバートさんとヘンリーさんを手伝うというルーチンに落ち着いた。
担当する区域が違うらしく、ロバートさんとヘンリーさんが揃っている事は三日に一回あるかないかだったが、ヘンリーさんはほぼ毎日居たので手伝いをしながら花や離宮、王城に関して色々教えてもらった。
脚立を支えたり、掃き掃除をしたり剪定を教えてもらったり、今流行りの恋愛小説のお話をロバートさんから聞いたときは正直にイメージに合っていなかったため、ヘンリーさんと軽く茶化したりととっても有意義な時間を過ごした。
ロバートさんは「秘密じゃぞ!」なんて笑って奥さんと実は回し読みしていることまで教えてくれた。
夫婦仲がとっても良いみたい。
ヘンリーさんはお子さんが二人いるみたいで、既に成人していて立派に働いているらしい。
庭師にはならなかったみたいでそのことに関しては別にいいのだが、信頼していてもやっぱり家族が上手くやっていけてるか心配らしい。
そんな家族の話を聞いていたら私もつい口を滑らせて幼い頃の思い出をその場の人に話したりして打ち解けていった。
アルマの遠慮気味な態度は相変わらずだったけど、それを三人で茶化してアルマを照れさせたり初日とそこは変わらなかった。
庭園でメイド業を行っているときによく手伝いに来てくれたのはフィリップさんだった。
フィリップさんは嫌な顔一つせず、「みさと嬢に癒してもらえるならいくらでも手伝いますよ」なんて言ってくるものだからとても心臓に悪い。
けど悪い気はしない。
女性に対して紳士なフィリップさんは私が気にしない様にそう言ってくれているのはわかっていたけれど、少なくとも友達にはなれているはずだ。
そう感じるだけで嬉しい。
「陛下に謁見した後は孤児院や病院へ慰問訪問等、気が向いたらしてもらえると嬉しい」
そうカスパール殿下に提案されたのはそろそろメイド業が十日程になるかと言う時だった。
聖女は戦時中に呼ばれることが多いが、戦争が終わればそのあとは平和や癒しの象徴として振る舞う仕事がある。その一環で国民と触れ合い、王家へのイメージアップ作戦だ。
元の世界でも似たような事を企業や団体が行っていたし特に不思議に思わなかった。
「そこで明後日、前もってこれからみさと様が慰問訪問する予定の孤児院に一度顔を出してもらおうと思っているんだ」
「仰々しく言っていますがエレオノーラ嬢がみさと嬢と買い物に出かけたいらしく、私とカスパール殿下を巻き込んでお忍び訪問になります。
魔術局の方で成果が出たらしく、それを取引材料にカスパール殿下が折れました。
当然護衛も付きますし、安全には配慮します。
みさと嬢は聖女だというのを隠してエレオノーラ嬢の親戚という設定を忘れずに行動していただければと思います」
やった!エレオノーラないす!!
エレオノーラも私と出かけたいとずっと駄々を捏ねていた為恐らく待てなかったのだろう。
フィリップさんの軽く諦めた表情から何となく察する。
離宮を出て、初めての王都観光に私はワクワクが止まらなかった。
ついに離宮を出て王都観光に向かう一行、もちろん何も起こらないわけがなく物語は前に加速して進んでいく...。
次回、庭師のオジサンへのお土産をめぐってエレオノーラとみさとの大ゲンカ勃発!
デュエルスタンバイ!嘘です。
けど物語は進むと思います。
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