2.初めてのメイド業と庭師の二人のオジサン
「さあ!やるっ!ぞ!......大きいな服が...」
アルマと少しだけ仲良くなった翌日、彼女が朝食を持って来る前に予備のメイド服に着替えた私は少し困っていた。
アルマの身長が私より高くてメイド服の裾が長いのだ。
「......アルマが来たら別のサイズが無いか聞いてみようかな」
暇を持て余した私はアルマに引っ付いてメイドの仕事を手伝おうと思ったのだ。
カスパール殿下が言うには基本的にこの離宮から離れず、アルマと供に居れば安全らしいので暇を潰しながら身体を動かす妙案だ。
「後で掃除道具はアルマと一緒に取りに行くとして...シーツと...枕カバー、花瓶を一か所に...」
アルバイトをしていた時のようにアルマの仕事を観察して覚えていた事を今出来る限りしていく。
「流石にただ飯食らいはな~、この椅子重いな...」
床を掃除する為に家具を移動させていく。
コンコン。
「は~い、どうぞ~」
恐らくアルマだろう。朝食だろうか?
「みさと様、失礼いたします。朝食のご用意が出来ました」
そう言って部屋に入ったアルマは椅子を持ち上げている私を見やるとスッと近づいて椅子を取り上げたのだった。
数分後...。
「だからね?暇すぎて流石に何かしてないと落ち着かないのよ」
椅子を取り返そうとしたけれどアルマはびくともしないし、説明を求めて私を無言で見つめるアルマに簡単に説明をしたのだった。
「今してることと言えば、食べて本読んでアルマと話して寝るだけでしょ?ただ飯食べてるのもちょっと罪悪感あるし、何もすることがないのもちょっと...ね?」
「しかしみさと様は聖女様で在らせられます。侍女の真似事などなされているのが知れたら騒ぎになってしまいます」
「そこでアルマに協力してほしくて、アルマの新しい部下で侍女見習いとして、私動けないかな?この離宮内でアルマの近くなら安全だってエレオノーラも言ってたの」
必殺、”エレオノーラが言ってたの”をここで切る。
「.........可能ではあります」
「お願いできないかな...?」
「......承知いたしました。では業務中はミサさんとお呼びする許可を頂きたく」
「普段から呼んでいいよアルマ”さん!”。まずはこの部屋の掃除からだね。掃除道具を取りに行きましょう。」
「少々お待ちを、予備のメイド服とついでに掃除道具を持ってまいりますので今しばらくお待ちを」
「わかった。出来るところからやってるね」
そう言うとアルマは部屋から出て行ったのだった。
まあ、部屋は広いが毎日掃除している部屋を二人で掃除する為そう時間はかからなかった。
清掃のアルバイトをしていた経験もここで活かせたような気がする。
「案外すぐ終わったねアルマ。毎日綺麗にしてると掃除するところも少なくて済むね。けど分かっていても出来ないのよね~...」
朝食を摂りながら部屋を掃除した感想を漏らす。
「みさと様の過ごされるお部屋ですので清潔に保つのはマストでございますので」
「これからも手伝うわアルマ!」
「......今日だけでは無いのですね...」
アルマの顔が無表情を通り越した何かになる。
無表情から更に表情がなくなることなんてあるんだ...。
「そう言えばこのお花はアルマが摘んできているの?」
私が指さした先にある花瓶には色とりどりの花が咲いて半分ほど花瓶に収まっている。
「はい、なにかお好みの花などありましたら庭師に確認して活けてきますが」
「庭園かな?自分でお花を見てみたいのだけどいいかな?」
「...庭園で...御座いますか...。......絶対に私から離れないのを守っていただければ大丈夫です」
「行こう!アルマ!」
私は残りの朝食を食べ終わるとアルマの腕を取って部屋から庭園を目指す。
途中アルマが先を進んで私は斜め後ろから付いていく。
他のメイドさんや使用人がすれ違う時に、止まって会釈していく。
「もしかしてアルマって偉い人なの?」
「この容姿は目立つため、エレオノーラ様の専属従者だと知れ渡っているのでしょう」
「確かに整ってるもんね...目立つよね。凄いわ...」
「......恐縮です」
照れているアルマに付いていき、私は庭園まで到着した。
「庭師さんっているのかな?」
普段お茶会をする庭園では人払いがされており、人に会うことも庭園を散策する事もない。
けれど今の私は黒い髪は珍しいかもしれないが同じく黒髪のアルマと居るためかそこまで場違いではない筈。
「毎日手入れをしているはずです。ここは広いので区域ごとに毎日ローテーションで作業を行っているはずです」
「凄い手間暇かけているのね...」
「王家管轄の離宮ですので手を抜くことは無いかと」
なるほど、私は納得しながら庭園の散策を始めた。
本当は掃き掃除でもしようかと思っていたのだが入口近くはきれいに掃除されていた。
いつも後ろから付いてくるアルマが横に並んでいるのが珍しくて、つい花を愛でながらアルマに沢山話しかけてしまう。
アルマはあまり口数が多い方ではないがきちんと受け答えもしてくれるし、エレオノーラ自慢の従者である為か博識だ。
話していて楽しい。
そうこうしていると前方に脚立にのった人影が二人見える。
「おや、アルマ様。今日はお花を取りに来るのがお早いのですね」
脚立から降りて会釈しながら話しかけてきた麦わら帽子の二人のオジサンに遭遇した。
片方のオジサンは背が低めの優しい顔をしたオジサンで、もう片方のオジサンはかなりガタイがいいキリっとしたオジサンだった。
勝手な想像だけど細かい作業担当と力仕事担当なのではないかと推測する。
「...っ!!...はい、今日はこちらの......私付きの新人に庭園の案内を行っておりました。出来ればついでに今日のおすすめを幾本か頂ければと思っております」
アルマは庭師との遭遇で少しびっくりしたのか言葉を詰まらせてはいたが、先ほど決めた設定通り受け答えしてくれた。
私はと言うと人と関わってこなかった影響かすぐに言葉が出ない。
そんな様子を察してくれたのか分からないが、ガタイのいいオジサンが私に話しかけてくれる。
「初めまして、お嬢さん。私はこの離宮の庭園を任されているロバートと申します。こちらはヘンリー、同じく庭師でございます。どちらも身分は平民でございますので失礼がありましたら平にご容赦を...」
「いえいえ!私は...ミサと申します。アルマさんの下に今日から付きました!私も平民なのでお気になさらないでください!」
ここではヘタに貴族です!とか、詳しく言えないのですけれど偉いみたいです!なんて言おうものなら花の話が聞けないかと思って嘘を付く。
アルマの視線が滅茶苦茶痛いが許してほしい。
「ほほほ、では遠慮なくわしはミサさんとお呼びいたしますな!」
「わいもよろしくお願いしますね、ミサさん」
ガタイのいいオジサン、ロバートさんに背の小さいヘンリーさんと初めての邂逅だった。
それから今日のおすすめを紹介すると言ってお花の解説を交えて沢山お話した。
元の世界では聞いたこともないようなお花も多く、二人の庭師は私に沢山解説してくれた。
「そうだ!ミサさんや、今日は実は新しい花を植えようとしとったんじゃ。なあ、ヘンリー。どうじゃ手伝ってもらっては」
「わいは構いませんがお二人次第ですな~」
「え、ちょっt「やります!!やろうアルマさん!仕事よ!」」
私は別にお花が好きなわけではないのだが、この庭園はとても綺麗に整えてあって一つの芸術作品のようだ。
そうほめると二人は嬉しそうにしてくれた。
そんな庭園に私も手を入れる事が出来るなんて中々出来ることじゃない。
聖女ではなく、ただのメイドのミサである今だけかもしれない。
私が聖女だと知らない二人を前にアルマも余計な口を挟めない今がチャンスかも!
「初めてなのでご教授願いますでしょうか?」
「勿論もちろんじゃ。ほほほ」
それから張り切って私は少ない雑草を抜いて、土に肥料をあげて、ロバートさんとヘンリーさんの指示に従って作業していった。
植えるのはプロメニフィーア。
四季に応じて花弁の色が変化する花で春は白、夏は赤、秋は黄色、冬は水色と変化するらしい。
絶対に元の世界にはない花で今から咲くのが楽しみだ。
久々の肉体労働に中々体力を消費したのか、玉の汗が額を伝う。
「み、ミサさん。水分補給です。それと頬に土が付いています。動かないでください」
「ありがとうアルマさん」
「こうしてみると姉妹のようじゃな!なあ、ヘンリー」
「そうですな~もういい年ですじゃ、若い二人が手伝ってくれて助かりますな~」
「アルマさんにはイルマさんって妹さんが居るんです。アルマさんに似て綺麗な人で私なんかより花があるんですよ~」
「ミサさん、それくらいで...。私の話など...」
「照れておる照れておる。ほほほ。三人揃ったら三姉妹じゃな~。なあ、ヘンリー」
「ええ、そうでございますな~」
完全に私とロバートさんとヘンリーさんはアルマを揶揄って遊んでいる。
アルマは基本的にほめられるのが苦手だと私は見ている。
それはエレオノーラでも私でも庭師でも関係ないようだ。
「そ、そこで何をされているのですか...?」
四人で仲良く談笑しながら(アルマはもうタジタジであるが...)作業していると聞き覚えのある声に私は固まる。
まずい...まずい。私が聖女だと知っている数少ない人になんでこんな所で遭遇するんだ...。
恐る恐る顔を上げるとそこには顔を引きつらせて真っ青にしたフィリップさんがこちらを見ていた...。
ガン引きしてる顔もイケメンだと様になるのだなとそんな事をふと考えながら私はここをどう切り抜けるか考えを巡らせるのであった。
別にアルマが気に入っているから絡ませてるわけではないし、気に入っているから弄っているわけではない作者です。
ただ、こういう距離の詰め方だっていいじゃない...。
だんだん主人公が私の手から早くも制御を奪いつつあるエピソードでした。
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