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6.魔術師エレオノーラ・ド・シルヴァ

わたくしはエレオノーラ・ド・シルヴァ。

この国の重鎮であるシルヴァ公爵家の一人娘、ローエンベルク王国第一王子カスパール・ド・ローエンベルクの婚約者、聖女みさとの親友で家族、そして...。


「シルヴァ様!シルヴァ総括局長!」


「騒々しいわ、何だというの?あと長いからサヴァス様でいいと何度言えばわかるのかしら」


「はい、失礼しました。

魔導鋼鉄列車のエンジンに関してご相談が...各都市機能維持魔術の点検の前に聞いていただきたいことが...」


「向かいながら聞くわ、図面も術式もすべて頭に入っているわ。セファロ」


「はい、ではエンジン始動時に掛かる負荷に関してなのですが...」


わたくしは都市機能...上下水道から始まり照明、都市を覆う防御機構等、様々な機能を司る重要な魔術式の数々を点検し、合わせて魔力の補充をするためにここ、魔術局の中枢を目指して歩く。

道すがら副局長のセファロが報告されていない問題を報告して、わたくしが指示を出す。


セファロは元平民で今は一代限りだが伯爵である。

元々貴族主義であった魔術局を一新した時に丁度いい人材だったので登用した。

一新した時にいくつか”家”を物理的にも社会的にも潰したため、領地をあげると言ったのだが、研究ばかりでまともに管理できないと辞退された。

それでこそ魔術師だとわたくしは思う。

わたくしには立場がある為出来ない選択肢であるけれども。


「セファロ、”ビニールハウス”の研究はどうなっているの?あれは国の食料自給率に関わる重要なプロジェクトよ。問題が発生しているなら把握しておきたいわ」


「はい、やはり小型化とひいては量産体制に移る際コストがまだ課題として...」


わたくしの仕事は国の運営に必要不可欠な魔術を管理すること。

新たな魔術を作り出し、理論を固めて国の利益、民の利益とすること。


そして、戦争になった時に宮廷魔術師、”国の最大戦力”として敵を滅ぼすこと。


滅ぼさなくても良いのだけれど、戦争になった時点で色々手遅れであるとわたくしは考えている。

カスパール殿下とフィリップ様、陛下が避けられなかったのだ。そのもしもが起きたなら余程のことに違いないのだわ。


「成果を待ってはいるけれど、職員が倒れる前に止めてあげなさいな。わたくしも時間が空けば見に行くわ。他には?」


「よろしくお願いいたします。他には...」


この国は元は魔術を極めんとする言わばインテリサイキッカーの集まり、魔術と言う刃と叡智で自分たちを守ってきた。

先祖は自分たちの知識が必要以上に人や自然を破壊するのを恐れて自衛のために強い力を身に着けてきた。

魔術局はそんな魔術師達が研究に身を置く最前線。

わたくしはそれらを統括している。


わたくしがこの立場に立っている理由は至極簡単な理由からだった。


〝一番強いから〟


わたくしは幼い頃から他の貴族より魔力が多く、制御出来ずに屋敷を破壊していた。

そのような子供は自分の身体をも傷つけかねない為、魔術を使わない訓練を行うようになる。


両親がどうするか迷っている時、わたくしはみさとを頼った。

今思えば無茶ぶりだったのだろう。

狼狽えながら必死にわたくしの為に色々提案してくれるみさとに従ってわたくしは魔術の鍛錬を行った。


みさとのアドバイスは素晴らしい物ばかりだった。

みさとはどうやら”てれび”やあちらの世界にしかない魔導書を参考にしてくれたらしい。


わたくしの魔術師としての腕前は周りが畏怖を覚えるほど急速に成長していった。


もちろん横やり...まあ、自分の利権や立場を守りたい実力のない魔術師から命を狙われ始めてからは......


徹底的に反撃した。


当時十四歳で既に魔術局で、この国で頂点に立っていた。

そんな小娘を手に掛けようとする人間が他に罪を犯していないわけがない。

アルマとイルマとわたくしの魔術で叩いて叩いて叩きまくって埃を出した。

芋づる式で貴族を粛正していき、陛下から「摘発するのは良いんだけど、スピード感早すぎて色々追いつかない」と言葉を濁して言われても止まらなかった。


降りかかる火の粉を払いのけ、みさとから与えられる知識とアドバイスをまとめてわたくしは魔術局を一新、いままで燻っていた実力者を爵位に関係なく登用して一から組織を作り変えた。


みさとのおかげでわたくしは魔術を自分の手足のように理解して操れるようになった。

面倒事も抱える事も多いが明らかにメリットの方が多かったのだわ。


けれどここで問題が発生したのだわ...。

みさとに怖がられるのではないかと思ったの...。


ただでさえ周りからは畏怖の象徴、国民からは異次元の若さで魔術局の頂点に立つ次期王妃で、開発する魔術の幾つかは国民にも関係するため良くも悪くも関心を引いている。


だからみさとには少しぼかして自分の立場や仕事を伝えていたの。


それにみさとの知識、”いんたーねっと”なる物から教えてもらった知識を魔術の研究に当てた結果、発生した成果も多大なる物であったのだわ。

みさとの成果だと言っても誰にも聞く耳を持ってもらえなくて、悔しくて、それでも魔術局総括局長になるためにみさとに黙って知識を利用していた負い目もあったのだわ...。


魔術局総括局長になればわたくし個人の権力が手に入る。

その権力で召喚の儀を行い、みさとをこちらに呼ぶ。


わたくしの最終目的だった。


当初はもっとスマートにみさとを呼ぶつもりだったのよ...。

聖女としてでもなく、限られた人だけで召喚してわたくしの義姉妹として一緒に暮らすつもりだった。


あの日、頭の血管が煮えたぎってキレたような感覚がしてから割と無茶をしてみさとを呼んでしまったことをちょっと反省しているのだわ...。


都市機能に必要な魔力の一部を補充して、セファロから報告のあったチームに顔を出して意見を出していく。

全てわたくしが作っても良いのだけれど、そうなるとプライベートの時間が無くなってしまうので却下ですわ。


「あ、セファロ、明日からわたくし私用で忙しくなりますの。こちらに顔を出す頻度が下がりますわ。留意しておくように」


「はっ......。は!な、なんですと!?こ、困りますサヴァス様!この魔術局は言わばサヴァス様抜きでは...」


「情けない...。別に顔を全く出さないと言う訳ではないわ。それに王家が関わる事柄なのよ、最優先事項に変わりはないわ。

それに時間は掛かるでしょうけど進んでいるじゃない?

貴方の手腕の見せどころね、セファロ」


「ビ、ビニールハウスはよろしいので...?」


「よろしくないわ?倒れない程度に頑張って、自分を成長させつつ、成果を上げなさい。

あ~...あと、民の為を思って頑張りなさい」


「サヴァス様~...」


みさととゆっくり過ごす時間を確保する為に魔術局には犠牲になってもらうわ。

みさとに関する事だし、王家に関わる事でいいのよね?いいわね。

魔術局はいざとなればわたくしが本気を出せばいいし、カスパール殿下とみさと以上に優先する気は起きないわ。


帰りの身支度を終えて先ほどまで影を消していたイルマとセファロと共に魔術局の出口に向かう。

セファロはどうやらもっとわたくしに研究に入れ込んで欲しいようだけど、改革後の魔術局の質は格段に上がった。わたくしはそれほど自分抜きの魔法局を悲観していない。


「やあ、エレオノーラ。通りかかったんだ、一緒に王城までどうかな?」


「そんな訳ないでしょう、カスパール殿下。万が一の時の為にある程度王城と距離を離して魔術局が建てられているのをご存じでしょう。フィリップ様はご一緒ではないのですね」


「ああ、ちょっと仕事を頼んできたんだ」


「ここに来るために押しつけたのではなくて?」


「はは、今頃終わっているさ。さあ、お手をどうぞエレオノーラ」


セファロはもうそれはそれは気の毒に緊張した様子で頭を下げている。

カスパール殿下がこうやって迎えに来るのは珍しい事じゃないのだからそろそろ慣れてもいい頃よ。


わたくしを大事なものの様にエスコートするカスパール殿下を横目にわたくしはアルマとイルマにしか告げていないことを思い浮かべる。


幼い頃とても迷惑を掛けたカスパール殿下、今回の事だってとても迷惑を掛けた。


彼はそれでもわたくしの傍でいつもニコニコしている。

貴族同士の張り付けた笑顔でないのはわかる。

しかし自分を女性として愛してくれているのか分からなかった。


みさとのおかげで史上最年少ぶっちぎりで魔術局総括局長に躍り出た天才中の天才魔術師。

国の最終兵器、虎の子、規格外の戦力である宮廷魔術師。

建国時から王家を支え続けたサヴァス家とのつながりの強化。

これらは多少お転婆でも、すこし短気でも...す、すこし淑女らしくなくても...それを補って余りあるほどの付加価値。

それに幼馴染と言える付き合いの長さ。


手軽さや付加価値でこうして大事にされているのかもしれない...。

そう思ったら摩天楼の様に高くそびえ立った自信も萎れていくようだった。


本心では否定したい。

けれど、立場や自分の子供っぽい所、素直じゃないところがすぐに邪魔をする。


「エレオノーラ?どうしたんだい?」


馬車の中で頭を左手に載せて肘をついているカスパール殿下が不思議そうにこちらに問いかけてくる。


「いえ、考え事を...。いっそのこと王家も貴族も無くしてしまおうかと」


「いいね。そうすれば言い訳せずエレオノーラに会いに行ける。

ああ、だけどそうなると僕はエレオノーラにもう一度求婚して、今度は同様の地位のライバルから君を勝ち取らなくてはいけないのか。それは骨が折れそうだ」


カスパール殿下は不敬すぎるわたくしの発言にもノリノリで答えてくれた。


「カスパール殿下は立場に関係なくオモテになりますわ」


「エレオノーラにもかい?」


「さ、ささあ?どうでしょうか?す、少なくても仕事はサボらない殿方の方が好きですわ!!」


こう言うことを言うと後で言わなければよかったと後悔するのだと、みさとにもイルマにも言われるのだ。

事実なので痛いところですわ...。

アルマだけは両手をわきわきさせながら言葉を吟味して口を数回パクパクしてから最後にいつも「エレオノーラ様はかわいらしいです」と文脈と流れを無視した事を投げかけてくる。


「フィリップに特別休暇でも出すかな。

あ、そうそう。面白い報告をアルマから聞いているよ」


「みさと関連?わたくしが魔術局にいる間に何かありましたの?」


みさとがこちらに来てからそろそろ一週間。もしかしたら...無いと思いたいけれど、ほ...ホームシック...とか?ないわよね...?


「いや...そ、それがね...ふふふ。聖女様が...みさと嬢が...アルマの...ふふふ」


「な!何ですの?!気になりますわ!どうして笑っておられるの?!」


「ふふふ...みさと嬢が何を思ったのか、アルマのメイド服を借りて掃除をしていたらしいんだ...」


意味が分かりませんわ...。


「アルマが止めようとしても止まらないみたいでね...あはは。結局一緒に部屋の掃除に離宮の庭園の手入れまでしてたらしいんだ。僕は笑いが止まらなくてね、見に行ったんだ。まあ、本人が楽しそうだったからアルマに任せて君を迎えに来たんだよ」


「んでっ!なんで!それを早く言わないんですの!?」


「もしかしたら今頃仕事が終わったフィリップも合流して、言い含められて一緒に掃除しているかもしれないと思うと...ふふふ...笑いがこらえられない...」


こうしてはいられませんわ!

王城には転送魔術を防ぐ特殊な結界が張られているので直接は行けませんわ...。

それなら...。


わたくしはちんたら走っている馬車の扉を開けて上半身を馬車の外に出す。


「御者!スピードを上げなさい!大至急よ!」


御者が余程驚いたのか慌てて返事をしたのち馬車はスピードを上げる。

馬車を操る御者に指示して席に着く。

カスパール殿下はニコニコしながら...


「僕もエレオノーラのメイド服姿が見てみたいな。勿論僕専属だよ」


「そのときはカスパール殿下にも執事服を着ていただきます。仮装という事にしないと王家の威厳に関わります」


決してメイド服を着ないとも、着るのが嫌だとも言わない辺り本当に自分は素直ではない。

そう頬を膨らませながら、みさとの元へ急ぐエレオノーラだった。


初めてのみさと以外の視点でした。


みさとの中のエレオノーラの印象に変化はもちろんありませんが、皆さんのエレオノーラへのイメージに変化はあったでしょうか?


次回は、視点はみさとに戻って何が起こったのか、見ていきましょう


続き気になると思っていただけたらお気軽に☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとよろしくお願いいたします。

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