ムツの絵かき歌クイズ
※ぜひ皆さまも紙とペンをご用意して一緒にお考え下さい。
睦美──通称ムツは幼馴染み二人を前に退屈していた。
彼らは黙々と宿題に取り組んでおり楽しい雰囲気は微塵もない。
辛抱堪らず、彼女は右斜め隣に座る幼馴染みの虎之助に絡み始めた。
「ねーねートラぁ。そろそろ休憩しようよー」
「……」
虎之助の整った眉がピクリと動くが返事はない。
ムツはめげずに彼の腕に消しゴムを転がしてはぶつけ続けた。
「ねーねートラぁ。そろそろ休憩……」
「いや聞こえなかった訳じゃねーから。あえて無視してたと察しろよ」
シッシッとあからさまに邪険にされ、彼女の矛先は左斜め向かいに座るもう一人の幼馴染みこと孝幸に向かう。
「ねータカー。トラが冷たいんだけどー。具体的には熱帯魚なら死ぬレベルの冷たさ」
「そうか。熱帯魚じゃなくて良かったな」
「違うそうじゃない」
とうとうムツは「宿題飽きたぁ!」と机に突っ伏してしまった。
そのあまりにも高校生らしからぬ挙動に呆れたのか、先に折れたのは孝幸だった。
「……仕方ないな。トラ、休憩だ」
「チッ、あと三問だってのによ」
「まぁそう言うな。ムツの集中力はせいぜい四、五十分程度なんだから」
「私ゃ小学生か。そうやって私に甘いフリして軽くディスる所、嫌いじゃないけど好きでもないよ」
少しむくれながらも機嫌は良くなったらしい。
ムツは嬉々としてペンを握ったかと思えば唐突な提案をし始めた。
「じゃあさ、ゲームしない? 題して『何の絵描き歌? ゲーム!』」
「「は?」」
全く乗り気でない二人に構わず、ムツはルールを説明する。
「いい? 私が即興で絵描き歌を歌うから、二人はそれぞれ私が何を描かせようとしてるのか当てるの。勿論ちゃんと絵も描いてね」
「だりぃ」
「そうか? 暇潰しにはなりそうだが」
「俺ぁ絵は苦手なんだ」とガシガシ頭を掻く虎之助を宥めつつ、孝幸はムツに出題するよう促した。
「よっしゃ、解答の絵も描けたし……睦美、歌いまぁ~す!」
出題者:ムツ
※皆さんも一緒に考えてあげましょう※
♪
お団子 みっつ ありました
上に ゴマふたつ ついてます
真ん中には 黒豆がみっつ
お豆腐 上に 乗っけたら
ニッコリ スマイル 出来上がり
♪
「どう? 描けた?」
「まぁな。……意外と簡単だった」
虎之助の意外と素直な反応に、ムツはすっかり気を良くして胸を反らせた。
「でっしょ~? 我ながら結構分かりやすく歌えたと思うんだ!」
「確かに分かりやすかったな。俺も自信があるぞ」
「ふっふ~ん。さっすが幼馴染み! うちらはいつも以心伝心ってね!」
調子に乗り続けるムツを華麗にスルーし、二人は「せーの」で絵を見せ合った。
左側:虎之助解答:イモムシ
右側:孝幸解答:芋虫
「……ってちがーーう!!」
「どこが違うんだ。完璧じゃないか」
「意図せず向き合って仲良しイモムシだな」
「もう! 正解はこれだから!」
正解:雪だるま
「何だ雪だるまかよ」
「だが以心伝心ではあったな」
「いやその以心伝心グループに私も混ぜろし」
頬を膨らませながらも、彼女は「次、交代っ」とペンを握りしめた。
「仕方ねーな」
虎之助は思案気味に解答用の絵を描くと、やれやれと眉間に皺を寄せて歌いだした。
出題者:虎之助
※皆さんも一緒に考えてみましょう※
♪
三角おむすび ありました
縦長豆腐に 乗ってます
下から 跳び箱 ニョロニョロ とび上がる
周りに ヒトデが 浮いてます
♪
「……? あ! 分ぁかったぁぁ! けど跳び箱が分からん!」
「それ分かってないだろ。それにしても『握り飯』じゃなくて『おむすび』な辺りが子ども向けで意識高いな」
「ねー! トラって口悪いけど真面目だよねー。地味に歌上手いのもホント草」
「うっせーよお前ら」
何だかんだで盛り上がるムツと孝幸に悪態を吐きつつ、虎之助は二人の描いた絵を奪うように公開した。
左側:睦美解答:イカ
右側:孝幸解答:ロケット
「ありゃま……」
「これは……」
どちらも特徴は近い。
回答者二名に見つめられ、虎之助は居心地が悪そうに正解の絵を公開した。
正解:ロケット
「マージでぇぇ!?」
「ヒトデって言ったじゃーん!」と叫ぶムツに対し、二人は「うぇーい」とハイタッチを交わしている。
「俺らはいつも」
「以心伝心」
「えーい、やかましい!」
悔しげに「次、交代っ」と口を尖らせる彼女をどうどうと落ち着かせ、孝幸も解答用の絵を描きだした。
「しかし参ったな。俺は歌が苦手なんだが」
「意外と何とかなるし気にすんな。たかがゲームだ」
「あれ、トラが優しい? バグ?」
孝幸は小さく咳払いをすると、虎之助に小突かれているムツを生暖かく見守りながら歌い始めた。
出題者:孝幸
※皆さんも一緒に描いてみましょう※
♪
グラスに 三分の一 水入ってる
黒ごま 二つ へばりつく
小さな二つの突起 上部に生える
突起の 外側二ヶ所に 耳も生える
グラスの 右上上部に 墨掛かる
食いかけ ドーナツ 下に垂れ下がる
♪
歌い終えたその場に沈黙が訪れる。
最初に沈黙を破ったのはムツであった。
「いや……いやいや、何その歌詞!? 歌唱力も相っ当アレだったけど、歌詞に全部持ってかれたわ!」
「お褒めにあずかり光栄だ」
「褒めてないから! 言葉選びがちょいちょいキモかったんだけどホント何なの!?」
絵描き歌に相応しくない言い回しだらけじゃないか──そう突っ込みまくるムツの頭を虎之助が鷲掴んだ。
「確かに独特のセンスだが伝わりゃ問題ねぇだろーが」
「お褒めにあずかり光栄だ」
「いや流石に何で今のを褒められるんだよ。タカに対する気遣いを私にも分けろよ」
そのままワシワシと頭を揺さぶられながら、ムツは「せーの!」と絵を公開した。
左側:睦美解答:ゾンビ?
右側:虎之助解答:牛
「なん……だと……!?」
「いやお前の絵が何だよ。化け物じゃねーか」
「いやだって歌詞自体が化け物じみてたし」
両者互いにドン引きしながら解答を待つ。
孝幸は焦らす事もなく解答の絵を机に置いた。
正解:牛
「元の絵にだいぶ似ていたな。これが幼馴染みの力か」
「有難い縁だな」
「アレレーおっかしいぞー。私も幼馴染みなんだけどなー!?」
「がっぺムカつく」とペンを放る彼女を尻目に、虎之助と孝幸は目で合図を送り合う。
考える事は同じのようだ。
「おい、ムツ」
「んー?」
「俺とタカは一問ずつ正解。お前は全問不正解だったな」
「お、おう……」
嫌な予感がしたのか、ムツの表情が俄に引きつる。
自然と身構える彼女の肩を孝幸がそっと押さえた。
まるで「逃がさない」と告げるように──
「ムツ、選ばせてやろう。勝った俺達の言う事を一つ聞くか、負けたお前が一つ罰を受けるか」
「げ」
後出しルールはズルい、などとは言えない雰囲気だ。
流石のムツも真顔でにじり寄る幼馴染み二人の前では完全に気圧されてしまった。
「うぅ……それ、結局どっちを選んでも同じなんでしょ?」
「分かってんじゃねーか」
「すまないが諦めてくれ」
悪どい笑みを浮かべた二人は、息ピッタリに声を揃えるのだった。
「「黙って宿題やれ」」
「デスヨネー」
※このあとメチャクチャ宿題やった。
〈あとがき〉
彼女達は「新聞部ムツ、幼馴染みと三人で「転ばし桜」の噂に迫る!」に出ていたドタバタ三人組です。
(ジャンルは推理、短編です)
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筆跡の書き分けなんて出来ませんでした。