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酒を呑む。赤ワインとカンパリのカクテルを呑む。 カクテル名も、込められた意味も知らないが。
赤ワインは血を表しているそうだ。キリストの血だったか。今はこのことについて語る時ではない。
カンパリは仄苦く甘い。少なくとも私の口ではそうだ。
どうしてこの組み合わせのカクテルにしたのか。血の苦悩を表しているのかもしれない。
職人としての私の苦悩を。以前の職場で味わわされた苦しみを。そのことが脳裏に過ぎる。最早、過去の出来事でしかないのに。
書き吐き出さねば、この苦悩から解き放たれないというのか。それでしかないというならば、なんという視野狭窄なのだろうか。
だからこうして文章をしたためているのかもしれない。吞みながら手書きで書いているのはどうでもいいか。
私は職人だ。かつても、今も、これからも。最初はポンコツだったがね。しかし、仕事に打ち込み、真剣に取り組んでいれば、やがて実を結んでいく。努力の報いとしてだ。
評価されれば信頼される。私はそのような働き手でもあったのだ。成果を信頼できるほどの。
そして、気が付いたら柱となっていた。生産の柱に。周囲は寄りかかっていたのだろう。夢を見るほどには。
だが、災禍の夏が訪れた。それによって明らかになったのだ。私がいなければ生産することが滞ってしまうことが。総括に不在のお手上げを言わしめるほどに。
私の不在。それは床掃除のワックスがけ。2年目からやらされたもの。そこでもいつしか主力となっていた。おそらく私が率先者であったのが要因かもしれないが。
そして、夏はワックスがけが集中しやすい。そのため、いつも私が駆り出されていた。仕事ができるからという理由で。
バランスは、天秤は、傾いてしまったのだ。非統一の愚によって。それが不幸の始まりだった。
傾いたバランスを取り戻そうとして、愚かな選択が為された。大地の休息、つまり土曜日に仕事を集約したのだ。望まざる休日出勤の嵐。それによって私は悟った。
人を、相手を、見ないということは、実に愚かなことだと。信頼を損なうのだと。
嵐が過ぎ去った私の精神はボロボロだった。やさぐれてもいた。それでも働いていたがね。
秋から始まった嵐は冬に終わりを迎えた。転職という形で。コネを作る目的だったかもしれない。しかし、それが私としてはチャンスとなった。
その年の春にはもう辞めようと決めていたのだから。そのチャンスがわざわざ向こうからもたらされた。
そのチャンスを掴むしかない。そう思った。逃してしまえばチャンスは訪れないとも思ったから。
翌年の始まりの冬は穏やかなものだった。早期にワックスがけの解任。転職先に慣れるまでの実習で、遅い出勤が相次いだから。
その年の4月には無事に転職できたがね。
転職先で働いて、今も柱となっている。以前と比べれば天国に見えてくるほどに。
対照的に、以前の職場は衰退していった。そのことは後日呑みながら書くとしよう。
酒呑みの職人である私から言えることは、相手をきちんと見て、知ることだろう。メリットやデメリットを含めて。上手く扱わねば、大損害を引き起こしかねないのだからーー
《終》