もちかえったもの
異変が起こったのはそこからだった。
帰還した隊員達の体におかしな腫れ物が出来た。
首筋に出来たそれは、発熱と痛みをもたらしていく。
さすがに放置できないと切開手術が試みられた。
それで分かったのは、植物の根が埋まっていたこと。
それが首の神経系に根を張っていたこと。
「なんだこれは?」
手術をしていた医師はそういうしかなかった。
初めて見るものだ。
どうしてこうなったのか分からない。
分からないが、何かよからぬものだと思った。
すぐに根っこを切り取る。
首の神経、いわゆる脊椎に傷をつけないよう気をつけながら。
出来るだけその近くから刈り取るようにしながら。
そうして切断した瞬間。
患者の探検隊員が体が大きく跳ね上がった。
エビのように盛大に。
そして、そのまま事切れた。
「どういうことだ……」
目の前で起こったことを見て、医師は呆然とした。
結局、理由は分からなかった。
ただ、脊椎に根を下ろした植物が関係してるのではないかと考えられた。
あくまで予想や仮定だが、根をおろした植物が神経と同化してたのではないかと考えられた。
その神経が切断されて、探検隊員も激痛を感じた。
それが原因でショック死をした。
「まさかとは思うが」
あくまで予想だ。
真相は別にあるのかもしれない。
ただ、迂闊に根を下ろした植物を切断するのは危険ということは分かった。
その為、同じように植物を内包した腫れ物を持つ探検隊員への治療は躊躇された。
下手したら死んでしまうのだ。
迂闊な事は出来ない。
ただ、少しでも情報を掴むため、回収された一本の植物は研究所にまわされた。
まだ根っこだけの、首に出来た腫れ物の中に潜んでいたものを。
「しかし、これは」
それを聞いた研究者は、率直な感想をもらした。
「まるで芽吹く前の植物みたいだ。
土の中で根を張ってるような」
それが人体だったというのがおぞましい。
そんな研究員の言葉が真実だといわんばかりに。
他の探検隊員の首から茎が生えてきた。
双葉を付けて伸びるそれは、まさしく植物だった。
あまりのことに、目にした者達は呆然とした。
報告を受けた者達も、書かれた事実を疑った。
しかし、それは紛う事なき事実である。
探検隊員達は研究所に隔離。
可能な限りの調査が行われた。
ただ、体から生えてきた植物の採取は難しかった。
切断された途端に人が死んだのだ。
葉っぱ一枚でもちぎったらどうなることか。
それでも、調査のために研究員は心を鬼にした。
結果は同じだった。
茎を切断、あるいは葉っぱをちぎる。
そうした途端に隊員は死んだ。
激痛に身をよじらせて。
ある意味予想通りだった。
だが、そうして得た標本は貴重な研究資料になった。
そこから何かが分かるのでは無いかと期待された。
だが、芳しい結果は出てこない。
調べても通常の植物と極端に違うところは見当たらない。
基本的な構造は一般的な植物と同じだ。
ただ、人間から生えてくるという以外は。
そんな植物の経過観察も含めて、隊員達の世話も行われる。
幸い隊員達は自発的に動く事は出来た。
意識がないままに、理性を感じさせないものだったが。
ふらふらと歩き、手にしたものを食べようとする。
ただそれだけだった。
むしろ、食べるために動き回ってると言う方が正しいだろうか。
そうとしか言えないほど、隊員達の行動は食べることに限定されていた。
そうして何ヶ月かして。
隊員達の頭の上に花が咲いた。
隔離された部屋の中で、人の頭の上に不気味な花が開いていた。
その花はやがて枯れて種を残した。
かろうじて目に見えるくらいの小さな種を。
それに合わせるように、隊員達も痩せ細っていった。
植物が枯れるように。
「種を作るために、栄養を根こそぎ奪われたのでは?」
ある研究員はそんな予想をした。
否定できない不気味な説得力があった。
更に。
それから何ヶ月かして、今度は隔離された部屋に草が生え始めた。
それが探検隊に生えたものだとすぐに判明した。
「すぐに燃やせ!」
話が伝わるや否や、即座に処分が決定された。
「とんでもない繁殖力をもってるぞ。
人間にまで寄生する。
そんな危険な植物、残らず燃やせ」
指示は即座に実行された。
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