調査と採取と接触
探検隊はそこから更に歩いていく。
標本として花を幾つか抜いていく。
土も採取していく。
他にも、手にとれるものは何でも確保していく。
初めて来る土地だ、何が希少なのかわからない。
手当たり次第に確保するのが基本である。
そうして動いてるうちに現地人と出会った。
見た目は探検隊と大きな変わりは無い。
どこにでもいそうな人間だった。
だが、一見してわかる異様な部分がある。
「なんだあれ?」
驚きと困惑の声があがる。
それもそうだろう。
そこにいた者は、頭の上に花をのっけているのだから。
「この地域の風習か?」
「さあな」
何にしても風変わりに見えた。
だが、近づいて現地人の姿がはっきりすると、更なる異様さに気付く。
花をのっけてると思ったがそうではない。
人から花が生えてるのだ。
首の後ろ側から茎が出て、それが頭に巻き付きながら頭上に出ている。
何がどうしてそうなってるのか分からない。
ただ、明らかに異常だった。
「どうします?」
声をかけるか、このまま様子を見るか。
それとも撤退するか。
隊長に次の行動を求めていく。
「…………写真はとれるか?」
「ええ、大丈夫です」
「なら、あれを撮影してくれ」
そういってまずは写真がとられた。
それから、近寄って声をかけることになった。
襲われたら即座に撤退することにして。
一応、銃で全員武装している。
危険な獣や、原住民との戦闘に備えてだ。
最悪、これで応戦しながら逃げることになる。
そうした警戒は、今回の場合は取り越し苦労で終わる。
相手は決して攻撃的な態度をとらなかった。
ただ、友好的というわけでもなかった。
「もしもし」
声をかけても返事が無い。
そもそも反応が無い。
無表情にゆっくりと動く。
それが仕事なのか、花の世話を続けている。
おかしいと思って更に接近。
目の前に立ってみる。
だが、反応らしい反応は無い。
まるで、目の前にいる探検隊員が見えてないようだった。
「……正気じゃありませんよ、あれは」
接触を試みた隊員が隊長に告げる。
「なんていうか、こっちを見てないというか。
そもそも意識があるように思えません」
「ふむ…………」
「なんなんですかね、まるで…………そう、夢遊病者っていうんですか。
話に聞いただけですけど、そんな風に思えます。
夢を見てるような、そんな調子で歩いてというか」
「なるほどな」
それを聞いて隊長は決断をした。
「その感想を記録に書いておけ。
それでここから撤収する」
それが隊長の判断だった。
脅威にさらされたわけではない。
攻撃を受けたわけではない。
だが、何かがおかしいのもたしか。
そういった場合、即座に撤退することになっている。
合理的な理由がなくてもかまわない。
むしろ、そんなもの無くて良い、場合によっては邪魔になる。
それよりも、おかしいと感じた瞬間に撤退することが求められていた。
何があるか分からないのが秘境である。
思いもよらない危険があるかもしれない。
そんな時にはその場から即座に撤退する方が良い。
大丈夫大丈夫と思って危険にはまるよりは。
大切なのは生きて帰ること。
情報を持ち帰ること。
それが最も優先される。
この基本的な原則にのっとって、隊長は帰還を選択した。
その後、何事もなく拠点に戻り。
採取したものを本国に送る。
探検隊も調査報告をまとめて一旦帰国。
次の指示を待つこととなった。
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